ハイマースによる対艦戦闘訓練、日米共同演習で初 島嶼作戦に焦点

2022/09/04
更新: 2022/09/05

沖縄や九州を担当する陸上自衛隊の西部方面隊は3日まで、在日米陸軍と共同訓練「オリエント・シールド22」の実動訓練を実施した。島嶼(しょ)作戦に焦点を当て、ウクライナで大きな戦果を挙げた高機動ロケット砲「ハイマース」による対艦戦闘訓練を初めて行った。日本をめぐる安全保障環境が大きく変化するなか、日米同盟の強固な防衛意思を示した。

西部方面隊は演習を通して「相互理解による強固な日米同盟の強化を図ることができた」とし、日米間の領域横断作戦における連携を向上させたと発表した。在日米陸軍司令官のジョエル・ヴァウル少将は「日米同盟が鉄壁であることは敵も知っている。私たちはあらゆる脅威から日本を守る準備ができている」と強調した。

ハイマース、奄美に初展開

訓練では、ウクライナ東部戦線で多くの戦果を挙げたロケット砲システム「ハイマース」と、陸自の12式地対艦誘導弾(ミサイル)及び電子戦部隊が、接近する艦船を対象とした対艦戦闘を初めて実施した。

ハイマースを背に取材に応じる日米の司令官(陸上自衛隊西部方面隊公式ツイッターより)

ハイマースは装輪式(タイヤで走行)の多連装ロケット砲システムで、ロケット弾を連続して6発発射することが可能。従来のキャタピラー式のMLRS・M270を軽量化したもので、軍用輸送機に積載し、素早く展開することができる。

軍事専門家の周子定氏は自身の動画のなかで、ハイマースは素早く射撃体勢に入って圧倒的な火力を投射し、敵に発見されても反撃される前に撤収が可能だと指摘している。

ウクライナ戦争、米ハイマースロケット弾が威力を発揮【探索時分】

NHKによると、ハイマースが奄美駐屯地に展開するのは初めてで、軍事力を背景に勢力拡大を目指す中国を念頭に、日米の連携をアピールする狙いがあるという。

オリエント・シールドは陸自が米陸軍と毎年行っている共同訓練。それぞれの指揮系統に従い、共同対処能力の向上を図る。日米共同の対艦戦闘訓練について、双方の司令官は有意義な訓練だったと評価した。

政府、抑止力強化へ

日米が中国を念頭に共同訓練を行う背景には、周辺地域の緊迫した情勢がある。ペロシ下院議長の台湾訪問以降、中国軍は大規模な軍事演習を行い、日本の排他的経済水域(EEZ)にも弾道ミサイルを着弾させた。また、台湾に無人機を複数回にわたって飛行させるなど、挑発的な行為を行っている。

中国共産党の軍事的脅威が顕在化するなか、防衛省が8月31日に発表した概算要求は過去最大の5兆5947億円を計上した。防衛費のあり方をめぐっては、故・安倍晋三元首相が6月の会合で、GDP(国内総生産)の2%を念頭に増額する方針を打ち出し、「骨太方針」に記載すべきだと訴えた。

浜田靖一防衛相は2日の記者会見で「わが国への侵攻そのものを抑止し、万一抑止が破られた場合にも対処可能な防衛力の構築」が不可欠だと指摘。高度なミサイル防衛システムの導入に加え、より射程の長い新型ミサイルの開発を進めていくと明らかにした。

自民党の麻生太郎副総裁は8月31日、台湾で戦争が起きれば沖縄などの地域も戦域になる恐れがあると述べ、抑止力を持つことの重要性を訴えた。

政治・安全保障担当記者。金融機関勤務を経て、エポックタイムズに入社。社会問題や国際報道も取り扱う。閣僚経験者や国会議員、学者、軍人、インフルエンサー、民主活動家などに対する取材経験を持つ。
大道修
社会からライフ記事まで幅広く扱っています。