「孤児院で育って、大人になり、働いている人を知っていますか」
中国のSNSに投稿された、ただそれだけの問いかけが、思いもよらぬ反応を引き起こした。
全国に600以上あるとされる孤児院。そこを巣立ったはずの子どもたちについて、数千人がコメントを寄せたにもかかわらず「実際に見た」「知っている」と答えた人は、ほぼ一人も現れなかったのである。
この投稿には2万件以上の共感が集まり、コメントは4800件を超えた。だが、そこに並んだのは証言ではなく、戸惑いと恐怖だった。
「考えたこともなかったが、言われてみると誰も思い浮かばない」
「何十年も働いてきたが、孤児院出身の社会人に会ったことがない」
人々は互いに問い返し始めた。「あの子どもたちは、いったいどこへ行ったのか」
「存在しない」わけがないのに、誰も見たことがない
中国には公式に、十数万人規模の孤児がいるとされている。児童福祉施設も全国に数百か所存在すると公表されている。
だとすれば、社会のどこかで、同僚として近所の住民として取引先として「孤児院で育った大人」に出会っても不思議ではない。
だが、SNSのコメント欄では、「見たことがない」「聞いたこともない」という声ばかりが積み重なっていった。
ある利用者は「コメントを全部読んだが、一人もいなかった。背筋が寒くなった」と書き、別の利用者は「路上生活者や物乞いすら見かけなくなった。孤児院の話題も消えた」と記している。
存在するはずの人々が、社会の中から丸ごと抜け落ちている。この感覚そのものが、多くの人に衝撃を与えた。
コメント欄の空気を決定的に変えたのは、次の一文だった。
「家のある子どもですら行方不明になる。まして身寄りのない子どもたちは」このコメントが、問いを恐怖へと変えた。
元職員の証言が示す「成長後の空白」
コメント欄には、孤児院で働いたことがあると名乗る人物の証言も現れた。
浙江省で孤児院に勤務していたという人物は「10歳以下の子どもしかいなかった。しかもほとんどが障害のある子だった。年長の子は見たことがない」と書いている。
上海の利用者は、「孤児は14歳まで育てられ、その後は別の場所に送られると聞いたが、その先の話は誰も知らない」と投稿した。
いずれも真偽を断定できるものではない。しかし共通しているのは、成長した後の姿が、どこにも見当たらないという点である。
問いが恐怖に変わった瞬間
「有名人の失踪でもなく、事件でもない」ただの問いかけが、これほどまでに人々を不安にさせた理由は明確だ。
それは、「孤児院の子どもたちがどうなったのか」を誰も説明できなかったからである。
近年、中国では若年層の失踪事例が相次いでいる。また、児童を含む臓器移植件数の急増について、海外の人権団体である追查国際が重大な異常を指摘する報告を出している。
これらが孤児院の子どもたちと直接結びつくかどうかは、現時点では分からない。だが、人々がこの問いに恐怖を覚えた背景には、社会全体で「消える人」が増えているという実感がある。
「あの子どもたちは、いったいどこへ行ったのか」その問いは、いまも答えを持たないまま拡散している。そしてその沈黙が、多くの人にとって何よりの不安材料となっている。



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