中国経済の減速と、企業に従業員の年金・医療・失業・労災・出産の5種の社会保険料を強制負担させる「社会保険料負担制度」の影響で、製造業の現場でストライキや抗議が相次いでいる。
ここ1週間だけで河北省、広東省、上海市、重慶市などで少なくとも7件の労働争議が発生。制度は労働者保護を目的とする一方、中小企業には人件費の急増となり、経営を直撃、その負担は最終的に労働者に押し付けられている。
8月8日、上海市の「国利汽車真皮飾件有限公司」では数百人が退職補償金の増額を求めて抗議。同社は従業員数千人規模で、自動車向け高級本革内装部品を主力に、高速鉄道や航空機向けの革製品も手がける業界大手だ。昨年は未払い賃金で道路封鎖の抗議が発生し、今年も再び労働争議に発展した。

同日未明、広州市の紙製パッケージ製造企業「凱藝紙品包裝有限公司」が突如閉鎖した。工場は無人となり、社長は行方不明、直ちに破産を宣言。約200人が未払い賃金を求めて門前に集まり、労働者は「年間利益は20万元(約400万円)なのに新制度で毎月50万元(約1千万円)の負担が発生し、経営など続けられるはずもない。案の定、倒産した」と憤った。

8月7日と9日には、広州市のある衣料品製造企業では百人以上がストライキ。月給5千元(約10万円)のうち約4割が保険料に充てられ、手取りは3千元(約6万円)に減少、負担転嫁に反発が広がった。
河北省石家荘市の国藥樂仁堂医薬有限公司では8月6〜7日、解雇された数十人が補償金を求め抗議。同社は漢方薬や医薬品を全国販売する老舗だが、勤続年数の自己証明を求めるなど支払いを渋り、「人事記録は会社にあるのに嫌がらせだ」と批判が噴出した。
南部の製造業集積地でも抗議が続発。8月11日、深セン市の「雷松科技」では移転補償をしているが、別の半導体設備メーカーでは退職補償をめぐり、従業員が激しく抗議する事態となっている。重慶市北碚区の北大医薬公司(製薬・医療製品を扱う中規模企業)でも、退職強要とみられる人事に反発が起きた。
この事態に、専門家からは深刻な影響を懸念する声が相次いでいる。本紙に対し、深センの労働者権利擁護団体元メンバーの劉氏は「制度施行後、多くの工場が倒産。経営の厳しい企業には致命的だ」と指摘。中国本土のベテラン記者で大学退職教授の李松氏も「倒産の波は全国に広がり、数千万人規模の失業を招きかねない」と警告した。

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