焦点:ジョンソン英新首相、出世を支えた大言壮語

2019/07/25
更新: 2019/07/25

[ロンドン 24日 ロイター] – 英次期首相に決まったボリス・ジョンソン氏(55)はかつて、古代ギリシャの詩人、ホメロスの長編叙事詩イリアスの冒頭100行を暗唱できると豪語したことがある。

ジョンソン氏は長年、持ち前の大言壮語によって政治力を築いてきた。言語学者や専門家の言葉を借りれば、「仰々しい言葉づかい」や「難解な言葉」、「時には下品さ」を駆使し、「失言」の逸話にも事欠かない。

おそらく事前練習なしで繰り出す演説には、古代ギリシャ・ローマから英国のポップ文化まで幅広い話題を盛り込み、時には時代遅れの大英帝国的な考え方まで持ち出してわざと物議を醸し、人気獲得につなげてきた。

「ジョンソン氏の言葉づかいは往々にして予想外の比喩や言い回し、誇張、回顧趣味がない交ぜになっており、英国独特のひねりも頻繁に顔を出す」と語るのは、オープン大学の応用言語学の上級講師、フィリップ・サージェント氏だ。

同氏によると話し方も重要だ。「英雄気取りの言い回しをしても、確信犯的な雰囲気を醸し出すことで、どこかコミカルな感じを漂わせることができるからだ」

良家の子弟が通うイートン校やオックスフォード大のディベート部時代から、新聞社のブリュッセル特派員として欧州連合(EU)の統合構想を風刺で攻撃した若き日に至るまで、大胆不敵な言説はジョンソン氏のトレードマークだった。

政治家になってからは、テレビショーの人気者やロンドン市長として人を魅了する話術に磨きをかけた。保守党の年次大会では、常に党首のお株を奪う話術で多くの草の根党員の心をつかんだ。

ジョンソン氏が心酔していると言う第2次大戦時の英首相、ウィンストン・チャーチル氏の伝記など、著書も複数ある。テレグラフ紙への週1回の寄稿では、月額2万2917ポンド(約300万円)の原稿料を稼いでいる。

話し方は一見乱暴だが、言語学者から見れば、言葉の選び方は周到に計算されている。

ランカスター大学の言語学名誉教授、ポール・チルトン氏によると、ジョンソン氏は公衆の面前で少なくとも3つの仮面を使う。「聴取を奮起させる雄弁家、人当たりの良い話上手、失言する素人」だ。

「彼は聴衆の笑いを取る方法を知っている。笑いを取ることで、政策の欠如も、責任を取りたがらない姿勢も、虚実ない交ぜもまったくの虚偽も、事実の無視も、すべてを覆い隠せる。『芸能人』にはそんなこと関係ないからね」

ジョンソン氏自身は、ロンドン市長および外相としての経験を通じ、自身の政策把握力が示されたと主張。嘘をつくとの批判は、文脈を無視して発言が切り取られているためだ、と述べている。

彼が持ち出す大げさな比喩には、聴衆の感情を揺さぶる力がある。

メイ首相がEUから取り付けた合意については、英国を「植民地の地位」にするものだと批判。英国のEU離脱(ブレグジット)の是非が問われた2016年の国民投票前には、欧州の超国家を創出しようとしたヒトラーやナポレオンの轍をEUが踏もうとしている、と警鐘を鳴らした。

EU離脱については、「トイレットペーパー・ブレグジット」ではなく「完全に英国版のブレグジット」を実施しようと呼びかけた。

オバマ前米大統領のことを「部分的にケニア人」と呼び、彼には先祖から伝わる大英帝国への嫌悪感があるとほのめかしたこともある。トルコのエルドアン大統領については卑猥な5行詩を書いた。

外相時代の16年には、世界の首脳らに対して自身が発してきた、怒りを買う数々の発言について、謝るには時間が足りないと述べ、これらは「ある意味で誤解された」ものだとも釈明した。

<古代ギリシャとローマ>

ジョンソン氏ほど古代ギリシャに敬意を表してきた近代の政治家は珍しい。次期首相のフルネームはアレクサンダー・ボリス・デ・フェフェル・ジョンソン、愛称はボリスだ。

大学で古典を学んだジョンソン氏は、ラテン語と古代ギリシャ語に通じている。

最近のインタビューでは、段ボール箱を使ってロンドンバスの模型を作る趣味の告白から、古代アテナイの雄弁な政治家ペリクレスのファンであることまで、数分の間に話題が大きく振れた。

チルトン氏は「時々古代に触れるのは複数の目的に役立っている。一種の威厳を示す方法だ」と指摘し、ジョンソン氏は古典的な話術を使う傾向もあると述べた。

先週の保守党党首選の演説では、冷凍パッケージされたニシンを振り回し、EUの規制のばかばかしさを揶揄した。

実はEUの法律には、そうしたパッケージを義務化する規制はない。ジョンソン氏の支持者らは、ニシンを使ったのは見た目に分かりやすくするためだと述べた。

チルトン氏はニシンの一件について、「古代に政治演説で使われた技法」だと言う。「大カトー(古代ローマの政治家)は、元老院でカルタゴ産のブドウをかざし、政治演説を行ったと伝えられている」

<郵便箱>

ジョンソン氏は、黒人の子供の蔑称である「ピカニニー」など、嫌悪感を引き起こす言葉も使う。この言葉については後に謝罪した。

また、ブルカと呼ばれるベールを着用したイスラム教徒の女性について「郵便箱のようだ」と表現し、最近のテレビ討論でこの発言について問われると、不快感を持たれたなら謝ると述べた。

ジャーナリストとして執筆した自動車のレビューでは、シフトレバーに関する性的な比喩を多用し、イタリアの「種馬」であるフェラーリF430にイングランドの田舎が「犯される」という意味のあからさまな表現まであった。

このように型破りなジョンソン氏の出世劇は、トランプ米大統領になぞらえられることが多い。2人は互いを褒め合う仲だが、実はニューヨーク生まれのジョンソン氏の方が、ツイッターの使い方は控え目だ。

サージェント氏は、他人の反発を招きかねないジョンソン氏の発言について、「話術がトランプ氏と共通するところがある」とし、「ごく表層的ではあるが、ある程度(発言を)否認できるようにしてあるところだ」と続けた。

*見出しの表記を修正しました。

Reuters