中国のグレーゾーン戦争で多用される経済的威圧

2023/01/10
更新: 2023/01/10

中国は、経済的な威圧を使って軍事大国を屈服させようとしている。その結果はさまざまだ。この圧力に屈した国もあれば、中国との貿易や中国人観光客の受け入れに代替手段を見出した国もある。

その仕組みはこうだ。中国政府は、さまざまな理由をつけて、自国の利益に反する国々を脅し、貿易制限を課している。戦略国際問題研究所(CSIS)などが挙げている懲罰的措置には次のようなものがある。

  • オスロに本部を置くノーベル委員会が中国の人権活動家、劉暁波氏に平和賞を授与したことを受け、中国は2010年にノルウェーからのサーモンの輸入を停止した。
  • 2016年に米国が韓国に対ミサイル砲台を配備した後、中国は韓国での中国の観光、娯楽、消費財を制限した。
  • モンゴルは2016年、中国が危険な分離主義者と見なすダライ・ラマ13世を受け入れたことで、経済制裁を受けた。
  • さらに、オーストラリア政府が国内政治への外国の干渉を禁じ、新疆ウイグル自治区や香港における中国共産党の人権侵害を批判し、新型コロナウィルスの原因について独立調査を求めた後、中国はオーストラリアに貿易制裁やワインなどの製品に対する高関税を課した。
  • その数か月前にナンシー・ペロシ下院議長(当時)を含む米国議会代表団が台北を訪問して以来、中国は2022年12月においても、海産物、ビール、柑橘類、砂といった台湾からの輸出製品を拒否している。

中国政府は、自治権を持つ台湾を自国の領土と主張し、必要であれば武力で台湾を奪取すると脅しを強めている。

中国の輸入禁止措置の共通の特徴は、対象となる産業が中国市場に大きく依存していることだと、オンラインニュース誌「ザ・ディプロマット」は2022年12月中旬に報じている。一方、ベルリンの研究機関メルカトル中国研究センター(MERICS)によれば、中国政府は自国経済への害を最小限に抑えようとしている。

「ザ・ディプロマット」誌によると、中国政府は、経済制裁や非公式の不買運動が懲罰的なものであることを否定し、代わりに台湾からの輸入禁止などの事例では、輸出者の商品登録情報が遵守されていなかったと主張している。

2010年2月から2022年3月までの間に、世界中で123件の中国による経済的威圧があったと、メルカトル中国研究センターは2022年8月に報告している。中国は、民衆ボイコット、行政手続きと規制による取締り、空虚な脅し、法的防衛貿易措置、貿易・観光制限の6つの戦術を採用している。

「米国を拠点とするシンクタンク、ジャーマン・マーシャル・ファンドでアジアとインド太平洋を専門とするボニー・S・グレーザー氏は、2021年12月に米国議会の対中国委員会で「従来の経済制裁とは異なり、中国政府の経済的威圧は通常、もっともらしい否認権を与え、必要に応じて圧力を上げ下げできる非公式な措置に依存している」と証言している。

多くの場合、威圧は中国の主権や国家安全保障に関わる軽微な出来事をきっかけに行われ、最近では、中国が国の国際的イメージを損なうと考える行動や、中国企業の海外での扱いに影響を与えるような行動も増えている。メルカトル中国研究センターのチーフエコノミスト、マックス・ゼングラインは、2022年10月に「ザ・ディプロマット」誌に、「中国政府が望ましくないと考えるような行動をとれば、経済的コストが発生するという強力なシグナルが政府と企業の両方に送られる」と述べている。

中国の経済的な圧力により、一部の国や企業はその要求に応じるか、謝罪することを余儀なくされている。また、こうした経済的威圧の対象となった事業者が新たな市場を求めた場合もある。

例えば、台湾の経済部は、これまで中国向けだった水産物の流入による国内価格の下落に対応しながら、国内業者が他の国外市場への販売を行うことを支援していると、カナダ・アジア太平洋基金が2022年12月中旬に報告している。また、台湾の農業委員会は、中国以外の海外市場への水産物の輸送費を補助する予定だ。

さらに、オーストラリア・インド経済貿易協定は、インドの重要鉱物の中国への依存度を大幅に下げるとともに、中国の高関税の対象となっているオーストラリアのワインなどの製品の代替市場をもたらすと、マレーシアの「ザ・スター・オンライン」が2022年12月に報じている。

戦略国際問題研究所によれば、中国の懲罰的な経済措置を無効にするためには、同じ志を持つ国同士の連携が有効だという。また、このようなパートナーシップは、国際関係構築のリーダーであると自認する中国のイメージダウンにもつながる。

Indo-Pacific Defence Forum