「サンタに手紙を書く」と聞くと、
現実の話なのかと首をかしげる人もいるだろう。
ところが、それが実際に行われている場所がドイツにある。
舞台は、ドイツ北東部ブランデンブルク州の小さな町、ヒンメルプフォルト。森に囲まれた静かな町だが、毎年クリスマス前になると、世界中から大量の手紙が集まることで知られている。
2025年に届いた手紙は、なんと約28万通。すべて「サンタクロース宛て」の手紙だ。
そのうち約1万4,000通が海外からで、最も多かったのが台湾だった。
では、どんな手紙なのか。
子どもたちがサンタクロースに向けて書いた「お願いごとの手紙」だ。欲しいおもちゃ、ゲーム機、スマートフォン。中には商品カタログを切り抜き、型番まで書いて「これだよ」と念を押す子もいる。
物だけではない。
「家族が元気でいられますように」
「けんかをしないで仲良くしたい」
「平和な世界になりますように」
そんな願いが、つたない字や絵と一緒に便せんに並ぶ。
驚くのはここからだ。
これらの手紙には、本当に返事が来る。
返事は「サンタクロースの名前」で送られてくる。
内容はやさしい言葉が中心だ。「お手紙ありがとう」「家族を大切にしてね」「いい子にしていると聞いたよ」。子どもが書いた内容にも、きちんと触れてくれる。
たとえば「犬が欲しい」と書けば、「犬はお世話が大変だから、家族とよく相談してね」と諭す言葉が添えられることもある。「家族の健康」を願えば、「その気持ちはとても大切だよ」と励ましてくれる。
便せんにはサンタのイラストが描かれ、特別な消印も押される。封筒を開けた瞬間、「サンタから返事が来た」と感じられる工夫が施されている。
もちろん、返事を書いているのは本物のサンタではない。
郵便局の職員やボランティアたちだ。
この習慣の始まりは1984年。
「ヒンメルプフォルトに住むサンタクロースへ」と書かれた子どもの手紙を、郵便局員が見つけた。返送せず、サンタになりきって返事を書いたところ、「本当に返事が来た」と話題になり、翌年から手紙が増え続けた。
現在では、クリスマス前になると人手を増やし、届いたすべての手紙に返事を書くことが伝統になっている。2025年は海外からの手紙も約1万4,000通にのぼり、中でも台湾からが9,000通以上と最も多かった。
サンタクロースが本当にいるかどうかは、人それぞれの考えだろう。
だが少なくとも、この町では――
サンタへの手紙は本当に届き、返事も返ってくる。
そんな、絵本の中のような習慣が、今も現実として続いている。

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