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大学入学拒否した学生五千人 崩れゆく中国「大学神話」

2025/11/03
更新: 2025/11/03

世界で最も過酷な「受験地獄」といえば、中国の大学入試だろう。試験当日には全国が「大学入試モード」に入る。工事は中断され、交通規制が行われ、救急車も待機する。このような全国的な「受験支援」の光景は、中国社会における大学入試の重みを物語っている。

しかし、今年の大学入学シーズンは例年にない冷え込みを見せた。全国で5千人を超える合格者が、入学通知を受け取りながらも大学進学を辞退したのだ。なぜ、このような現象が起きているのか。

ネット上では「経済が冷え込んでいる今、大学に行くことは先生の雇用を助けるだけだ」といった皮肉の声まで上がっている。動画で話題になった私立大学だけでなく、名門・上海交通大学でも、合格後に入学を見送る学生が現れている。

上海交通大学といえば、中国国内では清華大学や北京大学に次ぐ名門校である。実力と運を兼ね備えなければ合格できないとされるこの大学への入学機会をあえて辞退し、別の大学を選ぶ学生が出ているのは「卒業後に安定した職を得たい」という理由からだ。これだけを見ても、中国経済の悪化が深刻であることが伺える。高額な学費、人気のない専攻、就職難など、こうした要因が若者たちに「教育と経済システムの犠牲者にはなりたくない」との思いから、大学進学を避ける選択を余儀なくしているのだ。

最近、上海東華大学の学部入試オフィスが「新入生43人が入学資格を放棄した」との告示を発表した。この知らせは瞬く間にネット上で大きな話題となり、10月27日には中国の検索トレンドの上位にランクインした。

同大学は10月17日、公式サイト上に「2025年度学部新入生の入学手続き日は9月11日であり、43人が期限までに入学手続きを行わなかったため、入学資格を放棄したものとして扱った」と発表した。

対象となった43人の学生は、紡績学院、服装・芸術デザイン学院、機械工学学院、情報科学技術学院など複数の学院に所属していた。

東華大学は中国教育部直属の大学であり、国家が重点支援する大学に指定されている。

これを受け、ネット上では議論が巻き起こった。「手続きをしなかった学生は技術学校に進んだのだろう」「友人がこの大学の服装デザイン専攻を卒業したが、仕事が見つからなかった。今では専攻選びの反面教師になっている」「就職先がなく、給与も低く、環境も悪い専攻は避けるしかない」といった声が寄せられている。

「この43人の若者たちは冷静な判断を下した」「もう大学生の価値は下がった」「大学に行っても工場でネジを締めるだけ」「現実を理解して騙されなくなった」との意見も少なくない。遼寧省のネットユーザーは「うちの地域では修士卒業でもデリバリーの仕事をしている。そんな状況で勉強してどうするの」と嘆く声が聞かれる。

東華大学の入試担当者は、メディアの取材に対し「入学手続きを行わなかった学生全員に連絡を取り、事情を確認した。そのうち一部の学生は再受験を希望しており、香港・マカオ・台湾出身で地元で学びたいという学生もいた。また十数人は第二学位を取得するために入学する予定だったが、満足のいく仕事を見つけたため入学を辞退した」と説明している。

こうした事情を踏まえても、ネットユーザーの反応は厳しいものだ。「数年前は大学のほうが強気だったのに、今では学生に頭を下げる時代になった」「学費が高すぎて通えない」「これからは大学が学生を奪い合うようになるだろう。おばさんたちの卵の争奪戦より激しくなるかもしれない」などの声が見られた。

清華大学の教育研究者・黄文翰氏は「今の大学生はもはや名門大学への憧れを持たず、より現実的な就職や生活のプレッシャーを重視するようになった」と指摘している。

黄氏によると、中国経済の停滞と企業のリストラが、学生の進学や就職選択に深刻な影響を与えているという。彼らは決して努力を怠っているわけではなく、学歴と現実のギャップを冷静に見極めているのだ。

全国的に広がる「大学入学を辞退するブーム」の理由は、突き詰めれば二つに集約される。学費の高さと、就職の困難さだ。

さらに荒唐なのは、一部の大学までもが就職データの「美化」に加担していることだ。中国伝媒大学のある卒業生によると、学校の担当教員から「抖音(TikTok)」のアカウントを開設し、卒業後の進路欄に「柔軟就業(フレキシブル就業)」と記入するよう求められたという。その結果、収入のない架空のアカウントが「就職成功」として統計に組み込まれた。しかし、彼の現実は、収入もなく、将来も見えないままである。

このような「柔軟就業」とされる若者の多くは、実際には親の支援に頼って生活している。社会学者たちは「彼らは『完成できず、放置された子供』のような存在だ」と指摘する。十数年分の教育投資に注ぎ込んだにもかかわらず、社会から見捨てられている。

失業は単なる経済的な数字ではない。それは無数の家庭の涙であり、社会の崩壊の徴候だ。親たちはSNS上でこう嘆いている。「家の私財を売ってまで子供を大学に通わせたのに、卒業後は家で親の援助に頼っている」こうした家庭では、家計全体が苦境に陥っている。

ブロガー「在野説」は次のように語る。「『放棄された建物』との違いは『放棄された建物』は鉄とコンクリートの塊だが、『放置された子供』は生きた人間の一世代だということだ」

それでも中国共産党当局は、現実を覆い隠し、表面を取り繕う姿勢を続けている。「在野説」は、政府は中国経済の構造がすでに巨大な労働力を吸収できないという根本的な問題に向き合おうとしていないと指摘する。さらに恐ろしいのは、A Iやグリーンエネルギー、新エネルギー自動車など、期待を集める次世代産業の多くが「自動化」を中核にしている点だ。

これらの華やかに見える産業でも、実際に生み出す雇用は極めて限られており、むしろ減少傾向にある。社会学者は「これらの産業は就業市場にほとんど寄与していない」と指摘する。その結果、若者たちの不安と混迷は一層深まっている。

この就職難は単なる一時的な現象ではなく、構造的な問題である。教育制度と経済構造の深刻なミスマッチは、まるで底なしのブラックホールのように若者世代を次々とのみ込んでいる。この「就職氷河期」は、短期間では終わらず、数年あるいはそれ以上続く可能性がある。