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携帯電話の放射線安全性に関する議論再燃と新研究

2024/10/22
更新: 2024/10/22

携帯電話が、私たちの生活の一部になってまだ数十年しか経っていないが、請求書の支払いから動画のストリーミングまで、あらゆる用途に欠かせないツールとなっている。しかし、携帯電話が発する無線周波放射線の影響に対する懸念が高まるにつれ、その便利さには、論争も付きまとっている。

保健機関は、この非電離放射線は無害だとしているが、携帯電話の電波が。人体の細胞に与える細胞毒性の影響を検証した、初の人間を対象とする介入試験であるとされる最近の研究により、この放射線への長時間の曝露が人体の細胞を損傷させる可能性が示唆された。

発がん性に関する論争

携帯電話は無線で通話やデータを送信するため、無線周波放射(RFR)を発している。これはレーダーや電子レンジで使われるマイクロ波と同じタイプの放射線だが、携帯電話の放射強度ははるかに低い。

論争の焦点は、日常的に浴びるこのRFRが健康に害を及ぼすかどうかである。多くの研究で懸念が示されているが、専門家はこれまで「携帯電話が発する非電離放射線の量は無害である」と繰り返し主張している。

米国国立衛生研究所(NIH)によると、

「一般的に、人が被る唯一の生物学的影響は、無線周波放射の吸収、つまり  携帯電話をを当てた部位(例えば、耳と頭など)の局所が少し暖かくなることによるとされる。しかし、その温度上昇自体は体温全体に影響を与えるほどではない。RFRが人体に危険を及ぼす明確な健康影響は確認されていない」

しかし、複数の人間を対象とした研究では、携帯電話特有の電磁場が、発がん性を持つ可能性があることが示唆されている。この証拠に基づき、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)は、2011年5月、携帯電話の電波を「人に対する発がん性の可能性がある」と認定した。

2013年に医学誌ランセット・オンコロジーに発表されたIARCの詳細な報告書では、「RFR(無線周波放射)にさらされた人々におけるがんリスクが増加する可能性」が指摘されている。しかし、具体的な発がんリスクやその他の健康リスクの量的評価は行われていない。

3G電波による細胞への影響を検証

2024年に Environmental Research誌に発表された研究では、携帯電話の放射線に関連する細胞毒性の証拠が示されており、科学者らは長期的な健康への影響の可能性について考察している。

この研究では、41人の参加者が5日間にわたり、毎日2時間、第三世代(3G)の携帯電話の電波にさらされた。電波に晒される側はランダムに割り当てられ、実験の前と曝露から3週間後に、頭部の両側から細胞を採取した。

結果、3G電波に曝露された頭部の側面では、細胞分裂の乱れによって生じた二核細胞の増加と細胞死の兆候が確認されたが、電波に曝露されなかった側の細胞には、そのような影響は見られなかった。

研究者らによると、これが携帯電話の電波の細胞毒性を初めて人間で検証した介入試験であり、その重要性を強調している。

研究者らは、RFRへの曝露が特定の脳腫瘍と関連するという証拠が蓄積されていると指摘している。染色体損傷以外の分子メカニズムが、がん発症の重要な要因である細胞損傷を引き起こす可能性が示されている。研究者らは、観察された結果は、炎症反応および/またはフリーラジカル(化学的に非常に反応性が高い分子で、未対の電子を持つことが特徴。この未対の電子が原因で、他の分子と反応しやすく、体内の細胞やDNAに損傷を与えることがある)の放出のいずれかによるものではないかと推測している。

大紀元は米食品医薬品局(FDA)に対し、消費者がこの研究結果をどう受け止めるべきかを尋ねた。FDAの広報担当者であるジム・マッキニー氏はメールで「FDAは特定の研究についてコメントしないが、公共の健康を守るために、当該分野の証拠全体を評価している」と述べた。

一方、IARCの広報担当者からはコメントを得ることができず、米連邦通信委員会(FCC)からも報道時点で回答はなかった。

専門家の見解が分かれる

携帯電話の電波が発がん性の可能性を持つとIARC(国際がん研究機関)が評価してから10年以上が経過した。以来、IARCの科学委員会は新たに得られた研究を、再評価するようたびたび促してきた。2019年今年、IARCに助言する科学委員会は、携帯電話の電波に関連する発がんリスクの研究を「優先的に行うべきだ」と提案している。

