5月18日に実施されたポーランド大統領選挙の第1回投票で、与党「市民連立(KO)」のラファウ・トシャスコフスキ氏が僅差でトップに立った。世論調査会社イプソスの出口調査によると、トシャスコフスキ氏は30.8%の票を獲得し、29.1%を得た保守派の歴史学者カロル・ナヴロツキ氏をわずかに上回った。ナヴロツキ氏は、最大野党である国民保守政党「法と正義(PiS)」の支持を受けている。
トシャスコフスキ氏はワルシャワ市長で、親欧州・中道リベラルを掲げるドナルド・トゥスク首相率いるKOの有力政治家。一方、ナヴロツキ氏は政界では新顔ながら、PiSの保守的で地方中心の支持基盤から後押しを受けている。
投票は現地時間午前7時から午後9時まで行われ、約2900万人の有権者が投票資格を持っている。
国家の進路を左右する選択
今回の選挙は、ポーランドがトゥスク政権のもとでEUとの統合をさらに進めるのか、それともナショナリズム路線へと転換するのかという、国の進路を左右する重要な岐路となっている。
ポーランドの大統領には法案に対する拒否権が与えられており、新大統領がトゥスク政権の改革路線を支えるのか、それとも牽制するのかが注目されている。
トシャスコフスキ氏は、ポーランドのEU政策における主導的役割の確立を訴え、ウクライナへの軍事支援を支持する立場をとる。移民政策については、より厳格な対応を求める発言も行っている。
一方、ナヴロツキ氏はEUに対して懐疑的で、ポーランドの主権を重視し、アメリカとの関係強化を掲げている。トランプ米大統領の「アメリカを再び偉大に」というスローガンに影響を受けたと述べており、中絶やLGBTの権利拡大には強く反対している。同氏の政策は、カトリック的価値観に根ざしたPiSの方針に沿っている。
有権者の間では、今回の選挙が長年の政治的行き詰まりを打開するきっかけになるとの期待も高まっている。
匿名のポーランドのヒューマニストは新唐人テレビに、「今回の選挙は、異なる国家像がぶつかり合う場面だと感じている。ポーランドにとって非常に重要な選択だ。さまざまな意見の違いがある中でも、新しい大統領には社会の分断を和らげ、国民の間により多くの合意と調和をもたらしてほしいと思っている」と語った。
決選投票は6月1日に
過半数を得票する候補がいなかったため、6月1日に決選投票が行われる見通しだ。現時点では、トシャスコフスキ氏とナヴロツキ氏の一騎打ちとなる可能性が高い。
トシャスコフスキ氏は支持者に「我々は勝利を目指している。接戦になるとは思っていたが、まさにその通りだ。まだやるべきことは多く、強い決意が求められる」と語った。
ナヴロツキ氏もまた、「第2ラウンドでの勝利に自信がある」と語った。
今回の選挙には計13人の候補が立候補している。注目されるのは、極右政党コンフェデラツィアから出馬したスワヴォミル・メンツェン氏。SNS、特にTikTokで若者から高い支持を集めており、決選投票に進出する「ダークホース」として名前が挙がっている。
ポーランド人デザイナーのクシシュトフ・オレシンスキ氏は、メンツェン氏を含む複数の候補を支持していると語り、次のように述べた。
「私は、将来のポーランド政府が現在のトランプ政権と連携していくことを望んでいる。EUは人々の生活を支配したいという野望を持っているように見えるが、私はそれを支持しない」
「人々が必要なのは、本物の民主主義であって、心理的な操作ではない」
欧州と世界への影響
この大統領選挙は、ロシアによるウクライナ侵攻の継続、ヨーロッパにおける保守的価値観への支持の高まり、そして米欧関係の再構築という大きな流れの中で行われている。
ポーランドはEU加盟国の中で5番目の人口規模を誇り、経済規模でも6番目に位置する。ロシアによるウクライナ侵攻以降、欧州の政治舞台においてポーランドの存在感は一段と高まっている。
5月7日には、就任直後のドイツのメルツ首相がワルシャワを訪れ、トゥスク首相と会談。その前日にはパリでエマニュエル・マクロン仏大統領とも会っていた。
さらに5月9日の「ヨーロッパ・デー」には、トゥスク首相がフランス・ナンシーを訪れ、マクロン大統領と新たな仏ポ友好条約を締結。「揺るぎない団結」を両国で宣言した。
その翌日には、トゥスク氏がマクロン氏、メルツ氏、イギリスのキア・スターマー首相とともにキーウを訪問し、ロシアとウクライナ双方に対し、即時かつ無条件の停戦を求めた。
地政学的に見ても、ポーランドはNATOとロシアの影響圏の境界に位置し、東はベラルーシ、南はウクライナと接していることから、地域の安全保障において極めて重要な役割を担っている。
ロシアの侵攻以降、ポーランドは迅速にウクライナ支持を表明し、軍事支援の提供や避難民の受け入れにおいて、ヨーロッパの中でも最も積極的な国の一つとなっている。
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