中学2年生のとき、学校の遠足で行ったワシントンD.C.の記憶が時折蘇る。なかでも特に印象的だったのは、当時オープンしたばかりの「米国ホロコースト記念館(U.S. Holocaust Memorial Museum)」だった。
他の博物館や記念碑はもちろん好きだったが、ホロコースト記念館は大きく異なるものだった。社会主義のイデオロギーにより、人間性がこれほどまでに邪悪になるものだと、深く認識させられた。思えば、あの悪名高いナチスも、民族「社会主義」を標榜していた。
ところが近年、米国ではおかしな現象が発生している。かつて社会主義や共産主義と言えば、ナチスと比肩する邪悪で堕落した思想であるとの認識が主流だったが、今日の若者はそのように考えていない。実際、最近行われたいくつかの世論調査からは、米国の若者の大多数は社会主義に好意的であるとの結果が得られた。
現在の若者は社会主義や共産主義に対し、いままでにないほど親近感を抱いている。その原因は複雑で、複数の要因が含まれているが、学校教育のなかで社会主義の汚れた歴史や険悪な本質について触れたことがないという問題が主要な理由の一つではないだろうか。
公立高校の元歴史教師として、ここで強調しておかねばならない。私はいままで、多くの同僚が社会主義について教える時、歴史を修正主義的に粉飾し、ときには全くの嘘を語る様を目の当たりにしてきた。
幸いなことに、共産主義の恐ろしい歴史を伝える新しい記念博物館がワシントンD.C.に建てられた。およそ30年にわたる企画と建設を経て、「共産主義犠牲者記念博物館」(Victims of Communism Museum)は完成した。この博物館は、共産主義がいかに無辜の犠牲者に苦痛と死をもたらしたかに焦点を当て、その病的で非人道的な本質を独自の視点で紹介している。
記念館は、共産主義を中心に4つのテーマエリアに分かれている。一つ目は「共産主義の台頭」だ。ロシアで始まったレーニン主導のボリシェビキ革命がいかにして欧州を席巻したのかについて触れられている。共産主義は民衆の選択ではなく、暴力と強制によって何十億の人々に押し付けられたのだ。
二つ目のエリアはスターリンの恐怖政治に関するものだ。ここでは共産主義の抑圧と戦う英雄や、共産主義によって命を落とした犠牲者たちについて展示されている。そして共産主義的イデオロギーがもたらした不可逆的な破壊について紹介し、人々に歴史の過ちを再び犯さないように警告している。今の若者たちは共産主義についてユートピア的な思想であると教え込まれているため、この部分の展示は非常に重要だ。共産主義と社会主義は道徳的に破綻しており、少なくとも1億人を不自然な死に至らしめた。
第三のエリアは「奇跡と涙」をテーマとする。「自由のために戦い、自由の灯を燃やし続けてきたリーダーを紹介する」ものだ。また、共産主義がいかに破滅へとエスカレートし、アジアやアフリカ、ラテンアメリカに拡散したかについて紹介する。ここでは、共産主義は人間性に反するものであると学生は学ばなければならない。自由は多くの人々の願望だが、同時に共産主義のアンチテーゼでもある。
記念館の端には「私たちを忘れないで(Remember Us)」と題された応接室がある。来館者に対し「在りし日の英雄や自由を求める闘士、血を流し死んでいった人々を忘れず、そして、共産主義に異を唱え、今日も共産主義に抵抗する人々を心にとどめてほしい」とのメッセージを伝えている。
社会主義との闘いに命を捧げた人々を称えないのは怠慢だろう。ヒトラーのホロコーストに抵抗した勇敢な先人たちを記憶するように、共産主義と戦った勇者たちにもしかるべき敬意を払うべきだろう。
新しい記念館の意図するところは単純明快だ。「世界中で共産主義の犠牲になった1億人以上の人々を追悼し、今も共産主義の抑圧の下で生きる15億人以上の人々を忘れないこと」。
記念館を訪れるすべての人々が、このメッセージを心に刻んでくれることを願っている。そして何よりも願っているのは、共産主義に対して肯定的考えを持つ人々が、その残虐性や恐怖を目の当たりにしたときに、考えを改めることだ。
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