中国共産党中央軍事委員会の張又俠副主席が拘束されたとの公式発表後、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、上層部の通報状況に詳しい人物の話として、張が中国の核兵器計画に関する情報を米国に漏洩した疑いがあると報じた。しかし、この記事はすぐさま華人圏や中国情勢に詳しい専門家の間で疑問を呼び、当局から「意図的にリークされた情報」であるとの見方が強まっている。これは、「まず海外メディアに報じさせてから、その実績を国内に逆輸入して世論を誘導する」という巧妙に仕組まれた「情報の逆輸入工作」ナラティブではないかと疑われている。
ベテランジャーナリストの矢板明夫氏は、新唐人の番組「新聞大破解」において、この情報は間違いなく中国側から米メディアへ流されたものだと指摘した。中国共産党が意図的に情報を漏らしたのは、張又俠に泥を塗り、その粛清を正当化するためである。「売国」は許されざる罪であり、核機密の漏洩は極めて深刻な問題だ。過去の慣例に照らせば、少なくとも死刑や無期懲役以上の重刑に相当する。これは習近平の自信のなさを反映しており、「腐敗問題」で張を処理するには、もはや説得力が欠けていることを示している。
矢板氏は長年の北京での取材経験に基づき、「機密漏洩」は単なる口実であり、今回の事件を正当化するための理由に過ぎないと断じた。この説は「根も葉もないデマ」か、あるいは通常の情報交換や米軍との交流を「漏洩」として拡大解釈したものであり、文革以来の粛清で繰り返されてきた常套手段だという。
矢板氏はSNSでも、WSJの報道は「衝撃的だが疑わざるを得ない」と投稿した。張のような地位にある高官は、金も権力も享受しており、経済的利益のためにリスクを冒す必要はない。政治的利益という説も説得力に欠ける。真に合理的な解釈は、彼が「なぜ売国したか」ではなく、当局が彼を「なぜ売国奴に仕立て上げなければならなかったか」にあるという。
中国の政治的伝統において、高官粛清の致命的な罪状は腐敗ではなく「反逆」である。かつての彭徳懐は「ソ連との結託」、失脚後の趙紫陽は米国勢力と通じる「スパイ」としてパッケージ化されようとした。こうした罪名こそが同情の声を封じ、民族主義を動員し、厳罰のための「正当な名分」を与えるからだ。
矢板氏は、北京での10年にわたる取材経験から、厳重に監視されている外国人記者が、張の失脚直後に自らの人脈だけで極秘の内部通報を掘り起こすことは不可能だと指摘する。こうした情報は記者が自ら突き止めるものではなく、「お茶に誘われた(当局者との接触)」際に耳にするものだという。周永康事件の際も、当局関係者が外国記者に接触し、詳細な腐敗の内幕を語る場面を目の当たりにした。その目的は、外国メディアに報じさせてから国内に還流させ、「打倒周永康」という権力闘争に正当性と「国際的なお墨付き」を与えることにあった。
「海外メディアを使って観測気球を上げ、都合の良い物語を構築するのは、中国共産党による世論工作の常套手段だ。重要なのは報道が真実かどうかではなく、それが特定の政治的な狙いに合致しているかどうかである。これは単に張又俠個人を罪に問うためのものではなく、綿密に練られたプロパガンダなのだ」と矢板氏は指摘している。
事実、WSJの報道後、ネット上の華人分析家からも疑問が相次いでいる。元中国外交部高官の韓連潮氏は、今回の罪状が「公式発表の深刻さと釣り合っていない」と疑問を呈している。軍のトップである張なら、軍の核心的な機密はすべて把握しているはずであり、わざわざ核工業集団の顧軍氏から情報を聞き出す必要などないからだ。また、もし本当に国家の存亡に関わるような「核機密の漏洩」が起きたのであれば、かつての林彪事件のように国家を挙げた極限の対応が取られるはずだが、現状の当局の動きはそこまで至っていないと分析した。
天安門事件の元学生リーダー、呉仁華氏も「張又俠が核機密を売るとは思えない。これは民族主義が高まる中国で、彼を処理するための支持を得るために捏造された罪名だろう」とコメントした。
元中央党校教授の蔡霞氏も、これは「罪を加えようとすれば、理由に困ることはない」、いわゆる「いわれなき」罪名だと指摘する。習近平グループによる張又俠らの拘束と公表は党の慣例を破っており、それに対する党内や軍内、紅二代の反発を抑え込むために、対米憎悪を煽る民族主義的な罪名を捏造し、政変の「正当性」を繕っているのだとの見解を示した。
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