2025年の中国で、世界を揺るがすような大事件は起きなかった。
経済が一気に崩れたわけでもなく、街を埋め尽くす大規模な抗議が続いたわけでもない。
それでも、多くの人が「暮らしが確実に苦しくなった」と感じている。
工場は音もなく止まり、店はいつの間にか閉まり、給料は遅れたり減ったりする。
派手な崩れ方ではない。
だが、日常のあちこちから、少しずつ「にぎわい」が消えていった。

給料が出ない それが珍しくなくなった
年末、中国のSNSには同じような声が並んだ。
「昨日まで働いていた工場が、今日はもう閉まっている」。
広東では、稼働を止めた工場に労働者が集まり、何も言えずに立ち尽くす映像が広がった。
遼寧では、地方政府や公的機関で働く人たちから、社会保険や住宅積立金が支払われていないという訴えが相次いだ。
「給料は減らされ、ボーナスや各種手当はすでに消えた。積立金は数字だけ残って、使えない」。こうした声は、役所職員だけでなく、学校や病院で働く人たちからも聞かれる。
「そのうち支給される」と言われ続けるが、時期は示されない。
この「待たされる状態」そのものが、不安になっている。

上海でも進む空洞化
かつて中国経済の象徴だった上海でも、変化ははっきりしている。
オフィスビルの空室が目立ち、駐車場はがらがらだ。
「去年はほぼ満員だったのに、今は3分の2がいなくなった」。
そう語るのは、都心のオフィスで働いていた40代の男性である。
失業者の多くは、家族を支える世代だ。
山東の医療現場では、さらに深刻な状況が続いている。
数か月にわたり給料が大きく減り、時には数百元(数千円)しか支払われない例もある。
「子どもどころか、自分一人も養えない」。そうした声は、もはや珍しくない。

数字と実感が合わない
政府は「雇用は安定している」と発表している。
だが、仕事探しを諦めた人は統計に現れない。
都市で生きられず、故郷に戻っても耕す土地はもうない。
住宅ローンを抱え、親にも言えず、一人で悩む。
そんな投稿が、SNSに静かに増えている。
怒らず 訴えず ただ離れていく
専門家の間では、若者の行動変化が指摘されている。
働かない。
消費しない。
起業もしない。
これは怠けではなく、出口が見えない結果だという。
声を上げる代わりに、人々は社会から距離を取るようになった。
最近、SNSでよく見かける言葉は3つだけだ。
「仕方ない」
「もういい」
「言わないほうがいい」
言葉が減るほど、不満は消えたように見える。
だが、それは解決ではない。

見た目だけ整える経済
一部では、経済データをよく見せる動きも指摘されている。
輸出や成長率は立派でも、現場の仕事や収入は戻らない。
「数字は作れても、生活は作れない」。
現場に近い人ほど、そう語る。
結婚しない 借りない 増やさない
消費は冷え込み、店は次々に姿を消す。
結婚件数も大きく減った。
「結婚しない。子どもを持たない。借金をしない」。
それが今、自分を守る唯一の方法だと考える人も多い。

静かな後退が示すもの
抗議や突発的な事件は点在的に増えているが、組織もスローガンもない。
ただ、限界を超えた個人が、突然あふれ出す。
2025年の中国を覆ったのは、怒りではない。
もっと静かなものだ。
諦めと、沈黙と、ゆっくりした後退。
次に何が起きるのかは、誰にも分からない。
しかし、この「何も起きていないように見える状態」そのものが、
すでに見過ごせないサインになっている。
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