岸田文雄首相は6日午後の衆議院本会議で所信表明演説を行った。医療体制の確立と大規模な財政政策でコロナからの回復を目指すほか、デジタル化政策や災害対策などにより国力を向上させると強調した。明言は避けたが中露の圧力により厳しさ増す安全保障環境について、日米同盟やASEAN諸国、日米豪印枠組みを通じてインド太平洋地域諸国との関係を強化していく方針を示した。
首相は冒頭「遠きに行くには必ず近きよりす」と述べ、コロナ対策や経済政策には順番が大切だと強調。ワクチン接種が進む欧州で感染拡大が進んでいることから「最悪の事態を想定する」とし、全世界を対象に外国人の入国停止に踏み切った例を挙げ今後もスピードを重視した対策に取り組むと述べた。
支援策として、総額55.7兆円の「コロナ回復、新時代開拓のための財政対策」を打ち出した。感染拡大に備えるために13兆円規模の資金を投入するほか、新型コロナで打撃を受けた事業者等に17兆円規模の支援を行う。さらにデジタル化や気候変動問題への対応として、20兆円規模の財政資金を投入する考えを示した。
イノベーションでは10兆円の大学ファンドを年度内に創設する。研究者が大学運営ではなく研究に専念できるよう、研究と経営の分離を進めるとした。
デジタル田園都市国家構想実現に向け4.4兆円を投入し、人口減少や高齢化、産業空洞化などの課題に取り組む。日本各地に大規模データセンターを配置し「日本中津々浦々、どこにいても、高速大容量のデジタルサービスを使えるようにする」と述べた。
マイナンバーカードについて「安全安心なデジタル社会のパスポート」と形容し、運転免許証、健康保険証と一体化する方針を示した。また、「本人確認機能をスマートフォンに搭載する」ことや、マイナンバーカードを使ってスマートフォンからワクチン接種証明書を入手できるようにする施策を12月20日から始めると述べた。
気候変動問題への対応として「クリーンエネルギー分野への大胆な投資」を進める方針を打ち出した。「火力発電のゼロエミッション化に向け、アンモニアや水素への燃料転換を進める。その技術やインフラを活用し、アジアの国々の脱炭素化に貢献していく」と述べた。
経済安全保障については、「サプライチェーンの強靱化や基幹インフラの信頼性確保を進めるため、与党との協議を踏まえ、来年の通常国会への新たな法案の提出を目指す」と明らかにした。
さらに、5000億円規模の基金を国が設け「人工知能・量子・ライフサイエンス・宇宙・海洋といった世界の未来にとって不可欠な分野における研究開発投資を後押し」すると述べた。
外交では、可能な限り早期に訪米してバイデン大統領と日米首脳会談を実現させ、インド太平洋地域含む国際社会の平和と繁栄の基盤である日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していくと述べた。ASEANや欧州と連携し、日米豪印の枠組みを活用して「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力を深めていく考えを示した。
また「岸田内閣が重視する、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値やルールに基づく国際秩序の維持・強化について、国際的な人権問題への対処を含め、しっかりと取り組む覚悟だ」と発言した。
中国との外交については、「主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、共通の課題には協力し、建設的かつ安定的な関係を構築することを目指す」と発言した。ロシアについては、「北方領土問題を解決し、平和条約を締結する方針のもと、日ロ関係全体の発展を目指す」とした。
「我が国を取り巻く安全保障環境はこれまで以上に急速に厳しさを増している」と述べ、国民の命と暮らしを守るために「いわゆる敵基地攻撃能力も含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討」すると強調した。スピード感を持って防衛力を強化し、「新たな国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を、おおむね1年をかけて策定する」と述べた。
核兵器のない世界に向けた取り組みとして「来月の核兵器不拡散条約運用検討会議の成功が重要だ。意義ある成果を出せるよう、米国をはじめ関係国と連携しながら、積極的な役割を果」たすと意欲を示した。
拉致問題を「最重要課題」と位置づけ、「すべての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく各国と連携する」と述べた。また。「金正恩委員長と直接向き合う決意」があるとし、日朝国交正常化に向けた取り組みに意欲を示した。
防災減災・国土強靭化の分野では、熱海市における土石流災害を念頭に、盛り土規制に関する法整備を行うと述べた。線状降水帯による豪雨に対しては観測機器の整備と予測モデルの開発を行うとした。
憲法改正では「国会議員には、憲法の在り方に真剣に向き合っていく責務がある。重要なことは国会での議論だ。与野党の枠を超え、国会において積極的な議論が行われることを心から期待する」と述べた。国民の理解の更なる深化が大事とし、「現行憲法が時代にふさわしいものであるかどうか、国会議員が国民の議論を喚起していこうではないか」と呼び掛けた。
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