見た目は、確かに「消火栓」である。しかし今の中国では、道端にあるものから、集合住宅に設置されたものまで、なんと「水が出ない消火栓」がどこにあっても不思議ではないという。
集合住宅の消火設備が、開栓しても水が出なかったり、ホースの金具の口径が合わなくて出火の際に使えなかったり、ひどい場合にはホースそのものが設置されていなかったりと、その現状はあまりにもひどい。これはもはや人命軽視ではなく人命無視。「運悪く火が出たら、死になさい」と言われているに等しいだろう。
中国にも、もちろん消防関係の法律はある。当然、法令に則した定期検査があり、こうした消火栓や消火設備は「合格」しているはずなのだ。
しかし、それらは「いざという時」、つまり本当に火事になり、一刻一秒を争って、消火と人命救助をすべき時に全く役に立たないという、とんでもない「裏切り」をはたらく消火栓なのである。
「ホンモノだと信じて買った純金が、実は鉄。だまされた」というのは、中国で本当にあった話であるが、そのくらいなら財産の損失に留まるだろう。しかし、実際に火事が起きた際に、ホースをつないだのに「水の出ない消火栓」であれば、まさに多数の人命に関わる一大事となる。
1滴も水の出ない消火栓
今月13日朝、湖北省武漢市にある34階建ての高層住宅の住民宅(22階)から火の手が上がった。
消防が来る前、住民はマンションの消防設備を使って火を消そうとしたが、消火栓(22階)から水が1滴も出なかったという。
その後、通報によって3分後には消防隊が駆け付けたが、マンションの消火栓は全部使えないことが判明。結局、消防車からの水を使って火を消すことになったが、水が使えるようになるまで約1時間近くかかり、準備の間、住民たちはただただ燃え盛る火を見守る以外、なす術がなかった。
「もしマンションの消火栓から水が出ていたら、自宅があのように全焼することはなかったのに」と中国メディアの取材に応じた住民は悔しい思いをぶつけた。
消火栓から水が出なかった件について、マンション管理会社は「当時故障していたが、火災後急ぎで修復を行い今は正常に使える」としている。
(消防設備が使えなかった高層住宅ビル、2024年12月13日、湖北省武漢市)
各地に存在する「実は使えない消火栓」
今年3月19日未明に同じく武漢市の集合住宅で火災が起きた際にも、今回と同様、消防栓から水が出ず、大惨事になった。事件の後、管理会社に4万8500元(約102万円)の罰金を科している。
今年旧正月の初日(2月10日)の夜も江西省撫州市の集合住宅で火災が発生した。その際にも、消火栓は「役立たず」だった。
今年1月30日夜、貴州省貴陽市の集合住宅で起きた火災では、消火栓に対して放水ホースの口径が合わなかったがために、住民はそれを使えなかった。その後、駆け付けた消防隊も、当然、消防栓にホースをつなぐことはできなかった。そうして消火が遅れ、鎮火した時には住民の女性が亡くなっていた。
男性は「なぜ消火設備が使えないのに、消防検査が合格になったのか」と自撮り動画のなかで憤慨し、集合住宅の管理者や当局による安全検査のずさんさを、涙ながらに糾弾した。
(「消火設備が使えないのに、なぜ消防検査に合格したのか」と非難する、火災被害者の遺族の男性)
このように、中国で暮らすならば「おから工事でない住宅」から、きちんと「ホースが着けられ、水が出る消火栓」まで、ありとあらゆるものに関して「品質に問題はないか?」と疑ってかかることが不可欠になっている。
(2024年2月16日、河南省鄭州市の新築の集合住宅の引き渡しの際、住民は共用廊下の消防設備が全く使えないことを発見した。その時の様子)
「中国は、なぜこんな国になってしまったのか」そう嘆かずにはいられない。
人は金銭ばかりを追求して、神仏を敬わず、因果応報も信じない。道徳が甚だしく低下し、人心の荒廃を象徴するモノが、いま中国に氾濫する「ニセモノ消火栓」と言ってもよい。
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