香港・大埔(タイポー)の宏福苑(Wang Fuk Court)で11月26日、1996年以来で最も深刻とされる第5級火災が発生した。強風にあおられて火勢は急速に拡大し、住宅棟8棟のうち7棟が延焼、多くの住民が取り残され、数千人が自宅を離れる事態となった。
特区政府の最新発表によれば、この災害で少なくとも36人が死亡、40人が負傷し、さらに279人が行方不明となっている。火災の原因は調査中だが、現時点で放火などの悪意のある攻撃の可能性は除外されたとされる。
現場の目撃者によると、火災発生時には突発的な大きな爆音があったという。住民の張さんはロイター通信に対し「午後2時45分ごろに非常に大きな音を聞いた。その直後、近くの建物で火の手が一気に上がった」と語った。
張さんはさらに、「大きな音を聞いて慌てて身の回りのものを少し持ち出したが、今はどうしていいかわからない。今夜どこで寝ればいいのか、もう家には戻れないだろう」と不安を口にしている。
火勢は7棟に拡大
宏福苑は1983年に入居開始。31階建て全8棟・1984戸を擁し、4千人以上が暮らしている。
最初に出火したのは吐露港側に最も近い宏昌閣(F棟)とみられ、火はすぐに宏泰閣(E棟)ほか周辺の建物へ延焼。最終的に8棟中7棟が被災した。
宏福苑では65歳以上の高齢者が約36%を占め、香港全体の平均より大幅に高い。高層階に多くの高齢者が取り残され、救助活動は困難を極めている。
70歳の王姓の女性住民はロイターに対し、「他の棟が次々と燃えていくのを目の前で見ていた」と語り、行方がわからない高齢者を探す住民の姿も見たと話した。避難後、多くの住民は警戒線の外側から燃える住居をただ見守るしかなかった。
住民「火災報知器が鳴らなかった」
消防当局によると、建物内部は高温で、消防隊は複数棟の高層階に到達できていない。多くの住民がいまだ取り残されており、37歳の消防士1人が殉職した。
専門家は、屋苑(住宅団地)では改修工事が行われており、外壁に竹製の足場が組まれていたことを指摘。可燃性の竹足場が火の拡大を助長した可能性がある。
ある住民はCNNに対し、火災時に室内の火災報知器が作動しなかったと述べ、避難判断が遅れた理由の一つになったと語った。
また、ある退職したばかりの男性は「数万香港ドルをかけ、8か月かけて改装した部屋にこれから住むつもりだったのに、すべて燃えてしまった」と肩を落とした。
CNNによると、現場ではなぜより多くの消火装備や消火ヘリが投入されなかったのか疑問視する声もあがっている。
救助のピーク時には、消防・救護要員300人以上、消防車数十台が投入され、消火と救助にあたった。
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