しかし、信頼性のある科学的レビューには時間と費用がかかるうえに、IARCは限られたリソースの中で他の優先事項に取り組む必要があるとしており、今後取り組む課題として、アセトアミノフェン(頭痛や生理痛、関節痛などさまざまな痛みを和らげる働きをもっている)やヘアダイの発がん性についても検討する計画を挙げている。

米国の主要研究、ラットにおける発がん性を示す

IARCに対し無線周波放射(RFR)の再評価を求める声が高まる背景には、米国政府の大規模な研究がある。2018年に発表された、米食品医薬品局(FDA)が資金提供し、米国国家毒性プログラム(NTP)が10年にわたって実施した3千万ドル規模の研究では、ラットにおいて「明確な発がん性およびDNA損傷の証拠」が示された。

この研究では、2Gと3Gの電波の影響が調査された。雄のラットに心臓や脳の悪性腫瘍が見られたほか、副腎の腫瘍と関連する証拠も一部示された。

これはスマートフォンを持つ一般人にとって何を意味するのか?

このNTPは2023年2月に報告書を概説した声明の中で、「動物実験の結果を人間に直接適用することはできない」として以下の理由を挙げた。

  • ラットの被曝レベルは、携帯電話使用者が受けるレベルよりも高かった。
  • ラットは体全体でRFRに曝露されていたが、人間の場合は携帯電話をポケットに入れたり、頭の横で使ったりする形で、部分的に電波にさらされる。

ただし、NTPの研究者は、「エネルギーレベルが低く、組織の温度を大きく上昇させない限り、RFRに問題はないとされてきた長年の前提に疑問を投げかけている」と指摘した。

FDAはNTPの研究に疑問を投げかけた

NTPは、DNA損傷を引き起こすかどうかを評価する新たなRFR曝露研究を進めていたが、2024年1月に研究の中止を発表した。NTPは「この小規模なRFR曝露システムを使った研究は、技術的に困難で、当初の想定よりも多くのリソースを必要とした」と説明している。

FDAは、NTPの研究結果に疑問を呈している。2024年5月に発表された文章で、FDAは下記のように指摘した。

・人間の携帯電話使用者とは異なり、NTP の研究対象となったラットは全身に放射線を浴びた。

・ラットは生涯にわたって毎日9時間、全身に放射線を浴びた。

また、ラットの被曝レベルは「人体の全身曝露の基準値の最大75倍」に達している。 FDAは、この研究で「統計的有意性のテストに合格するような、この極限状態にさらされた雌のラットやマウス(雌雄とも)の健康への影響は見られなかった」と指摘している。腫瘍があったにもかかわらず、暴露されたラットは対照群のラットよりも長生きした。

さらにFDAは、過去30年にわたる携帯電話の普及にもかかわらず、米国におけるがん罹患率は上昇していないと指摘した。ピュー研究所の推定を引用した上で、2002年から2019年にかけて脳や神経系のがん発生率はむしろ減少していると述べた。

2024年9月号の学術誌Environment Internationalに掲載された携帯電話の電波に関する疫学的レビュー研究では、「携帯電話使用によるRFR曝露が脳腫瘍リスクを増加させる可能性は低い」と結論づけている。このレビューはWHOの電磁場(EMF)プロジェクトの委託により行われたもので、EMF曝露に関する健康と環境の懸念を評価する国際的な取り組みの一環である。

NTP研究のフォローアップを求める声

NTPの研究結果を再確認するためのフォローアップを求める声は依然として強い。国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)は2018年に、NTPの結果を明確にするための追加検証を推奨した。

2022年には、韓国と日本の研究者が、NTP研究の結果を検証するための研究を発表した。彼らの計画は、携帯電話の発がん性に関する5年間の共同動物実験プロジェクトである。

「生体動物を用いた研究には常に実験上の不確実性が伴い、規模の大小にかかわらず、単一の試験からは決定的な結論を引き出すことはできない。また、再現性に乏しい動物実験は客観的な科学的証拠とはみなされない」と述べている。