四川省の計画停電、太陽光パネル・リチウム電池の原材料などが減産

2022/09/14
更新: 2022/09/14

記録的な猛暑により計画停電を実施した中国・四川省では、太陽光パネルリチウムイオン電池の原材料の生産や出荷に大きな影響が出ている。

中国最長で世界でも3位の大河である長江の上流に位置する四川省は、豊かな水資源に恵まれている。

8月20日付の四川日報によると、8月は連日最高気温が40度を超え、四川省の水力発電の水量が平年より5割以上減ったため、電力需給がひっ迫した。同省では、電力供給の8割が水力発電によって賄われている。省政府は同月15日から工業企業に対して6日間の計画停電を実施し、工場の操業停止を求めた。省政府はその後、月末の計画停電をさらに2回にわたり延長した。

中国政府は2016年にエネルギー政策の一環として、石炭火力発電設備の縮小を図り始め、四川省を「水力発電の四川」と位置づけ、同地域でのグリーン電力(主に水力発電)による電力需給を強化しながら、同省へのハイテク産業誘致に力を入れた。現在、同省における水力発電設備は省全体の発電設備の8割を占めている。

8月中旬から約2週間続いた停電の影響で、太陽光パネルの原材料となるポリシリコンの生産工場では、取引先への納品は10~15日の遅れが生じた。中国有色金属工業協会シリコン分会は、中国8月のポリシリコンの生産量は予測より8%減少するとの見通しを発表した。晶科能源(ジンコソーラー)などの太陽光パネル大手は四川省に生産拠点を置いている。

国際エネルギー機関(IEA)が7月に発表した調査報告書によると、21年の時点で、中国のポリシリコン生産能力は世界全体の80%を、シリコン生産能力は97%をそれぞれ占める。

いっぽう、中国政府の見通しでは、23年までに四川省楽山市でのポリシリコン生産能力は中国国内生産能力の半分に達するという。

中国業界情報サイト「上海有色網(SMM)」の統計では、7月に四川省で生産されたシリコンは6万5600トンで、国内供給総量の21%を占める。

リシア輝石は、車載電池に使われるリチウムの原材料である。四川省のリシア輝石の埋蔵量は中国国内1位を誇り、同省はリチウム化合物の主要生産地で、その生産能力は中国全体の3割を占める。

過去数年間、四川省は豊富なリチウム資源と比較的安価な電気料金プランの下で、多くの車載電池メーカーが同省に生産ラインを設けた。同省遂寧市は、リチウムイオン電池関連企業に対し、1キロワット時当たり0.35元(約7.3円)の電気料金プランを提供する。これは中国東部の業務用電気料金プランの半額となる。

中国リチウム業界トップ企業の天斉鋰業は遂寧市に、米電気自動車(EV)大手テスラの主要電池供給先である寧徳時代新能源科技(以下、寧徳時代)は宜賓市に、それぞれ生産工場を設置している。寧徳時代は世界のEV用電池メーカーである。

上海有色網によれば、8月15~20日までの四川省の停電で、中国の炭酸リチウムの生産量が1120トン、水酸化リチウムが1690トン、リチウムイオン電池の三元系正極材(NMC)は500トンとそれぞれ減少した。

上海市に生産拠点を置く米テスラと自動車メーカーの上海汽車集団はこのほど、上海市政府を通じて四川省政府に書簡を送り、四川省のサプライヤーへの電気供給を優先するよう求めた。

四川省成都市にある日本の自動車メーカー、トヨタとドイツ同業のフォルクスワーゲンの合弁会社も操業停止を余儀なくされた。トヨタは8月22日、自家発電を利用して稼働を再開すると発表した。

水力発電に大きく依存するエネルギー政策と、エネルギー多消費型産業の集積の落とし穴は、今年の「60年間で最も暑い」という熱波によって露呈された形となった。

国連砂漠化対処条約(UNCCD)は5月、『数値で示す干ばつ現況 2022年版』を公表し、世界各地での干ばつリスクの急上昇を警告した。

同報告書は、2000年以降、干ばつの発生頻度と継続期間は29%増加したと示した。1998~2017年までに発生した干ばつによる経済的損失は世界全体で1240億ドルにのぼる。「今後数十年間に129カ国で干ばつが増加」して、気温上昇で2100年までに「干ばつ被害は現在の5倍になる」という。

張哲
張哲