欧州連合(EU)は、カリブ海の5か国に対し、「投資による国籍取得制度」を段階的に廃止するよう求めた。応じなければ、各国の国民がシェンゲン圏へのビザなし渡航資格を失う可能性がある。
対象となったのは、アンティグア・バーブーダ、ドミニカ国、グレナダ、セントルシア、セントクリストファー・ネービスの5か国である。
欧州委員会は6月25日付の書簡で、2028年6月1日までに制度を廃止するよう要請した。移行期間中の措置として、2026年9月までにEUの制裁対象者を申請対象から除外し、すべての申請者に対する審査を強化することも求めている。
EUは、改正された「ビザ停止メカニズム」に基づき、要請に応じない場合には、5か国の国民に認められているシェンゲン圏29か国へのビザなし渡航資格を停止する可能性がある。
投資で国籍を取得する「ゴールデンパスポート」
「ゴールデンパスポート」とも呼ばれるこの制度では、政府指定基金への拠出や不動産投資などを通じて、比較的短期間で国籍とパスポートを取得できる。
カリブ海の5か国は2024年、投資の最低額を20万ドルに統一したほか、本人確認や情報共有を強化する改革を進めてきた。
EUは、国籍を単なる商取引の対象とすることに反対し、国籍を取得する人とその国との間には実質的なつながりが必要だとの立場を示している。
また、審査期間が短く、申請の通過率も高いことから、申請者の犯罪歴や資金源、制裁対象となる可能性などを十分に確認するのは難しいとみている。
さらに、こうした制度には、身元変更に悪用される抜け穴のほか、安全保障やマネーロンダリング上のリスクがあると指摘している。
EUはこれまでも、各国のゴールデンパスポート制度への規制を強めてきた。
2024年末には、安全保障上の懸念を理由に、南太平洋の島国バヌアツに対するシェンゲン圏へのビザ免除を全面的に撤回した。
また、2025年には欧州司法裁判所が、マルタのゴールデンパスポート制度について違法との判断を示した。
中国人が主要な申請者
各国政府や欧州委員会がこれまでに公表した統計や評価報告によると、中国人は長年、カリブ海諸国のゴールデンパスポート制度の主要な申請者となっている。
ドミニカ国とグレナダでは、過去数年間にCBI制度を通じて発給されたパスポートのうち、中国本土や香港からの申請者が、一時は承認者全体の50~70%を占めた。
アンティグア・バーブーダとセントクリストファー・ネービスでも、中国人は長年、申請者数で上位2位以内を占めている。
多くの中国人富裕層にとって、カリブ海諸国のパスポートは、比較的短期間で取得でき、現地での居住を必要とせず、シェンゲン圏やイギリスを含む多くの国・地域へビザなしで渡航できる点などが魅力となってきた。
また、海外での資産運用や節税に利用しやすいことも、人気を集める理由の一つとされている。
しかし、今回のEUの警告を受け、世界の金融機関が、こうしたパスポートの保有者に対する審査を厳格化する可能性もある。
その場合、パスポート保有者は銀行口座の開設や資産審査の際に、より厳格な顧客確認(KYC)やマネーロンダリング対策上のチェックを受ける可能性がある。
カリブ5か国、廃止要求に慎重姿勢
カリブ海の小島国にとって、投資国籍制度は重要な財源となっている。
得られた収入は、病院や学校の整備、道路などのインフラ建設、災害復旧に充てられてきた。
アンティグア・バーブーダのガストン・ブラウン首相は、同制度は国の税外収入を支える重要な柱だと説明した。
そのうえで、持続可能な代替財源が確保されない限り、制度を廃止することはできないとの考えを示した。
5か国の首脳は7月10日に会合を開き、EUへの共同対応を協議した。
今後、申請者の審査や制度の監督をさらに強化するとともに、経済への影響を抑えるため、EU側と投資や開発支援についても協議する方針である。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。