中国共産党の第4回中央委員会総会(四中全会)の前後で、習近平と軍部中枢の張又侠派による権力闘争が激化している。台湾への武力行使方針や大規模粛清を巡り、軍内外で深刻な対立が続き、政権と軍の構造変化に注目が集まっている。
四中全会の前後、軍内部で権力再編が一段と激化している。軍のナンバー2である張又侠派が習近平による粛清に反発し、台湾への武力行使方針をめぐる対立が表面化している。2025年の四中全会での人事配置では、中央軍事委員会副主席の任命が軍内で続く激しい権力闘争を象徴している。
複数の軍関係筋によれば、中央軍事委員会副主席の張又侠と習近平の間では「台湾に対する武力行使の是非」をめぐり深刻な対立が生じたという。ある関係者は「張又侠は複数の内部会議で即時の武力行使に明確に反対し、台湾の防衛体制はイスラエルに次ぐ水準で、ウクライナを上回ると指摘した。両会前には、アメリカ・日本・オーストラリアおよびファイブ・アイズ(五眼同盟)が介入する可能性が極めて高いと警告し、戦いが長期化すれば中国国内の不安定化を招くと主張した。また、解放軍の現有兵力と後方支援体制では長期戦の維持は困難だと訴えた」と語る。
台湾武力侵攻をめぐる意見対立の激化
張又侠は、経済の低迷と外交的孤立が続く中で、今は武力行使に踏み切るべきではないとの立場を取っている。関係者によれば、この姿勢が習近平には「軍心を揺るがす言動」と受け止められ、軍幹部の大規模粛清の引き金となったという。
長年軍に近い消息筋によると、習近平は「反腐敗」を名目に紀律検査機関と装備システム部門に命じてロケット軍と装備部門の調査を進めたが、実際の狙いは張又侠の影響力抑制にあった。その結果、ロケット軍では全面的な取調べと粛清が行われ、多数の高級将校が取り調べを受けた。圧力を受けた張又侠は人事方針を覆し、習派に属する軍政幹部を審査対象とした。政治工作部門の苗華や、前副主席の何衛東もその対象に含まれていた。消息筋は「これは軍内の生死を賭けた戦いだ」と語る。張又侠は劣勢の立場から反撃に転じ、最終的に職位と派閥基盤を守り抜いたという。
取材によれば、張又侠は依然として中央軍事委員会副主席を務め、軍内で確かな影響力を維持している。「四中全会前後、党と軍の双方で権力闘争がさらに激化しており、東南沿海での海空軍による巡回任務を除き、その他の演習や部隊交代の多くが停止されている」との見方もある。
消息筋はさらに、習近平がロケット軍と装備システムの一掃を指示し、張又侠派の弱体化を図ったものの、粛清の過程で形勢が逆転し、張又侠系が反撃に成功したと明かす。その結果、習派に近いロケット軍や政治工作部門の将官が多数取調べ対象となり、四中全会前に一部の処分結果が先行発表された。これにより、粛清のスケジュールが前倒しされただけでなく、方向転換も行われた。
習近平は2012年の党首就任直後から反腐敗運動を展開し、多数の高級将領を粛清してきた。2022年の3期目入り後はさらにこれを強化し、2023年以降には軍全体で新たな大規模粛清を実施。十数名の将官や航空宇宙・国防産業幹部を解任している。
2023年10月には、国防部長の李尚福が免職されたが、当局は理由を明らかにしなかった。さらに2024年半ばには、新華社通信が李尚福と前国防部長魏鳳和の両名が「重大な規律・法律違反」により党籍を剥奪され、司法移送されたと伝えた。現役と元の2人の国防部長が同じ日に党籍を剥奪されたのは、中共建国以来初の異例の事態である。
アメリカ中央情報局(CIA)で中国問題を担当した元分析官のデニス・ワイルダー氏は『ディプロマット』誌への寄稿で「張又侠は軍内の旧世代および太子党エリートを代表する存在である」と指摘している。
李尚福は張又侠の愛弟子であり太子党でもあったため、その処遇に張又侠は強い憤りを示したという。ワイルダー氏は「張又侠はその後、(習近平の側近)苗華と何衛東を標的に報復に出た」と分析している。
