アメリカにおける外国人学生・就労ビザ制度の全面的な厳格化により、中国人留学生は米中両国の政策的対立の狭間で、ますます困難な板挟みの立場に追い込まれている。
アメリカの就労ビザ「H1B」制度の改革に加え、学生ビザの審査強化や取り消し、さらには入国時の強制送還といった事態が頻発し、中国人留学生のアメリカ留学はかつてない困難と不確実性に晒されている。その背後には、経済・安全保障および政治的観点から戦略的調整を図るアメリカ政府の政策判断がある。
数々の壁が立ちはだかる中 なぜ留学を
中国人留学生を巡る話題として、不正資産による中共幹部の子弟の海外留学や、「留学生スパイ」の派遣といった事例がしばしば取り上げられる。しかし今回はそうしたケースを対象とせず、純粋に学びを求めて海外に渡る学生たちに焦点を当てる。彼らはなぜ、莫大な費用や孤独を引き受け、米中関係の緊張というリスクを承知で留学を選ぶのか。留学によって開かれる可能性、そして留学を選ばなかった場合に閉ざされるかもしれない道筋の違いについてみていく。
「H-1B」ビザ改革と留学生の将来への影響
中国の国内学生と海外留学生は、実際まったく異なる人生を歩んでいる。そうした中、9月19日にはトランプ大統領が大統領令に署名し、今後「H-1B」ビザの申請ごとに雇用主へ10万ドルの費用負担を義務付けた。この大統領令は9月21日午前0時から施行している。
「H-1B」ビザは、アメリカ企業が外国人の専門職人材を採用するための極めて重要な手段であり、とりわけハイテク企業が高学歴や技術を持つ人材を雇用する際に活用されてきた。従来、申請費用はおおよそ1千ドル程度であったが、新たな規則ではその100倍に当たる高額な負担が課される。この結果、多くの国際学生が卒業後にアメリカで就業する道は大きく狭まり、企業側も、よほど突出した人材でなければ100倍のコストを支払ってまで雇用しなくなると見込まれている。
この動きはマイクロソフトやアマゾン、JPモルガンといったハイテクおよび金融の大手企業にも衝撃を与え、各社は外国籍の社員に対し「直ちに休暇や旅行の計画を中止し、ビザの有効性維持に細心の注意を払うように」といった緊急の呼びかけを行っている。さらに一部のブロガーは「アメリカに残る留学生は、容易に帰国しようとはしない」と指摘している。
これまで米欧では、留学生が無事に卒業し仕事を得られれば、比較的安定した生活を送ることができた。
米国際貿易局(ITA)のデータによると、今年8月に学生ビザでアメリカに入国した人数は過去4年間で最低となり、特にアジア出身の学生に大きな影響が出ている。中国人学生の同月の入国者数は前年同月比で12%減少し、アジア全体では24%減少した。国際教育協会(NAFSA)は、今秋の新入生数が最大で40%減少する可能性があると見込んでいる。
政策の不確定性は申請段階にとどまらず、ビザ保持者の日常生活にも深刻な影響を及ぼしている。今年4月以降、アメリカ国内の270以上の大学で、「F-1」または「J-1」ビザを保持する1700人以上の国際学生が、学生・交流訪問者情報システム(SEVIS)から抹消され、一時的に合法的な在留資格を失う事例が相次いでいる。こうした影響を特に大きく受けているのが中国人学生だ。
ビザ抹消の具体的な理由は明らかにされない場合が多いものの、学生コミュニティでは「SNSでの発言」「交通違反」「警察との接触」「研究分野の敏感さ」「家賃の支払い遅延」など、重大な犯罪行為ではない場合でも影響が及ぶのではないかと噂されている。弁護士によれば、国土安全保障省が幅広い犯罪記録を対象としたスクリーニングシステムを導入した可能性が指摘されている。
22歳の中国人学生、顧さんは、有効なビザと学費・生活費を全額カバーする奨学金を受けていたにもかかわらず、テキサス州の空港で36時間にわたり拘束され、最終的に送還措置を受け、5年間アメリカへの入国が禁止となった。この事例は、合法的な資格を有していても、入国拒否される現実を示している。
アメリカの政策の背景 経済と安全保障の観点
アメリカが留学生へのハードルを高く設け直している背景には何があるのか。中国問題専門家の章天亮氏は、「H-1B」制度の改革には、企業の外国人労働者への依存を抑制し、アメリカの若者への投資や雇用競争力の強化、さらに教育への意欲向上を促す狙いがあると分析している。また、ラトニック商務長官も、「H-1B」制度はインドのアウトソーシング企業により濫用され、賃金の低下や現地雇用の圧迫、さらには国家安全保障上のリスクを招いていると指摘する。
また、国家安全保障の観点から、中共による海外に対する影響力の拡大は、中国人留学生に対する疑念や警戒感を高める要因となっている。
中共は10年以上前から「千人計画」や「春暉計画」といった大規模な人材政策を展開してきた。近年では、多くの「留学生」を通じてアメリカの大学や研究機関に入り込み、学術交流を装って技術の窃取や情報収集を組織的に行う動きが見られる。こうした活動は、学術界の信頼性だけでなく、米欧の国家安全保障や技術的優位性に対しても深刻な脅威をもたらしている。
表向きは「優秀な人材」と見られる留学生の中にも、実際には中共の指示を受けてアメリカの最先端研究成果を取得する「任務」を請け負っている人物が存在するとの指摘がある。
近年、海外の情報機関や報道によって、一部の中国人学生が中共公安部や国家安全部、軍関係者の子息である実態が明らかになっている。こうした「特権留学生」は、一般の学生に比べて多くの資源を持ち、隠れた意図を抱えている。
また、中共に自発的に協力する学生だけでなく、圧力や脅迫によって協力するケースもあるといわれている。
今年夏、スタンフォード大学で中国問題を研究する学生「アンナ(仮名)」さんは、「チャールズ・陳」と名乗る偽の学生から接触を受けた。最初は雑談から始まり、その後中国語の能力を尋ねられ、北京への招待や滞在費用の支援といった提案を受け、さらに本人が公開していない情報まで伝えられた。また、「必ず微信で連絡を取ること」「チャット履歴を削除すること」も求められたため、アンナさんはスパイではないかと思い、アメリカ当局に通報した。調査の結果、「陳」は長年にわたり中国研究の関係者と接触を図っており、中共国家安全部に関与している疑いが浮上している。
『スタンフォード・レビュー』や『フォックス・ニュース』によれば、中共によるアメリカ内でのスパイ活動には「三段階のメカニズム」が存在すると報じられている。まずAIやロボット工学、中国研究など特定分野の対象者を選定し、次に忠誠心のテストを行い、最終的に研究ノートや実験データ、教授との会話などの敏感な情報提供を指示される事例がある。これは偶発的なケースではなく、組織的かつ体系的な浸透工作といえる。
中国人学生が協力を拒否した場合、国内に残る家族が警察に脅迫されることもあり、学生間で強い恐怖感が生じている。大学のキャンパス内では「接点役」とされる人物が日常的に情報収集や監視を行っているともいわれる。
専門家たちは、アメリカの大学側に向け、こうしたスパイ活動の実態の公開と透明性の向上を求めている。
中国人留学生は一方で、アメリカの政策による身分や生活の不安、そして中共のスパイ活動からくるプレッシャーで容易に母国へ帰国できず、またアメリカに残ってもビザや就労の不安がつきまとう。完全な外国人にも現地人にもなりきれない「板挟み」の状況に置かれているのが現状だ。
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