軍の活動が海洋種や生態系に影響を与え得ることを認識している米国海軍は、長年にわたり海洋資源の保護に取り組んできた。
米国海軍は国防訓練や実験を実施する前に、米国海洋漁業局(NMFS)や米国魚類野生生物局(FWS)といった規制機関から許可を取得しているだけでなく、環境法の遵守を確認し、海洋生物へ与え得る影響を極力削減することに努めている。
科学の進化や状況の変化を踏まえて科学界や学界と協力を図ることで、軍政策や慣習を継続的に見直して、実施する作戦により環境にもたらされるリスクの軽減に注力している米国海軍は、海洋哺乳類の研究に年間20億円(2,000万米ドル)超の資金を費やしており、過去10年間に同取り組みにかけた合計費用は300億円(3億米ドル)を超過している。
数十年にわたり、海洋哺乳類と絶滅危惧種の保護は米国海軍の主要環境課題となっているが、依然として事故が発生する可能性がある。2021年5月、南カリフォルニアに近いハワイ沖の太平洋で米国海軍と軍事演習を実施していたオーストラリア船舶がクジラと衝突し、2頭が死んだと伝えられている。
2021年7月中旬、米国太平洋艦隊(USPACFLT)のブレンダ・ウェイ(Brenda Way)報道官はトリビューンニュースサービス(Tribune News Service)に対して、「米国海軍は海洋環境への悪影響を最小限に抑えることを重要視している」とし、「海軍が使用するソナーと爆発物が特定の海洋生物に影響を与える可能性がある。現在の研究、監視、モデリングデータに基づく分析によると、海洋哺乳類にもたらされる影響の大部分は行動的反応(別の方向へ動く、または行動にわずかな変化が見られるなど)である。海洋種への影響を回避または最小化することを目的として、海軍は緩和策と監視措置を実施している」と説明している。
保護対策としては、熟練した監視要員が海洋哺乳類やウミガメの監視を実施する、航空機能やパッシブソナーを用いて海洋哺乳類を探知する、海洋哺乳類が検知された際にソナーの音波の減衰または音波の発信の停止を図る緩和帯を確立する、重要な生息地や季節における訓練では承認された中周波アクティブソナーのプロセスを使用する、船舶に搭載されたソフトウェアツールにより海洋哺乳類にとって重要な地理的領域に関する認識を向上するなどの措置が挙げられる。
環境や海洋生物への影響を最小限に抑えることを目的として、米国海軍では65年以上にわたりアクティブソナーの使用に関する訓練を熱心に実施している。
たとえば、ソナーにより915メートル以内に海洋生物が検知されると音波が減衰され、182メートル以内では音波の発信が停止される。
米国海洋大気庁(NOAA)によると、大型海軍艦艇の平均速度は10〜15ノット、潜水艦の平均速度は8〜13ノットで、いずれも大半の商用船よりは低速である。コンテナ船は通常24ノットで走行する。
海洋の種類を問わず、水中に存在する現代的な潜水艦を検出・追跡して標的にできる効果的な方法はソナー以外に存在しない 。
海洋保護に注力する米国海軍は、石油やプラスチックなどの材料を含む廃棄物を安全に管理し、その作戦と任務を通して環境管理を推進している。一例として、船舶におけるコンパクターの使用が挙げられる。コンパクターでプラスチックを70%圧縮減容できるため、帰港するまでプラスチック廃棄物を保管することができる。また、すべての米国海軍艦船は廃水と油性廃棄物を処理できる最先端システムを搭載している。
米国海軍は金属、紙、ガラスといった生分解性物質を無害な粒子に粉砕するシステムなど、環境コンプライアンスの改善と海洋生物の保護を推進する技術と手順に投資している。
米国海軍はまた、支援活動や承認システムを通じて環境擁護を支援しており、2019年には、ハワイのカウアイ島バーキング・サンズに所在する太平洋ミサイル試射場(PMRF)の水兵と公務員が「海軍共同体兵役環境スチュワードシップ・フラッグシップ(NCS-ESF/Navy Community Service Environmental Stewardship Flagship)」賞を受賞しただけでなく、ハワイ州議会も太平洋ミサイル試射場が保護・推進する「環境的・文化的資源や功績を認めて表彰」している。
太平洋ミサイル試射場は連邦や州の機関、学校、保護団体、地域共同体と協力を図りながら、自然の保全、環境保護、絶滅危惧種の保護に関するイニシアチブを実施している。
(Indo-Pacific Defence Forum)
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