億万長者のビル・ゲイツ氏は、ケニアやインドで使われている遺伝子組み換え作物(GMO)を例に挙げ、食糧不足に対抗する方法として「魔法の種」の利用を推進している。
「魔法の種」とは、アフリカの作物研究者のグループによって開発された新種のトウモロコシに、ゲイツ氏がつけた言葉だ。ビル&メリンダ・ゲイツ財団は12日に発表した報告書のなかで、特定のトウモロコシを品種改良することで、より高い気温と乾燥した気候に強いハイブリッド作物を作り出したと述べた。この新しい作物「DroughtTEGO」は、ケニアで1エーカーあたり平均66パーセントも多くの穀物を生産したと、ゲイツ氏は主張している。
ゲイツ氏は、遺伝子組み換え作物の普及を後押しするもう1つの例として、インドのパンジャーブ州を挙げた。気候変動により収穫に影響を受けていた同州の米農家は、早生の品種を使うことで、栽培期間を3週間短縮できたという。また、小麦の作付け時期を早めることも可能になったと述べた。
ゲイツ氏は、農業の生産性を高め、食糧問題への解決策として、「魔法の種」への投資を呼びかけている。
また報告書では、ウクライナやイエメンでの戦争、パンデミック、気候・食糧危機の影響が、持続可能な食料生産を達成することを目指す「2030年アジェンダ」にマイナスの影響を与えていると指摘。
12日のプレスリリースでゲイツ氏は「数々の危機の中で進展が妨げられるのは、驚くことではない」と述べた。
失敗したAGRA計画
ゲイツはこれまでにも農業プロジェクトを推進してきたが、大きな成果を上げることはできなかった。その一例として、2006年にゲイツ財団とロックフェラー財団の出資で立ち上げられた「アフリカ緑の革命のための同盟(AGRA)」が挙げられる。AGRAは、飢餓と貧困を減らすためにアフリカへの投資を増やすことを目的としていた。
アフリカとドイツの市民団体による報告書によると、AGRAが14年間活動し、アフリカに10億ドル以上の資金を投入しているにもかかわらず、同団体が活動した国々では農業生産性が向上したという成果はほとんど見られなかったと指摘している。
実際、この期間に栄養失調となった人の数は3100万人以上増加した。タンザニアでは、農業者は混作を行わないという条件の下でのみAGRAプロジェクトへの参加が認められた。その結果、生産コストが上昇し、作物の多様性が損なわれた。
またルワンダでは、一部の農民が畑で合成肥料を使うことを強要されたほか、ケニアでは、農民が受け取るトウモロコシの品種、肥料、農薬を選ぶことができなかったと、報告書は指摘している。
ゲイツ氏は遺伝子組み換え作物の使用拡大を推し進めるだけでなく、人工肉への移行も呼びかけている。同氏は、昨年MITテクノロジーレビュー誌のインタビューで、気候変動対策として、世界が動物の幹細胞から作られる「合成牛肉」を取り入れるべきだと述べた。
農地の購入
ゲイツ氏は、米国最大の個人農地所有者としても有名だ。現在、東京ドーム約2万2000個分となる27万エーカーの農地を所有している。
掲示板型ソーシャルニュースサイト「レディット」で、これほど多くの農地を購入した理由について尋ねられたゲイツ氏は「農業部門は重要だ。より生産性の高い種子を使えば、森林破壊を避け、アフリカが直面している気候変動への対処を支援することができる」と発言した。
7月、ダスティ・ジョンソン米下院議員は、米下院農業委員会のデビッド・スコット委員長に書簡を送り、ゲイツ氏が購入した広大な農地について委員会で証言するよう求めた。
(翻訳編集・徳山忠之助)
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