[ワシントン 17日 ロイター] – 今年11月の米中間選挙に向けた米ワイオミング州の連邦下院選の共和党予備選で大敗した現職のリズ・チェイニー議員は、今後2年間をトランプ前大統領のホワイトハウス復帰阻止に費やす構えだ。反トランプ氏の候補として、自ら2024年大統領選への出馬を検討していることも明かした。
チェイニー氏は、昨年1月6日の連邦議会襲撃を受けたトランプ氏弾劾訴追決議に賛成した共和党議員の1人。16日の予備選でトランプ氏が送った「刺客候補」に敗れたことは、弾劾に賛成した議員の追放を目論むトランプ氏の運動が「大勝利」となったことを意味する。
チェイニー氏は敗北宣言の中で「ドナルド・トランプ氏を2度とオーバル・オフィス(大統領執務室)に近づけないために全力を尽くす。本気だ」と明言した。
チェイニー氏が選挙戦で掲げてきたのは、米合衆国憲法を守る責務と、2020年の大統領選が不正選挙によって「奪われた」とするトランプ氏の虚偽の主張への反対だ。
議会襲撃を巡るトランプ氏の責任を追及する下院特別委員会の副委員長という自らの立場も利用し、同氏とその支持者らがいかに民主主義を脅かしているかを指摘してきた。
チェイニー氏は「共和党支持者、民主党支持者、無党派層、皆が一丸となり、われわれの共和国を破壊しようとする者たちに立ち向かうことを決意しよう」と述べた。
同氏は17日のテレビ番組で、大統領選に出馬するかどうかを「数カ月中に」決めると表明した。
トランプ氏を支持するフロリダ州共和党のクリスチャン・ジーグラー副委員長は、ワイオミング州の有権者がチェイニー氏に「拒否、非難、追放、引退」といったメッセージを送ったと指摘。「今後、チェイニー氏が公職に就くチャンスはない」と述べ、大統領の座を狙っても失敗すると一蹴した。
トランプ氏は2024年大統領選に出馬する可能性をちらつかせ続けているが、正式な出馬宣言はまだ行っていない。このためフロリダ州のデサンティス知事やペンス前副大統領など、共和党の他の次期大統領候補と目される人々は、今後の出方を公言できないままできる。
<拡声器を手に>
一部の共和党関係者らの見立てでは、チェイニー氏は大統領選の共和党予備選で指名を勝ち取ることは期待していない。むしろトランプ氏の勝利を阻止することに全エネルギーを傾ける狙いで、正式に立候補しなくてもその役割は果たせるかもしれないという。
「彼女は共和党予備選でトランプ氏に勝てないと分かっている。だが、立候補すればチャンスと『拡声器』を手にできる」と語るのは、トランプ氏の批判派であり、ウィスコンシン州のラジオでかつて保守系トークショーの司会を務めたことのあるチャーリー・サイケス氏だ。「彼女はトランプ氏側の『とげ』であり続けるだろう」と言う。
ただ、アナリストによると、共和党幹部らはトランプ氏への脅威を断つため、同党として大統領選の候補者討論会への参加拒否を決めた経緯があり、チェイニー氏は予備選討論会への参加を一切禁じられる可能性がある。
また、無所属で立候補した場合には、民主党の対立候補に流れていたはずの無党派層と共和党穏健派層の票を自身が奪い、不本意にもトランプ氏を利する恐れがある。
かつてポール・ライアン元下院議長(共和党)の側近だったブレンダン・バック氏は、チェイニー氏陣営はトランプ氏に対抗する最善の方法をじっくりと考える必要があると指摘。「必ずしも彼女が立候補する必要はない。外部から運動を展開するかもしれない。資金を集める、報道官を引き受ける、さまざまな政治組織や派閥をまとめる、といった方法だ」と述べた。
チェイニー氏は予備選敗北後、自身の陣営をリーダーシップPAC(政治活動委員会)に衣替えするための書類を連邦選挙委員会に提出した。PACの名称には「ザ・グレート・タスク(偉大な事業)」と、リンカーン元大統領が南北戦争中に行った有名なゲティスバーグ演説の一節を採用した。
チェイニー氏はPACを通じて市民にトランプ氏の脅威を知らしめるとともに、トランプ氏が大統領選に入った場合に反対活動を展開するとみられる。
16日の敗北宣言演説では、米国史上最も偉大な大統領の1人とされるリンカーン氏も、大統領になる前には何度も選挙に敗れていたと指摘した。
チェイニー氏陣営の手元資金は7月末時点で約750万ドル。
2016年に下院に初当選したチェイニー氏は、議会襲撃事件を巡る下院特別委員会で際立った役割を果たしたとして、全米のトランプ氏批判派から賞賛を浴びてきた。
一方で、共和党のカリスマ、トランプ氏に忠実でないとしてチェイニー氏を批判する同党支持者も多い。
保守系シンクタンク、アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所のシニアフェロー、マシュー・コンティネッティ氏は「多くの出来事によって明確になったのは、わが国の政治の焦点がこれほどまでに政策からずれ、トランプ氏の問題、そして彼に関する立ち位置の問題になってしまったという事実だ」と喝破した。
(David Morgan記者、James Oliphant記者)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。