中国の銀行業で利益減少と不良債権の拡大が同時進行している。利ざやは警戒水準を下回り、中小銀行の経営悪化や外資撤退も加速。表面上の安定とは裏腹に、地方債務や不動産問題など潜在リスクが膨張している。
2026年に入り、中国の銀行業が抱えるリスクは明確に高まっている。証券会社や調査機関の一部には「銀行セクターはリスク局面の終盤にある」との見方もあるが、そうした楽観論に惑わされなければ、以下の事実がその実態を比較的冷静に示している。
一、純利益が軒並みマイナスへ──「銀行は必ず儲かる」時代の終焉
国家金融監督管理総局(金融監管総局)のデータによれば、2026年第1四半期の商業銀行の純利益は6323億元(約13兆円)である。しかし、その伸び率は2025年通年の2.3%から一転してマイナス3.7%へと転落し、明確にマイナス成長へと転じた。
子会社を含まない銀行本体の業績、いわゆる単体ベースで見ると、第1四半期の上場銀行の純利益は前年同期比1.2%減となった。業態別では、株式制商業銀行と都市商業銀行がそれぞれ0.3%増、9.7%増と小幅ながら増益を確保した一方、国有大手銀行と農村商業銀行はそれぞれ1.3%減、30.2%減と減益となった。
同時に、不良債権残高と不良債権比率はいずれも上昇し、自己資本の厚みや資金繰りの余力も低下している。
すなわち、業界全体の利益はプラスからマイナスへと転じ、純金利マージン(貸出金利と預金金利の差である利ざや)も安全圏を下回る水準にまで低下している。これはすでに中国銀行業において常態化しつつある現象である。現在の利ざやはおよそ1.4%にとどまり、一般に警戒水準とされる1.6~1.8%を下回っている。
二、帳簿の数字に惑わされるな──なぜ同じ銀行で「増益」と「減益」が併存するのか
一方で、次のような反論もある。A株市場の第1四半期決算では、6大銀行の親会社株主に帰属する純利益の合計は3569億3600万元で、2025年同期比3.63%増となっている。それにもかかわらず、なぜ6大銀行の純利益が前年同期比1.3%減と言えるのか、という疑問である。
その理由は、両者の集計基準の違いにある。
1.3%減という数値は、金融監管総局の業界四半期報告に基づくものであり、中国国内における銀行本体の業務のみを対象としている。海外に設置された独立子会社(工銀アジア、中銀香港など)や、国内の非銀行子会社は含まれていない。
これに対し、A株決算はグローバル連結ベースであり、海外拠点や海外子会社に加え、保険、消費者金融、リース、ファンドなどの非銀行業務もすべて含まれる。
第1四半期においては、ドル高・高金利の恩恵を受けた海外部門や、資産運用や公募ファンドなどの国内総合金融子会社が好調であり、その利益が連結決算を押し上げた。その結果、連結ベースでは3.63%の増益となったのである。
しかし、国内の銀行本業は確実に悪化している。同様に、42行の上場銀行もA株ベースでは約3.0%の増益である一方、単体ベースでは1.2%の減益となっており、連結決算のみを見れば実態を見誤る可能性が高い。
三、農村銀行の利益が3割減──最も脆弱な中小銀行セクター
第1四半期、農村商業銀行の純利益は30.2%減と大幅に落ち込み、中小銀行のリスクは急速に高まっている。
これらの銀行に強い影響を与えている要因は二つある。第一に、利ざやの縮小が止まらないことである。第1四半期の全国平均は1.40%と過去最低を更新した。しかも、過去に高金利で集めた定期預金の金利は固定されているため、短期間で資金コストを引き下げることができない。
第二に、個人向け融資における不良債権処理の負担が拡大していることである。
当局もこの問題を認識している。2023年の中央金融工作会議ではすでに「中小金融機関のリスクを速やかに処理する」との方針が示され、2024年下半期には実際に整理・再編が本格化した。
2024年には合併や解散により約195行の中小銀行が市場から退出し、2025年には494行に急増、2026年上半期だけでも130行を超えている(うち村鎮銀行は97行で、前年同期の1.5倍)。
しかし、この整理のスピードでも、中小銀行のリスク増大には追いついていないとみられる。
四、不良債権──表面は安定、水面下に潜む二つのリスク
公式統計によれば、2026年第1四半期末の不良債権残高は3兆7000億元(約77兆円)で、前期比1742億元増加した。不良債権比率は1.51%で、前年末から0.02ポイント上昇している。
一見すると制御可能な水準に見えるが、実態はより深刻である。
第一に、利ざや1.40%はすでに不良債権比率1.51%を下回っており、その差は拡大傾向にある。貸出による収益は縮小する一方で、不良債権は増加しており、この構造は銀行経営に持続的な圧力を与える。
第二に、3兆7000億元という数値は表面に現れている部分に過ぎず、水面下にはなお二つの重大なリスクが存在する。
(1)地方政府の融資平台債(いわゆる「隠れ債務」)
当局は返済期限の延長と金利引き下げによって問題を先送りしているが、その結果、銀行は長期にわたり低収益かつ流動性の低い資産を抱えることになる。
(2)不動産関連の不良債権
中小デベロッパーの実質的なデフォルトや、個人の返済停止・繰り上げ返済の動きは収束していない。加えて、消費者ローンやクレジットカードの不良債権比率も上昇している。
さらに重要なのは、公式の不良債権比率1.51%が実態を十分に反映していない可能性である。多くの潜在リスクが簿外にとどまるか、未計上のままとなっていると考えられる。
日本総合研究所の関辰一主任研究員は、上場企業の財務データに基づき、2025年末時点で中国の潜在的な不良債権比率は9.3%に達し、前年の7.8%から上昇したと試算している。実際の不良債権の規模は、依然として不透明である。
五、時価総額6000億元が消失──外資の撤退
2026年上半期、A株全体の時価総額は120兆元を突破した。一方で銀行セクターの時価総額は減少し、累計で6000億元(約12兆円)以上が失われた。
年明け直後から急落が始まり、1月5日から16日までの10営業日で申万銀行指数は4.88%下落、約4800億元が消失した。その後も不安定な動きが続き、上半期を通じて縮小幅は6000億元超で推移した。
工商銀行と農業銀行も、それぞれ年初来で1000億元以上の時価総額を失っている。結果として、42行の上場銀行の時価総額は約14兆元にとどまり、A株全体に占める割合は約11~12%と、過去の15%超から低下した。
特に注目されるのは、外資、いわゆる「スマートマネー」の動きである。
第1四半期末時点で、香港経由の中国向き資金が保有する銀行株は149億3600万株、非銀行金融株は58億5200万株で、いずれも直近5四半期で最低水準となった。前期比ではそれぞれ約7%、13.24%の減少である。
外資による金融株の持ち高削減は3四半期連続で続いており、利ざや縮小による収益低下や、従来の「規模拡大によるリスク吸収」モデルの限界が意識されているとみられる。
一方で、こうした売りを受け止めているのは、保険資金や政府系資金である。
結び:表面的な安定の裏側
中国銀行業は、一見すると安定を保っているように見える。例えば6大銀行は依然として安定的に配当を維持している。
しかし、その背景には引当金の取り崩しや非金利収入への依存がある。第1四半期においても、一部の大手銀行は債券投資によるキャピタルゲインで業績を下支えした。
だが、引当金の余力は徐々に低下しており、市場環境が変化すればリスクが顕在化する可能性は否定できない。
中国銀行業を取り巻くリスクは、表面上の数値以上に深刻であり、今後の動向が注視される。
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