台湾海峡の危機、不動産バブル、人口の男女比不均衡…共産党体制下の中国をめぐる不安定材料は尽きない。著名投資家でファンドマネージャーのカイル・バス氏は外国資本に対して「中国投資を中止すべきだ。そうしなければ、全資金を失うリスクに直面する」と警告している。
ヘイマン・キャピタル・マネジメントの創設者で最高投資責任者(CIO)のバス氏は、リーマンショックを招いた米国住宅バブル崩壊で空売りし、巨額資金を得たことで知られる。かねて中国経済に否定的な見方を示してきたバス氏は、「中国経済は不安定な状態にあるだけでなく、台湾に対する攻撃的な姿勢が軍事衝突へと発展すれば、ドル建ての金融市場から直ぐ切り離され、すべての外国投資が一瞬にして失われる可能性がある」と指摘する。
不動産市場の崩壊
「最も差し迫った問題は、中国の不動産市場の内部崩壊が迫っていることだ」とバス氏は投資関連会社ウェルシオンのインタビュー企画で語っている。
中国共産党政権は数十年にわたり、国内総生産(GDP)の数字を上げるために不動産建設を利用し、人々に貯蓄を住宅につぎ込むように促してきた。その結果、市場は瞬く間に投機に走り、不動産価格は高騰した。
しかし、中国の不動産市場は昨年すでに限界に達したとみられ、一流都市の住宅価格の中央値は国の所得の中央値の36倍になった。バス氏は、米国の2007年の住宅暴落以前、住宅価格は所得の中央値のせいぜい6倍だったと指摘する。
この経済危機は中国の人口問題をさらに悪化させた。「一人っ子政策」によって何百万人もの強制中絶や不妊手術が行われた。2020年、中国の人口は「結婚年齢」とされる20歳から45歳の年代で、男性が女性より3000万人も多い「男あまり」の状態にある。
「中国の男性は大学を卒業すると親元の保護下に戻ってしまうので、交際も結婚もせず、子孫繁栄もしない」とバス氏は語る。生産年齢人口の減少による経済的な破綻を避けるため、中国共産党政権は一人っ子政策を撤回せざるを得なくなった。
そして、ブームの過ぎた不動産は不良債権化のリスクを抱えることとなる。中国の民間不動産調査大手、中国指数研究院が1日に公表したデータによると、国内100都市の新築住宅価格は8月に前月比0.01%下落した。 北京や上海などの1級都市では0.08%下落し、7月は0.16%下落した。
「習近平指導部が提唱する解決策は、政府が不動産投機を抑制して住宅価格を強制的に引き下げることである。しかし、手頃な価格の住宅が増えるということは、同時に多額の負債を抱えたデベロッパーの資金が大幅に減るということだ。負債が不良債権化すれば、それに投資した人たちは資金を失うことになる」とバス氏は警告した。
「中国のデベロッパーのうち約10社は現在デフォルトの状態にあり、今後もそれが続く。あなたが欧米の債券保有者なら、見返りに何を得られるのか」。
また、中国共産党政権は金利を引き下げることで需要を喚起しようとしているが、その成果は乏しいという。「金利を引き下げても消費者の反応はなく、私の知る限りでは、中央銀行を悩ませている」。
また、中国の家計は資産の多くを不動産で保有しているため、住宅価格の下落は「個人消費を減退させる」。
政府は最終的に人民元を増刷して市場を救済することができるが、それは国内でのみ有効だという。外国人投資家はドルで支払われることを期待している。中国は約3兆ドルの外貨準備を主張しているが、その資金が実際に利用可能かどうか疑わしいという。
台湾への好戦性 「カミソリの上」を歩く中国
「中国の内部市場がこれほど貧弱であるなら、外部でどのように機能するのか。特に台湾に対する新たな軍事的好戦性を考えると、カミソリの上を歩いているようなものだ」とそのリスクを強調。「台湾侵攻は、中国経済をそのままトイレに投げ捨てるようなものだ」と続けた。
最近、中国共産党は台湾に対してより攻撃的な姿勢をとり、台湾海域にミサイルを撃ち込んでいる。直接的なきっかけは、ペロシ下院議長の台湾訪問だったが、政権は何年も前から台湾占領の要求をエスカレートさせてきた。
バス氏は、中国が24か月以内に台湾に攻め入る可能性が50%以上あると推測。
「彼らが台湾をめぐり行動を起こすことは避けられない。そうなれば中国企業に投資している人々にとって、全体の流れが変わることになるだろう。今まさに、そこから飛び出す必要がある」と助言する。
ウクライナを侵攻したのち、ロシアの金融機関はSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除され、主要な市場から締め出された。また、中国の国家安全維持法が香港で施行されると、米国は香港の優遇措置を停止した。
このように、中国共産党が台湾を侵略すれば何らかの対中制限措置が下されるとバス氏は見ている。「中国が台湾を侵略すれば、米国は中国をSWIFTから切り離すだろう。水面下では今まさに話し合っている」。
中国のクロスボーダー取引の約85%はドル建てであるため、中国の対外貿易を麻痺させることになる。
中国への海外投資のリスク
最近、中国共産党は、戦争になれば外国人が所有する資産を没収することができるという法律を発表した。今年初めにロシアがウクライナに侵攻した後、ロシアに投資している外国人に起こったことがまさにそうだ。
「プーチンがウクライナに侵攻した日、ロシアに投資していた人はすべてを失った」とバス氏は語る。
「あの日、何億円ものお金がゼロになった。これがもし中国ならば、何百億ドルにもなる。ロシアの損失は隠蔽できたが、中国の損失は隠蔽できない。私たちが生きている価値観と正反対の体制に投資することは、投資家にとって大きな痛手となる」。
「米国にとっての問題は、抗生物質などの重要な医薬品分野において、中国からの輸入に依存することを許してしまったことだ」と、重要物資の供給における中国依存の問題をバス氏は指摘する。
「我々は、時間をかけてカエルが茹であがるのを許してしまった。それを彼らは使ってくる。彼らの経済に対する核ボタンを我々が握っている間、彼らは、辛うじて私たちの首根っこを抑えているという状況が続いている」。
(翻訳編集・大室誠、佐渡道世)
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