ミサイルが飛び交う戦争だけが、有事なのか。
一般社団法人日本沖縄政策研究フォーラム理事長・仲村覚(なかむら さとる)氏が提示した「沖縄主権喪失へのドミノシミュレーション」は、そうした常識に根本的な問いを突きつける動画だ。
このシミュレーションは、2025年12月30日作成という設定のもと、沖縄の主権が武力衝突ではなく、国際法、国連、人権、メディアといった「法と言論の空間」を通じて段階的に失われていく過程を描いている。
衝撃的な内容だが動画では、「このシナリオを鵜呑みにすることでも、その正しさを証明することでもない。その内部のロジックを丁寧に追いかけることで、法とか情報が兵器になり得る現代の戦いの一つの側面を理解することが目的」と動画の趣旨をあげている。
「静かなる侵略」という前提
仲村氏のシミュレーションが想定するのは、派手な軍事侵攻ではない。前提に置いているのは、「危機管理とは、ありうる最悪の事態を想定して備えること」という考え方だ。
ここで描かれる戦争は、砲火ではなく、定義・法解釈・国際的評価をめぐって進行する。主戦場は国連の会議室であり、国際世論であり、そしてメディア空間である。
4つのフェーズと「ドミノ」の連鎖
シミュレーションは、約20年にわたる過程を4つのフェーズ(段階、局面)に分け、10個の「ドミノ」が順に倒れていく構図で整理している。
第1フェーズ(潜伏・仕込み段階)は沖縄を日本国民の一部ではなく、「先住民族」という枠組みで捉え直す動きが国際社会で進み、同時に沖縄は日本国民から切り離された「自決権(独立権)」を持つ主体として位置づけていることが明らかにされている。
2008年以降、国連の人種差別撤廃委員会などが琉球独立論者らの主張に基づき「沖縄の人々を先住民族として認めよ」とする勧告を繰り返し出してきた。それに対し、日本政府は「勧告に強制力はない」として対応してきたが、そのことが「日本=人権侵害国」というナラティブが国際社会に着々と作られてきたという。
その土壌の下で、今度は「ポツダム宣言優位論」を拡散した。「ポツダム宣言優位論」とはポツダム宣言をサンフランシスコ平和条約よりも上位のルールとし、日本による琉球領有の正当性を否定する法理論(ポツダム宣言受諾論)だ。この宣言に基づけば、日本による琉球を領有する正当な根拠はなくなると述べている。
動画では日本中を震撼させた2010年の「尖閣諸島中国漁船衝突事件」でさえ、これらの活動の陽動だったと。
そしてそれまでの基地反対運動を、単なる施設反対から「先住民族の権利を踏みにじる人権問題」あるいは「植民地解放闘争」へと意味合いを転換する。 また当初の国連を武器として、国内外のNGOなどをネットワーク化し、国際社会へ訴えるための組織的なインフラを整える段階だったと2008年から17年あまりの期間を総括している。
これらの出来事は、ほとんどマスコミは取り上げず、静かに進められてきた。
次の第2フェーズ(サイレント宣戦布告)では、中国を中心とする国連外交が本格化する。
人権問題やポツダム宣言の解釈を用い、日本による沖縄統治の正当性が国際会議の場で公式に争点化される。軍事衝突はないが、国際社会で事実上の「宣戦布告」に近い状況を生むという想定だ。
これらの予測は、10月に中国の国連次席大使が国連総会第3委員会(人権)で「沖縄の人々ら先住民族に対する偏見と差別をやめよ」と日本政府を批判している。
また12月には中国外交部報道官が記者会談で、日本が「中日共同声明」と「いわゆるサンフランシスコ平和条約」を並列していることを批判し、中国はサンフランシスコ条約を法的根拠として認めていない(カイロ宣言やポツダム宣言こそが根拠である)という立場を明確に示している。
この後、フェーズは2026~29年まで第3、第4と続く、これからは仲村氏のシミュレーションの予測の部分となる。本記事の紹介はここまでにしておく。
仲村氏のシミュレーションは「2026年が生存のデッドラインである」とし「ミサイルが飛んできてからが有事ではない。法と定義が書き換えられた瞬間こそが国が滅ぶ瞬間である」と強く警鐘を鳴らしている。
動画は最後に、新たに考えていただきたい問いをあげている。
「情報戦が激化する現代において、国家の安全保障は、戦闘機やミサイルといった軍事的な装備だけでなく、国際社会という舞台で自らの正当性や物語をいかに守り主張できるかに、どれほど依存しているのでしょうか」

ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。