5年前に通信詐欺容疑でポーランド当局に逮捕され、中国が送致を要求していた台湾人男性について、台湾法務部は5日、身柄引き渡しをポーランド政府に申請した。欧州人権裁判所(ECHR)は先月、拷問や人権問題を理由に中国の容疑者引き渡し請求を却下した。中央社が5日、報じた。
スペインで活動していた大規模なオンライン詐欺グループの一員だった台湾人の劉宏濤氏は、国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)が発行した国際指名手配書によって、2017年にポーランドで逮捕された。
後に下ったポーランド裁判所の中国移送の決定に対し、劉氏は、基本的人権の剥奪や公正な裁判への保護を定めた欧州人権条約に違反するとして上訴。ECHRは今年10月6日、拷問や虐待の恐れがあるとして中国には引き渡しをしないと全会一致で決定した。
ECHRが中国に関わる身柄引き渡し案件を審査した初めての例となった。人権NGOセーフガード・ディフェンダーズは、この判決を「欧州の中国への身柄引き渡しに終わりを告げる画期的な判決」としている。
台湾法務部は、事件に対する合法的な管轄権を主張し、台湾の刑事司法制度のもと劉氏を告訴する用意があると強調。同氏の身柄を引き渡すための台湾とポーランド間の刑事・司法上の合意を調査するとした。
中国引き渡し後は安否不明
劉氏が所属していた約260人の詐欺グループは、主に台湾人で構成されていた。スペインと中国の合同警察活動により、2016年から2017年にかけて摘発された。
セーフガード・ディフェンダーズが3日に発表した報告書によれば、スペインの裁判所は、ECHRからの忠告や台湾からの抗議を無視し、2017年から2018年にかけて台湾人約208人の中国への引き渡しを承認していた。現在、中国に移送された台湾人のうち数人とは連絡が途絶え、安否が確認できていない。
ECHRは今回の判決理由として、中国が拷問禁止委員会への報告提出を拒むなど、国連機関への協力を拒否していることを挙げた。また、中国がポーランド当局と非公式に劉氏の中国移送を決めたことは、正当性に欠けると判断した。
セーフガード・ディフェンダーズは、劉氏が一般犯罪で告発され、中国共産党の迫害対象となっている宗教団体や少数民族、反体制派に属していないため、中国にとって最も引き渡しを求めやすいケースになったとしている。
過剰支援などを通じた強制送還
中国共産党は諸外国政府に働きかけて、ウイグル人や人権活動家、法輪功学習者など在外華人を対象に強制送還を求めてきた。セーフガード・ディフェンダーズによれば、2014年以降、中国の「キツネ狩り」や「天网(スカイネット)」作戦を通して世界各国から中国に移送された中国人は一万人に上る。
中国共産党当局は2014年、ケニアに対して「友好的な政府関係」を呼びかけ、通信不正の疑いでケニア首都ナイロビにいる中国人と台湾人を中国本土に移送させた。移送はグループがケニアで無罪判決が下った後も続き、このうち少なくとも台湾人2人が中国国内の裁判で「自白」する様子が中国国営テレビで放送された。
また、中国共産党はパキスタンへの過剰支援を通じてウイグル人送還を協力させていたとことも、ウイグル人権プロジェクトなどが昨年まとめた報告書で明らかになっている。
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