日本製鉄はUSスチール買収計画の承認を得るため、米政府に重要な提案を行った。
2024年12月31日付けの米紙ワシントン・ポストの報道によると、日本製鉄はUSスチールの生産能力削減に対する拒否権を米政府に与えることを提案した。複数のメディアが同社の報道を引用して伝えている。
日本製鉄はホワイトハウスに送付した文書で、財務省主導の審査パネルの承認がない限り、米国内のUSスチールの生産能力を10年間削減しないと確約した。
この提案は、対米外国投資委員会(CFIUS)が2024年12月23日に全会一致の結論に至らず、買収の可否の判断をバイデン大統領に委ねたことを受けてのもの。
バイデン大統領はCFIUSの報告を受けてから15日以内、つまり2025年1月7日までに判断を公表する必要がある。
さらに、米国の独占禁止法に基づく審査も継続中であり、これらの要因により、日本製鉄は買収完了の時期を2025年3月まで延期せざるを得なくなった。これは2度目の延期となる。
日本製鉄は、バイデン大統領に対して「公正かつ事実に基づいた評価」を行うよう強く要望している。同社は、この買収がUSスチールを支え、成長させるとともに、米国の労働者と顧客の利益に貢献する「総合力世界No.1の鉄鋼メーカー」を創出すると主張している。
しかし、バイデン大統領はこれまで買収計画に否定的な姿勢を示してきたことから、最終判断の行方が注目されている。
1月7日までにバイデン大統領の判断が無ければ、自動的に買収計画は承認される。
12月31日、USスチールの株価は9.5%高の33.99ドルで終了した。
買収の背景
日本製鉄によるUSスチールの買収計画は、日本の鉄鋼業界が直面する課題と米国市場の魅力が交差する重要な戦略的動きだ。
日本製鉄が買収に乗り出した主な理由は、国内市場の需要頭打ちと海外展開の必要性にある。日本国内の鉄鋼需要は右肩下がりの傾向にあり、日本製鉄は未曽有の厳しい事業環境に直面している。この状況下で、世界に活路を見出す必要性が高まっていた。
一方、米国は中国やインドに次ぐ世界第3位の鉄鋼消費国であり、国内の鉄鋼需要が供給を上回っている。さらに、トランプ新大統領による関税引き上げが予想され、中国からの安価な鉄鋼製品の輸入が制限される可能性が高まっている。これにより、米国内での鉄鋼需要はさらにひっ迫する見込みだ。
USスチールの魅力
USスチールは、高炉8基(うち2基は休止中)と電炉5基(うち2基は建設中)の生産能力を有し、日本製鉄にとって魅力的な資産となる。日本製鉄の技術をUSスチールの設備に導入することで、生産性と生産量の向上が期待される。また、USスチールは環境技術に優れた最先端の電炉メーカーを子会社に持っており、両社の統合後の粗鋼生産高は世界3位の規模まで拡大する可能性がある。
中国不動産不況の悪影響
中国不動産市況の不調が鉄鋼需要に悪影響を与えている。中国国内の鉄鋼需要は頭打ちとなり、中国からの鉄鋼輸出が拡大した。2024年の中国の鋼材輸出量は1億トンを超える見通しで、これは日本の内需の2倍の規模だ。この大量の安価な中国製鋼材が国際市場、特に東南アジア市場に流入している。
日本製鉄の主要な輸出先である東南アジアでは、安価な中国鋼材の流入により利益が減少している。
日本製鉄によるUSスチールの買収は、現在の国際情勢を反映した重要な動きだ。米中関係の悪化により、米国は中国との経済的つながりを弱める方針を取っている。また、中国経済の衰退が著しいこの状況下で、日本企業にとって米国市場への参入や拡大が新たな機会となっている。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。