参議院外交防衛委員会は29日、ウクライナの状況について参考人3名を招き意見陳述、質疑を行った。参考人の一人である国際政治学者グレンコ・アンドリー氏は、ロシアがウクライナの完全支配を目指している以上「降伏したとしても人命は救われない」と述べた。日本の一部メディア出演者が「降伏するべきだ」と主張していることについて和田政宗議員の質問に答えた。
アンドリー氏は、ロシア側はすでに刑法や裁判といった法的手続きなくウクライナの人々に対する殺害が行われているとした。「いまは占領地でしか殺戮はないが、降伏すれば全土で殺戮が起きるかもしれない。だから降伏は人命救助には繋がらない」との考えを示した。
英エコノミスト誌は27日、ロシア軍に拉致されたとみられるウクライナの複数の市長のうち、数人が殺害されたと報じた。ウクライナのゼレンスキー大統領の話を引用している。ウクライナ政府によると、ロシア侵攻後は少なくとも各地の市長14人が拉致されているという。
アンドリー氏は26日に「批判を受けながら『ウクライナは降伏しろ』と叫び続ける人達」が日本にいると指摘。「今のうちに日本で降伏主義を広め、いざという時に『日本は降伏しろ』と叫ぶのは本当の目的なのではないでしょうか」と推論をツイッターで発信した。このツイートは2.6万以上の「いいね」をつけた。
またアンドリー氏は音喜多駿議員の質問に答え、ロシアによる諜報活動について述べた。ロシアのスパイは欧州閣僚や高官に接触して接待し、ロシア企業幹部に採用して高給を払い、親ロシア派の動きをするように操作しているという。オーストリアの元外相や元首相、ドイツの元首相などは疑惑があるとした。「疑わしい人物は自身の信念で動いているのか、それとも指示されて動いているのか」精査するべきだと述べた。
欧州委員会の発表で北大西洋条約機構(NATO)本部のあるベルギーのブリュッセル市では、ロシアのスパイと中国のスパイがそれぞれ数百人ぐらい活動していると欧州対外行動庁(EEAS)関係者はみているという。ドイツ紙がEU外交官の話として19年に報じている。日本でも20年と21年にそれぞれロシアのスパイ事件が発覚した。
権力の座に留まるべきではない
バイデン米大統領は訪問先のポーランドで、ロシアのプーチン大統領について「権力の座に留まり続けるべきではない」と発言し波紋を広げた。戦費がかさみ、制裁によりますます国内経済が脆弱化するロシアは、2024年に大統領選挙を控えている。プーチン政権に今後変化は起きるのか。委員会でも質疑に取り上げられた。
参考人の河東哲夫・元駐ロシア大使館公使は、ソ連時代に起きたように「中央権力が空洞化して分散傾向を強めることがありえる」と指摘した。地方が税収を首都モスクワに送らず、地方知事が大統領を自称するようになり、真ん中で分断されるようなシナリオだという。
アンドリー氏は、ロシアの民衆に独裁体制は変えられないとみている。これはプーチン政権が強力な治安維持組織を用意していることや情報統制の更なる強化を挙げた。唯一の体制変化の可能性として、オリガルヒ(ロシア新興財閥)が権力操作に関わることだとした。西側諸国の制裁が強化され「彼らの財産が奪われ、立場や快適さが失われれば」プーチン体制を変えようとするだろうと述べた。
参考人で慶應義塾大学総合政策学部准教授の鶴岡路人氏は、G7やEUなど米欧諸国はこれまでの制裁議論、SWIT排除やロシア中央銀行を含め、戦争が「プーチンにとっての戦略的失敗になることを確実にする」という極めて強い文言を使っていると指摘。「つまりプーチン体制が終わらない限り危機の本質はなくならないという見方は欧米に広く存在していると思う」とし、ロシアの体制的な問題の認識は高いとした。
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