香港は、中国共産党のいわゆる「全過程にわたる民主」の苦い果実を味わっている。中国共産党の支配下で、香港の民主主義が悪夢と化すのを見るのは辛いことだ。
1997年に中国政府が「一国二制度」の枠組みで、香港に「50年間」の政治的自治を認めると約束したにもかかわらず、香港特別行政区は中国共産党の政治体制に完全に統合されつつある。
1990年代から現在に至るまで、中国共産党は香港に対する「正当な」政治的・社会的支配を実現するために、「一国二制度」の枠組みを侵食し続けている。この枠組みは、「ラバースタンプ(ゴム印)議会」と揶揄される中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)が1990年に採択した基本法の具現化であり、「香港人による香港の管理」「高度な自治」の保障を盛り込んだ。
2020年夏、中国共産党は香港の立法手続きを無視し、「香港国家安全維持法」(国安法)を制定し、これらの厳粛な約束をすべてゴミ箱に捨てた。
いまにして思えば、基本法には、中国共産党が香港を完全に政治支配するための長期計画の一環として、香港に適用される国安法の導入を求める条項が含まれていたのである。
基本法第23条は、香港政府に「反逆、国家分裂、反乱扇動、中央政府転覆を禁止する法律を自ら制定すること」や「香港の政治組織または団体が外国の政治組織または団体との関係樹立を禁止すること」を求めている。
この部分は、昨年6月に中国共産党政権の主導で施行された国安法の主要部分と同じである。同法は6章66条から成り、国家分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力との結託と見なす行為を国家安全危害罪とし、違反者には最高で無期懲役刑に処すると規定している。
実は、中国共産党が1990年に基本法を制定したとき、すでに香港市民の自由を奪い、香港の政治体制を変える土台を築いていたのだ。国安法は、香港市民や地元選出の立法会(議会)議員の意見を全く聞かずに香港に押し付けられたもので、全人代では賛成2878票、反対1票で可決された。国安法の施行は、中国共産党の長期計画である。
国安法は、令状なしの捜索など、香港警察に新たな権限を与えている。ここでは、同法の導入から16カ月間に起こったいくつかの衝撃的な出来事を時系列で紹介する。
- 昨年7月7日、中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(英語版)は、国安法に反対する香港人を「政治利用するな」と脅す社説を掲載した。
- 昨年7月、香港当局は図書館から中国共産党に批判的な書籍を撤去し、政治的スローガンを禁止し、学校に検閲を実施するよう要求し始めた。
- 国安法の施行に伴い、メディアや出版社は自己検閲を余儀なくされている。
- 香港当局は、民主化デモを支持する香港人教師を免職または解雇した。
- 昨年7月29日、16〜21歳の学生4人が「分離独立扇動」の疑いで逮捕された。
- 昨年8月10日、香港警察は民主派新聞「蘋果日報(アップルデイリー)」の創刊者である黎智英(ジミー・ライ)氏と息子2人、幹部数人を逮捕した。
- 昨年9月6日、民主化推進派の政治団体「人民力量」副主席の譚得志(タム・タクチ)氏が逮捕された。
- 昨年9月23日、中国政府は香港駐在の外国人記者に対し、「報道自由を口実に」香港問題への交渉をやめるようと警告した。
- 昨年10月29日、香港当局は独立派学生団体「学生動源」の代表、鍾翰林(トニー・チョン)氏を逮捕した。
- 昨年11月30日、中国外務省は香港問題に干渉したとして、米国の高官4人に制裁を科すと発表した。
- 今年1月6日、香港警察は民主化活動家、議員、弁護士など50人以上を逮捕した。
- 2月28日付の米ワシントンポスト紙は、さらに40人が逮捕され、「穏健派、強硬派を問わず、すべての香港の反体制派が投獄されたか追放された」と報じた。
- 8月18日、香港大学の学生会幹部4人が国安法違反の疑いで逮捕された。
- 12月6日、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の社説を受け、香港当局が書簡による警告を発した。
- 12月17日付のWSJによると、香港当局は、19日の香港立法会選挙で市民に投票ボイコットや白票投票を呼びかけた疑いで10人を逮捕。
国安法が香港市民にもたらす脅威は、昨年同法が施行されて以来、香港で初めて行われた12月19日の「愛国者限定」立法会(議会、定数90)選挙にも表れていた。今回の選挙の候補者は、中国共産党が中国本土で行う「選挙」と同じように、すべて事前に中国政府の承認を受けたものである。これは、中国当局が仕組んだ典型的な茶番劇にすぎない。
香港の人々は、「中国の民主」の本当の意味を身をもって体験している。これは、中国共産党が提唱する「全過程にわたる人民民主」であり、国際社会の民主主義とは全く異なるものである。その鍵は、「人民」という言葉にある。中国共産党の辞書では、「全体主義」という意味である。
中国共産党は今回の選挙に神経を尖らせていた。中国国営系英字紙「チャイナ・デイリー」は12月18日、香港の人々が「候補者の能力に厚い信頼を寄せている」と報じた。したがって、投票する人が少なければ、中国共産党の顔に泥を塗るようなものだ。同紙によると、「秩序維持」のために1万人の警察官が投票所に配備されたという。
WSJ紙は、香港世論研究所の数字を引用して、選挙当日の投票率は30%程度にとどまる可能性があると報じた。予測は当たり、ロイター通信によると、投票率は30.2%と過去最低を記録した。香港の人々が中国共産党の「全過程にわたる人民民主」を信じていないことは明らかである。いずれにせよ、今回の選挙は、中国共産党が香港の政治的支配を完全に握ろうとする野心的な計画の頂点に立つものであった。
香港の弾圧に続き、他の華僑の飛び地も中国共産党の監視下に置かれる可能性がある。恐るべきことに、国安法は、中国政府が華僑や外国人さえも敵と見なす人物を追い詰めることを可能にしているのだ。
テキサス州の地元紙「ダラス・モーニング・ニュース」によると、「この法律は、香港だけでなく、世界中のあらゆる人の行動を犯罪化する可能性を持っている」という。米中経済・安全保障調査委員会(USCC)が12月に議会に提出した報告書では、「この法律を放置すれば、中国政府に世界中の言論を検閲する広範な権限を与えることになる」と警告している。
おわりに
12月19日の「愛国者による香港統治」選挙の終了により、香港の中国共産党の政治帝国への統合は終わりを告げた。記録的な低投票率は、中国共産党の「全過程にわたる人民民主」の偽善を露呈している。
香港の国安法の実施から学ぶべきことは、台湾が中国共産党の脅迫に屈した場合、ほぼ間違いなく香港の二の舞になるということである。香港が今経験している「全過程にわたる人民民主」は、台湾の未来を予見しているのだろうか。
執筆者プロフィール
ステュー・クヴルク(Stu Cvrk)
米海軍で30年間、現役および予備役としてさまざまな任務に就き、中東と西太平洋で豊富な作戦経験を積んだ後、大佐として退役した。海洋学者、システムアナリストとしての教育や経験を経て、米国海軍兵学校を卒業し、古典的なリベラル教育を受け、それが彼の政治評論の重要な基盤となっている。
オリジナル記事:英文大紀元「Hong Kong’s Slide Into Darkness」
(翻訳・王君宜)
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