第1列島線で中国が数時間で「勝利を既成事実化」する可能性=豪報告書

2019/08/21
更新: 2019/08/21

中国の軍事力増強で、インド太平洋地域において米国の軍事的優位性が失われつつある。中国の長距離ミサイルは、西太平洋に配置される米とその同盟国の軍事拠点を数時間内に無効化にする。8月19日に発表された豪州シドニー大学米国研究センターの中国軍事戦略に関する報告書が指摘した。

101ページに及ぶ同報告は、中国が「精度の高い長距離ミサイルの数を増加させ、米国、同盟国およびパートナー国のほぼすべての軍事基地、空港、港湾、および西太平洋の軍事施設に大きな脅威をもたらしている」と述べた。

「これらの施設はすべて、紛争ぼっ発後の数時間以内に集中攻撃を受け、使用不能に陥る可能性がある。中国人民解放軍のミサイルの脅威は、地域全体の最前線で活動する米国の能力に大きな課題をもたらしている」とした。

報告書は、米国のここ20年間の予算は主に、中東における戦争に充てられ、インド太平洋地域の基地の軍事インフラを強化してこなかったと指摘した。兵器や弾薬も更新されていないため、有事への備えが手薄になっており、米国の軍事的優位性は失われていると指摘する。

米軍の分析によると、中国軍はインド太平洋地域において米国の介入を阻止するするために、「接近阻止・領域拒否」(Anti Access/Area Denial,A2/AD)戦略を実行している。

接近阻止・領域拒否戦略を実現させる主力はミサイル能力だ。従来の弾道ミサイルおよび巡航ミサイルの開発に対する中国の大規模な投資は、この戦略を充実させるためにある。

中国のミサイル部隊は現在、1500基の短距離弾道ミサイル、450基の中距離弾道ミサイル、160基の中短距離弾道ミサイル、数百台の地上発射短距離巡航ミサイルを備えている。これらは、中国の設定した対米防衛ライン・第1列島線より内側にある米国の同盟国・友好国の日本、韓国、台湾、フィリピン、シンガポールを、中国の接近阻止・領域拒否ゾーンにして、攻撃を可能にしている。

A2/AD戦略を効果的に実行するために、中国は「空母キラー」として知られる東風-21D対艦弾道ミサイルを開発してきた。1500キロメートルの範囲を攻撃することができ、グアムの米海軍と空軍の基地も射程に収める。

中国はまた、第4世代戦闘機、先進的通信情報システムC4ISR、現代化した攻撃型潜水艦、電子戦・密集地対空ミサイルシステムなどを大量開発した。そのため、米軍は作戦距離内で空中または海上から中国軍に効果的に打撃を加えることができなくなる。

報告によると、中国は第1列島線内で強い軍事力を持っているため、米軍や他の同盟国が介入する前に、「既成事実化」(fait accompli)戦略で現状を改変することができる。 

具体的には、中国が、限定戦争または「グレーゾーン」作戦を繰り広げる手法を取る。報告書は「極端な事例」として、中国は台湾に対し直接的な攻撃を加え、台湾を封鎖したうえ、サイバー攻撃を仕掛けるなどして台湾を統一させる、と言及した。また、現実味のある作戦として、中国は日本の沖縄・尖閣諸島、南シナ海のスカボロー礁を武力で奪取する可能性があるとも述べた。

「中国はまず、米に阻止される前に価値ある戦略的目的を達成するために、先制攻撃(Strike First)を加える計画がある」

報告の主筆であるシドニー大学米国研究センターの外交政策および防衛研究担当代表アシュリー・タウンゼンド(Ashley Townshend)氏は、中国は軍事力増強に伴い、九州~台湾~フィリピンを結ぶ第1列島線の一部、例えば台湾などを制御すると企むかもしれない」と分析する。

タウンゼンド氏は、こうした中国の「侵略性外交政策」はインド太平洋地域のパワーバランスを壊し、「すべての関係国は警戒しなければならない」と警告する。「中国を抑制することはアジア諸国の利益にかなうからだ」

(翻訳編集・佐渡道世)