テクノロジー AIに怯える人類

AIがもたらすものとリスク(上)

2024/06/13
更新: 2024/06/13

論評

人工知能(AI)について考えるとき、アメリカのビジネスの権威であるマーク・キューバン氏の「一夜にして成功するのに20年かかる」という言葉を思い出す。

AIの場合、彼の見積もりは3倍外れている。

アラン・チューリング氏が「コンピュータ機械と知能」を書いてから74年、AIという言葉が造られてから68年が経ったが、今や誰もがAIについて話している…ジャーナリストも含めて。

なぜなのか?

それは誰もがAIに仕事を取られることを恐れるからだ。さらに抽象的に言えば、これまでの技術革新が、常に人々を不安にさせてきた過去があるからだ。実際には、それによって誰が仕事を失うかが分からないからだ。

メアリー・シェリー氏の著作『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』は、技術楽観主義に対する警告として広く知られている。この本はより古い起源にまで遡る。プロメテウスは、人類に最初の高度な技術、すなわち火を与えたためにギリシャの神々に罰せられた。

同じ神々は、人類を罰するためにパンドラを地上に送り、彼女が誤って、箱の中から、世界のあらゆる苦しみを解き放った。

パンドラの話は、『2001年宇宙の旅』の殺人的な支配を取る最新型人工知能、HALや、『ターミネーター』シリーズのジェノサイド的なロボットネットワーク、スカイネットにも似ている。

技術に対する恐怖は古くから存在し、AIが人工意識を獲得するのではないか、あるいは何らかの勢力によって世界を破壊する脅威に転用されるのではないかと懸念されてきたし、今も不安を煽られている。

しかし、これらの恐怖を脇に置いておくと、なぜAIが私の仕事を脅かすのか?

AIは、生産性を向上させるために、人間が現在行っている仕事を引き受ける形で進化してきた。多くの技術的進歩は、その影響が、特にその悪影響が事前には見えないことがあるものの、人間の仕事を引き受けるという役割を果たしてきた。

産業革命の際には、動力織機が何千人もの織工の仕事を奪い、これは当時の織工らはすでに予見していた。同様に、デスクトップコンピュータ、そして現在のノートパソコンは、最初に何千人もの秘書職、次に事務職、さらには専門職の仕事を奪った。

これは悪いことか?

私たちは、100年前に持っていた同じ仕事をしているわけではなく、多くの場合、新しい仕事が生まれてきている。

AIとは何か?

AIを「自動化されたデータマイニング(データ採掘)」として捉えるのが一番良いだろう。つまり、人間がデータセットの中でパターンを探す代わりに、コンピュータプログラムがその役割を果たす。

最近のAIの盛り上がりは主に、大規模言語モデル(LLM)によって引き起こされている。例えば、OpenAIのChatGPTは、MicrosoftのBingに統合されており、インターネット検索で利用できる。

LLMは、会話型の擬似人間フロントエンドをシステムに追加するので、通常の単語や文章を使用してシステムに質問すると、システムが応答する。彼らと議論することさえできる。

「チューリングテスト」という概念がある。アラン・チューリングは、もし機械が本当に知的であるなら、その機械と会話しても人間と区別がつかないだろうと考えた。

最近、ChatGPTにこの話題について質問してみたところ、まるで「スター・ウォーズ」のC3PO、ぎこちない会話をするプロトコルドロイドと話しているような感じがした。

ある意味ではチューリングテスト(「機械は考えることができるか」という問いに対して 1950 年にチューリングが唱えた検証法)に合格しているとも言えるが、逆に考えれば、これはチューリングテストが適切ではないことを証明している。

ChatGPTの回答はまずまずで、大学1年生や2年生の講義であれば7点満点中4点か5点程度の評価を受ける内容かもしれない。しかし、3年生になると講師からはもっと厳しい評価を受けるだろう。

私が疑問に思うのは、AIが知能を持っているかどうかではない。もしAIと平均的な学生の区別がつかないのであれば、、たとえ大企業や官僚機構を管理する資格を得たとしても、平均的な学生は、AI並みと言えるのだろうか?

ニュースメディアにおけるAIと雇用の変動

一方で、ニュースメディアがAIを使って記事を書かせるようになると、何百人ものジャーナリストが職を失う可能性がある。

さらに、既にAIはウェブサイトのコンテンツ作成にも使用されており、文章力を必要とする職も就職難になるかもしれない。

この懸念は確かに一理ある。1984年以降、情報、メディア、通信分野で働く人々の一人当たりの数は43%減少している。これは実際の数字より少なく見積もられている可能性が高い。

1984年から2007年にかけて、1人当たりの情報・メディア・通信分野での雇用は19%増加し、2007年にはピークを迎えた。しかし、その後の17年間で71%の減少が見られた。絶対数ではそれほど悪化しておらず、現在の雇用数は1995年と同じ水準だが、全体の労働人口は78%増加している。豪州のニュースコーポレーションが600のポジションを削減しようとしていることを考えると、おそらく事態は悪化するだろう。現在のニュース制作の経済状況が悪化しているため、どこかで経済効率を見つけなければ、既存の機関が倒産するリスクがある。

 

オーストラリア進歩研究所専務役員です。www.onlineopinion.com.au の編集者兼創設者であり、2001年より豪州政治に関する定性調査を行っています。オーストラリアン紙、オーストラリアン・フィナンシャル・レビューに寄稿し、ABCラジオ・ブリスベンの編集者をも務めています。