米国務省は8月18日、国際刑事裁判所(ICC、本部オランダ・ハーグ)の赤根智子所長とアブドゥライエ・セイ上級法廷弁護士の2人を制裁対象に指定したと発表した。両名の米国内資産は凍結され、米金融システムへのアクセスが遮断される。赤根氏は2018年からICC判事を務め、2024年3月に日本人として初めて所長に就任した。
ルビオ国務長官は声明で、両名が自国政府の同意を得ていない当局者の捜査・逮捕・訴追にICCの取り組みとして直接関与したと説明した。同じ声明はICCについて、腐敗し、致命的に政治化された超国家的な法廷であり、権限を悪意をもって濫用し、その任務を逸脱してきたと述べている。
ルビオ氏は7月13日、ICCの脅威を解体するための政府横断的キャンペーンの開始を表明しており、8月18日の指定はその延長線上にある。米国はこれまでにICCの18人の判事のうち9人、両次席検察官、前主任検察官らを制裁対象としている。
ICC検察官の解任
米政府がICCを腐敗した法廷と表現した1か月前、ICC自身の締約国会議は同裁判所の検察官を解任していた。
7月24日、ニューヨークの国連本部での特別会合で、締約国会議は秘密投票により、カリム・カーン検察官が重大な非行および重大な義務違反を犯したと認定し、82締約国の絶対多数で解任を決定した。ICC検察官の解任は初めてである。
この認定には手続上の異論があった。3人の判事による独立パネルは3月9日、国連内部監査部(OIOS)の事実認定は非行または義務違反を構成しないとの結論を全員一致で示していたのだ。締約国会議のビューローはこの結論に拘束されず自ら評価を行う方針を多数決で決め、6月8日に懲戒手続を締約国会議に付託し、カーン氏を職務停止とした。カーン氏側は、決定は適法かつ適切に理由づけられた認定に支えられていないとして争う姿勢を示している。
しかし米国が制裁の理由に挙げているのは、この非行の申し立てではなく、管轄権の行使そのものだった。
管轄権をめぐる立場の相違
争点の中心はローマ規程12条2項で、犯罪が締約国領域内で行われた場合、または被疑者が締約国国民である場合に管轄権が及ぶと定める。
米国とイスラエルはこの規程の締約国ではないが、パレスチナは2015年に締約国となっており、これがガザに関する捜査の根拠とされている。
米側は、条約は第三国に義務を課しえないとする原則(pacta tertiis)を根拠に主権侵害を主張している。これに対しては、ローマ規程は非締約国に義務を創設しておらず、領域国がもともと有する属地的管轄権を条約により裁判所に委任したにすぎないとの反論がある。同じ12条2項の構成は、非締約国ロシアの現職大統領に対する2023年の逮捕状の根拠でもあり、日本を含む43か国がウクライナ事態をICCに付託している。
欧州の反発と日本の立場
欧州委員会のフォンデアライエン委員長と欧州理事会のコスタ議長は8月19日、ICCの判事・職員が外部圧力を受けずに独立して行動できなければならないとの見解を示した。またホスト国オランダのベーレンドセン外相は制裁を認めないとし、赤根所長を招いて協議する意向を示した。
EUの域外適用阻止規則(ブロッキング規則)の発動可否で、欧州議会は2025年7月・9月に発動を求める決議を採択したが、発動権限を持つ欧州委員会はこれまで行動していない。米国のキャンペーン開始後、ベネズエラとチャドが脱退を表明した。
全締約国中最大の分担金拠出国で、分担率は約15.4%、約36億9千万円(2024年)にのぼる日本の外務省は8月19日の報道官談話で、ICCを一貫して支持してきた立場から今回の措置は大変残念だと述べたが、米国を名指しした非難の文言は含まれていない。
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