「無防備だった」カナダの大学に送り込まれた中国軍の研究者=カナダ紙

2018/11/01
更新: 2018/11/01

中国からカナダの大学に派遣された多くの学者は、中国の国防研究機関の関係者であることが新しい調査で分かった。

カナダ紙「グローブ・アンド・メール」の報道によると、カナダには少なくとも9つの大学が中国軍の研究者と共同研究したことがある。小規模なニピシング大学(Nipissing University)から、カナダを代表するウォータールー大学のような先端大学まで、大学のタイプはさまざまだった。

安全通信、衛星画像処理、無人機などの分野で、中国の国防関連の学者が、学術交流と共同研究を通じて、大学院生や客員研究員としてカナダの大学に入っていたことが明らかになった。

オーストラリアの戦略政策研究所が最近発表した報告書によると、カナダは中国の研究者にとって世界第三位の目的地になった。2007年以来、中国軍は2500人の軍事分野の学者とエンジニアを海外留学させている。

この報告の著者であるアレックス・ジョスキ氏は、「中国共産党の軍事科学者の頻繁な海外留学は技術移転への懸念を引き起こした」「学んだ技術を中国軍の建設に応用されるからだ」と述べた。

「競争相手である中国の軍事技術の発展を支援することは国家利益に合わない。欧米の大学や政府がそれを完全に理解しているかどうかはまだ分からない」とジョスキ氏は書いた。

2006年以来、カナダの研究者と中国軍の研究者は687本の学術論文を共同執筆した。

謎に包まれた中国からの研究者

余宏義(Yu Hong-yi、音訳)氏は、中国の可視光通信分野のトップレベルの専門家であり、マックマスター大学の張建康(Jian-kang Zhang、音訳)氏と共同研究の論文を発表した。中国国内の報道によると、余宏義氏は中国解放軍情報工学大学情報システム工学院の院長であり、この大学に設置された国家デジタル交換システムおよび技術研究センターにも勤務している。ある中国メディア2016年の記事に余宏義氏が4つ星の軍服を着ている写真が掲載された。

余氏の論文には、鄭州情報科学技術研究所(Zhengzhou Information Science and Technology Institute)という機関の名前が出ている。この研究所の名前は他の軍関係の研究者たちにも使われているが、この研究所は実在しない。

ジョスキ氏は、この研究所は一つの看板に過ぎず、専門家の査読を経て発表された1300本あまりの論文に、その名前が書かれている。その目的は「研究者の本当の所属先を隠すためであり」、これで「彼らが技術を盗んでいるという確信を持つようになった」とジョスキ氏は指摘した。

鄒曉亮(Zou Xiaoliang、音訳)氏と趙桂華(Zhao Guihua、音訳)氏は2017年、ウォータールー大学の学者ジョナサン・リー氏と高級衛星画像分析に関する論文を発表した。彼らは「地理情報工学国家重点実験室」と「西安測絵研究所」にぞれぞれ所属していると話していた。しかし、中国国内のオンライン記事では、二人とも中国軍の情報技術小組61363チームの関係者となっている。

61363チームについて、中国軍は「軍事測量前線の主力」と表現しており、その任務は「諜報管理」だ。

「グローブ・アンド・メール」の記者は、その部隊の政治部門に電話をかけ、電話を受けた人は趙桂華氏は同部隊の「上級研究員」と発言した。

明かされることのない身分

マックマスター大学の張教授は頻繁に中国からの学者と共同研究を展開している。張教授は、光無線通信分野の専門家。発光ダイオード(LED)の光を利用してデータを発信するこの技術は、安全な通信が可能となり、軍事にも応用できる。

公開された記録によると、張教授は10人の中国からの軍事研究者と共同論文を発表している。

王依潔(Wang Yijie、翻訳)氏は、中国国防科技大学の計算専門家の一人であり、かつてサイモンフレーザー大学とカルガリー大学の学者と共同研究を行っていた。彼女は「グローブ・アンド・メール」のメール取材に対して、コメントする権限はないと応じなかった。「わが大学の性質を分かっているはずだ」とも付け加えた。

「解放軍情報工程大学」に有る国家デジタル交換センターのある学者は、モントリオール理工科大学の学者と電気管理に関する共同研究を行った。モントリオール理工科大学の関係者は、 「連邦政府とカナダの情報部門は、このような共同研究について警告を発したことはない」 と明らかにした。

留学先から技術を取得 巨額な費用を拠出 

興味深いことに、これらの中国人研究者の多くは、中国軍が管轄する国防科技大学に所属している。ジョスキ氏2016年の論文によると、中国政府は同大研究者の海外留学に5600万ドル(約63億円)を拠出した。

同大は留学先で「学生たちは、共産党海外支部の立ち上げに熱心だった」と宣伝していた。ジョスキ氏は報告書で、中国軍は「海外で花を採り、中国で蜂蜜を作る」戦略を取っているようだと書いた。

国防科技大学と関係のある研究者は、ブリティッシュコロンビア大学の研究者とドローンの空気力学、ウォータールー大学の専門家と情報の移動伝達とコンピュータビジョン、カルガリー大学では衛星ナビゲータを研究していた。

現在のニピシング大学計測機科学と数学学部の終身教授である朱海濱(Haibin Zhu)氏は、かつて国防科技大学の教員だった。彼は、中国の軍事学者と華為の研究員(カナダの防衛研究機関の科学者でもある)と共同で研究論文を執筆した。

朱海濱氏は、国防科技大学との共同研究は、軍事に関係のない一般的な研究であると述べた。「グローブ・アンド・メール」の記事は2011年以来、朱氏が国防科技大学で3回講義を行い、中国軍が管轄する同大を「小規模の地方大学」と表現している、と述べた。

カナダの学者と共同研究を展開する中国の研究者たちは、国防科技大学など軍の大学との関係を隠していない。自身が中国空軍工程大学のミサイル研究所で研究していたと発言した者もいるという。

カナダの大学は、外国からの学者を選別できないとし、これは政府の責務だとの認識を示している。「グローブ・アンド・メール」の記事は、取材に応じた大学で中国からの学者について制限を設けた大学は一校もないと指摘する。

米シンクタンク、国際会計基準委員会(IASC)のリチャード・フィッシャー上級研究員は、中国共産党政権は世界各地で軍民両用技術を探していると同紙に話した。「軍事力の現代化」の実現のため、その範囲は宇宙兵器の材料から次世代の極超音速ミサイルの技術にまで広がっているという。

軍事予算は世界2位、しかも軍事的野心を持つ中国軍とその関係者には、なお一層の厳格な審査を課すべきだと同紙は主張する。

(翻訳編集・李沐恩)