トルコで記録的なレアアース鉱床を発見 中国依存脱却につながる可能性

2022/07/20
更新: 2022/07/19

トルコ政府は1日、同国北西部ベイリコバ地域で約6億9400万トンもの希土類元素(レアアース)の鉱床を発見したと発表した。レアアースの供給は8億トンあまりを保有する中国が優位に立つなか、供給先の多様化を模索する日本や米国をはじめ西側諸国の中国依存の脱却に繋がる可能性がある。

同国エネルギー・天然資源省のドンメズ長官は、この鉱山は地表に近いため加工コストは比較的低いとし、「17元素のレアアースのうち、10元素を採掘できる」と語った。同氏は8日、毎年1200トンもの希土類を処理するパイロットプラントの建設が今年後半に完成するとツイートした。

新エネルギー自動車や工業用電機機器、再生可能エネルギー発電などの製品の需要増にともない、レアアースの需要は増加している。航空、軍事、宇宙、バイオ、製薬の分野で広く使用されており、産業製品にとって欠かせない重要元素だ。

「トルコの鉱山に商業的価値の高いレアアースは多い。合理的に量産化できれば、世界のレアアース供給の多様化につながる」と、米シンクタンクの国際問題研究所(CSIS)エネルギー安全分野のジェーン・ナカノ上級研究員はボイス・オブ・アメリカ(VOA)に語った。

中国は豊富な鉱物資源と安い労働価格、緩慢な環境政策により、世界のレアアース市場で第一位の輸出国となっている。しかし、過去には、中国はこの立場を政治利用している。2010年に日本と中国による尖閣諸島をめぐる衝突で、中国は報復措置として日本に2カ月間レアアースの禁輸措置をとった。翌11年には環境汚染の規制と国内需要を理由に輸出規制を行い、価格を大幅に引き上げた。

CSISが2019年に発表した報告書によると、レアアースの埋蔵量は中国が世界全体の37%を占める。採掘や精錬技術に長けている中国は、全世界の85%以上を供給しているほか、レアメタル(希少金属)や鉱物の約3分の2も供給している。

安全保障リスクにも関わるレアアースだが、コロナ禍を経て供給先の分散化が叫ばれるも、採掘に伴う環境汚染や人件費の側面から、その成功には至っていない。日本で利用するレアアースは6割、米国は約8割が中国の輸入だ。

しかし、トルコ発のこのニュースは、レアアース業界における中国の独占的な立場を揺るがすものになるかもしれない。

CSISの報告書は、中国がレアアース供給の独占的な立場を利用して政治的目標を達成しようとしているが、「絶えず変化する市場の効果が新規参入者に競争能力を与え、レアアース業界における中国の影響力は今後数年で弱まる可能性がある」と分析している。

近年、米国や欧州など西側諸国は、自国のレアアース資源の採掘やサプライチェーンの多様化に向けた動きに取り組んでいる。米バイデン政権は昨年2月に重要製品の国内サプライチェーンを強化するための大統領令に署名。商務省とエネルギー省、国防総省などに対し、半導体製造やレアアースなど重要4分野に関するサプライチェーンの脆弱性を評価し、強化に向けた政策案を提言するよう指示した。

ホワイトハウスが発表した資料によれば、次世代エネルギー関連を中心に、重要鉱物の需要は次の数世代で400~600%も増える。バイデン米大統領は中国依存の状況について「こうした状況を変える」ために大統領令に署名したと強調した。

インド太平洋地域を歴訪中のイエレン米財務長官は7月18日、レアアース、太陽光パネル、その他の重要品目について米国は中国への「過度な依存」を解消したい意向だと明言した。

レアアース産業協会事務総長のナビール・マンチェリ氏はVOAに対して、「米国を含め多くの国が自国の鉱物資源を開発している。EUはカナダやオーストラリアを含む国と二国間および多国間の協力プロジェクトを行っている。このため、トルコに十分な品質の鉱物資源があれば、欧州や米国の需要の一部を満たすことができるかもしれない」と述べた。

レアアースは精製から製品化への工程は高度な技術と費用、時間を要する。中国は、トルコのレアアース事業に協働を模索する模様。中国共産党機関紙・人民日報傘下の環球時報英語版は7月10日、中国とトルコの希少類事業の協力もありうるとし、中国なら「採掘から販売までワンストップの技術サービスを提供できる」とアナリストの話として報じた。

CSISのナカノ氏は、中国がトルコの鉱物資源の開発に加わる可能性に危惧を示す。「トルコでは事業に複数の国が入札に参加するだろうが、これには中国企業も含まれるだろう」と語った。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。