中国ゼロコロナ政策で世界の供給網が寸断へ その救済策は

2022/05/15
更新: 2022/05/15

中国当局のゼロコロナ政策は自国の製造業を停滞させ、部品や製造を中国に依存する世界のビジネスリーダーたちを憂慮させている。

メルセデス・ベンツのオラ・ケレニウス最高経営責任者(CEO)は4月29日、米紙ブルームバーグに対し、「中国では上海だけでなく、ロックダウン(都市封鎖)に踏み切る他の都市が続出している。この影響は、中国国内のビジネスやサプライチェーンにとどまることなく、全世界に波及している」と述べた。

香港英字紙サウス・チャイナ・モーニングポスト4月29日付によると、中国、インド、ベトナムに製造拠点を持つ国際的なサプライヤーの上級幹部は、「安定性、人件費、物流などの指標で常に事業拠点を比較し、選択肢を持っている企業にとって、中国のロックダウンは自国の競争力を損ねている」と警告した。

同幹部は、「中国は強硬なゼロコロナ政策を常態化しないようにすることが肝要である。(中略)現在の厳しい防疫措置は、将来的に(中国政府の)失敗につながるだろう」と語った。

4月28日付日経アジアの分析によると、米アップルの上位サプライヤー200社のうち、約半数が上海近郊に集中している。現在、上海のゼロコロナ政策は世界で最も厳しく、陽性者が1人確認されると、全員PCR検査、大規模な隔離措置や移動制限が行われる。オミクロン株は感染力が強く、死亡率が比較的低く、コントロールが難しいという事実は完全に無視されている。

イギリスの日刊経済紙「フィナンシャル・タイムズ(FT)」によると、影響を受けているアップルのサプライヤーは、iPhoneやiPadの組み立てメーカーから、「ディスプレイ、プリント基板(PCB)、熱対策部品、バッテリー、音響部品などの部品メーカー」まで、多岐にわたるという。

複数の報道によると、今月と先月の中国からの調達における問題は、夏の間、世界のサプライチェーンに影響を与え続ける。その結果、完成品の供給が減少し、物価の上昇を招くことになる。

その救済策として、欧米政府は金利を引き上げ、民間部門から資金を引き揚げることが予想される。そうなれば、商品の需要が減り、価格は下がるが、事業損失や失業、不況のリスクは高まる。

政府の過剰支出や紙幣の過剰発行が原因でインフレが起こっている場合、インフレ抑制のために金利を上げることは合理的である。しかし、それが供給の問題に起因する場合、ほとんど意味をなさない。 この場合、救済策は国内産業、特にサプライチェーンのボトルネックとなっている産業を支援することである。

仮に、サプライチェーンの問題によってインフレが引き起こされたとして、国債の金利が上げられ、経済から資金が引き揚げられたとする。この場合、政府は不足する供給を提供する国内の製造業に的を絞った補助金によって、その資金を経済に還元する必要がある。

メルセデス・ベンツのケレニウスCEOは、中国のゼロコロナ政策に加えて、トースターから自動車にまで使われているマイクロチップの不足、さらにウクライナ戦争でロシアが天然ガス供給を遮断した場合の燃料不足が同社のビジネスに影響を与える可能性があると指摘した。

ケレニウス氏は、エネルギーの自立が「最優先事項」であり、「ドイツ政府と非常に緊密に連携している」と述べた。

欧米政府も企業と緊密に連携し、過剰なオフショアリングや海外調達の誤りを正すことができる。マイクロチップの製造を国産化し、中国の供給ラインから切り離し、エネルギーは敵国ではなく友好国から調達するなど、サプライチェーンの再構築に向けた補助金支給を含む戦略的な取り組みを推進する必要がある。

「企業の国内回帰」を求める声もあれば、「同盟国やパートナー国との強靭なサプライチェーンの構築」を提唱する声もあった。例えば、欧州は自前の石油・ガス資源を確保できず、その解決策はイエレン米財務長官の言葉を借りれば、「フレンド・ショアリング(Friend-shoring、友好国からの調達)」である。

インフレが進む中、米財務省が紙幣を発行するだけでなく、他のことにも取り組んでいるのは、ビジネスにとって良い兆候である。

しかし、主観的に判断すると、企業は利益を最大化するために、調達の際にマイナスの外部要因をほとんど考慮しない傾向がある。公益性の観点からその調達を改善するためには、例えば、プラス効果を与える企業には補助金を、マイナス効果を与える企業には関税をかけるなど、新たなルールが必要である。マイナス効果の例としては、ロシアや中国からの輸入に依頼し、独裁政権を強化することが挙げられる。

補助金や関税、いわゆる「産業政策」は、かつて経済学者の間では汚い言葉として扱われてきた。中国のロックダウン、半導体不足、ロシアのプーチン大統領の戦争によるエネルギー危機を経て、この汚い言葉をきれいに洗って輝かせる時が来たのだ。

 

執筆者プロフィール

アンダース・コアー(Anders Corr)博士

2001年にイェール大学で政治学の学士・修士号を、2008年にハーバード大学で政治学の博士号を取得した。彼は、政策情報分析会社であるCorr Analytics Inc.の代表であり、雑誌Journal of Political Riskの発行人でもある。著書に『The Concentration of Power(仮邦訳:権力の集中)』(2021年刊行予定)、『No Trespassing(立ち入り禁止)』などがある。

オリジナル記事:英文大紀元の「China Lockdown Cuts Supplies

」より

(翻訳編集・王君宜)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。