取材によれば、張又侠は一時粛清の標的となったが、最終的に習近平側近の複数人を逆に失脚させ、軍内の勢力図に変化をもたらした。関係者は「四中全会後、中央政治局は23人体制に調整され、意思決定構造が再び奇数制に戻った。これは最高指導部が再び均衡を図ったことを示す」と説明する。以前の24人体制は異例と見なされており、張昇民が政治局入りを見送られ軍委副主席にとどまったことは、上層部間の妥協の結果とみられている。
政治局構成に見える派閥間の妥協
10月17日、中共軍当局は9人の高級将校を党籍・軍籍剥奪処分としたと発表した。その中には、軍のナンバー3である中央軍事委員会副主席の何衛東や、軍委委員で海軍上将の苗華らが含まれていた。
関係者によると、この9人の処分は四中全会でも追認され、権力闘争で張又侠がやや優位に立っていることを示している。現在、党と軍の双方で分裂が進行しており、習近平が直接抜擢した少数の将官を除けば、多くが張又侠派に傾いているという。張又侠は中共の党務・行政面では劣るものの、軍権を握ることで依然として強い牽制力を持っている。
関係者は「この闘争は両会前後から現在まで続いており、張又侠は地位を守り抜き、習近平が築いた軍中ネットワークに大きな打撃を与えた」と述べる。
異例の粛清を報じる国外メディア
ロイター通信は10月17日付で、中共当局が2人の高級将校の党籍を剥奪したと報じた。うち1人は前中央軍委副主席の何衛東であり、これは「文化大革命」以来、軍における最上級レベルの罷免の一つとされた。『ワシントン・ポスト』紙は、一連の粛清は名目上「反腐敗」とされているものの、実際には「台湾侵攻をめぐる方針の不一致」が深刻化していることを反映していると分析した。ロケット軍では戦略立案に関わった複数の将校が取り調べを受けており、戦略上の進度や目標設定をめぐって見解の不一致が生じていることがわかる。複数の海外メディアも、軍内の対立が依然深刻であると指摘している。
軍関係筋によれば、四中全会前に発表された9人の将官の党籍・軍籍剥奪処分は、張派と習派の対立がなお続いている証拠であるという。「張又侠は当初、攻撃を受ける立場と見られていたが、最近の粛清では反撃に転じ、習派に属する複数の幹部を失脚させた。張又侠は軍委副主席としての地位を維持することで派閥の安定を図り、発言権を保っている。四中全会の公報に台湾侵攻の時期が明記されなかったのも、軍内が慎重姿勢に転じた現れとみられる」との見方も出ている。
技術派と政治派の角逐
北京の複数の退役軍事学者は、大紀元の取材に対し、張又侠は現行の軍委体制で「技術・作戦派」を代表し、安定とリスク管理を重視していると述べた。国防大学の元講師によると、ロケット軍は近年の体制変更で戦略的自律性を失い、意思決定過程が政治的に偏っているという。張又侠は内部会議で「制空権と電子戦の優位性を確保できないまま開戦すれば、敗北は避けられない」と警告していた。この発言は習近平が掲げる「統一プロセス」路線と明確に対立している。
識者らは総じて、中共軍で相次ぐ人事粛清は、上層部での権力闘争が依然として収束していないことの表れであると指摘する。アメリカ国防総省の報告でも、台湾攻撃戦略と軍権集中をめぐる中共内部の対立が深まっており、軍委副主席の張又侠が依然として影響力を持ち、四中全会前後では権力闘争の核心的存在となったと分析している。
専門家らは、張又侠が軍内の技術派に属し、作戦条件とリスク評価を重視する点で、政治的思惑を優先する習近平と根本的に対立しているとみている。今回の権力闘争は、中国共産党の軍部と政治システム内部に横たわる深層的な亀裂を浮き彫りにしたものであり、ある学者は「第21回党大会に向け、こうした権力競争は一層表面化し、政治的立場の明確化が進む」と総括している。
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