中国 経済崩壊寸前 

【プレミアム】仕事のない若者と極度貧困の老年人、なぜ中国のネット上には貧乏人がいないのか?

2024/07/28
更新: 2024/07/30

流浪者(定職、定住の無い者)を「低端人口」と呼び、政府は彼らの人々に対して【徹底的に排除】している。「『シンドラーのリスト』でのナチスによるユダヤ人地区の清掃のようだ」

若者は「寝そべり」、高齢者は働く。中国は三中全会退職年齢を引き上げた。無効な経済政策、仕事を見つけられない若者、僅かな年金で生活する高齢者がいるのが現実だ。年収が20万円(1.2万元)に満たない人が6億人もいる中国で、なぜインターネット上には「貧乏人」がいないのか?

中国は共同富裕を目指す社会主義国家を自称している。2021年、最高指導者の習近平は「貧困撲滅戦で全面的な勝利を収めた」と宣言した。しかし、多くの人々が依然として貧困状態にあるか、貧困線以下で生活している。経済の先行きがますます暗くなる中、人々の将来に対する不安が高まり、貧困は禁忌の話題となり、政府の怒りを招く可能性がある。

昨年、中国のインターネット規制機関である国家インターネット情報弁公室は、「悲壮感をあおり対立を引き起こし、党と政府のイメージを損ない、経済社会の発展を妨げる」動画や記事を投稿する者を取り締まると発表した。この措置により、高齢者、障害者、子供に関する悲壮な動画の投稿を禁止した。

若者は「寝そべり」、高齢者は働く。中国で三中全会が退職年齢を引き上げた。無効な経済政策、仕事を見つけられない若者、僅かな年金で生活する高齢者。写真は雲南省西部の瑞里で、リサイクル品の入った袋を背負う老人 (Photo by Noel CELIS / AFP) (Photo by NOEL CELIS/AFP via Getty Images)

この禁止令の背後には、中国政府が中国に関する議論をすべて肯定的なもので保ちたいという切実な願望がある。中国共産党(中共)は過去40年間に多くの人々を貧困から救い出したと誇示しながらも、毛沢東時代に国全体が極貧に陥ったことには触れたがらない。

一時、中国のインターネット上で話題となった痛ましい動画では、ある退職した高齢女性の月100元(約2000円)の年金でどれだけの食材を買えるかを示していた。この動画はすぐに削除された。

教育を受けた若者たちは、薄給のアルバイトや不安定な雇用に対して不満を抱いており、これがある歌手の作品に反映されている。「毎日顔を洗っているけど、財布は顔よりも空っぽだ」と彼は歌う。「読書は中華の復興のためではなく、デリバリーのためだったのか?」この歌は検閲され、歌手のソーシャルメディアアカウントは削除された。

昨年、ある労働者が新型コロナウイルスに感染した後の行動が事細かに公開され、家族を養うために奔走する姿が多くの同情を集めた。彼は「最も苦労している中国人」と呼ばれた。検閲者は彼に関する議論を遮断し、地方当局は、彼の家の外に人を配置して、記者が妻に接触するのを防いだ。

中国中部の湖南省衡陽市で、旧正月の辰年を前にピークを迎える鉄道駅に到着した乗客たち (Photo by AFP) / China Out (Photo by STR/AFP via Getty Images)

 

 

三中全会が終了し、一連の経済政策が発表されたが、これらは空虚なものであった。準備金利を引き下げる一方で、退職年齢を引き上げた。大学を卒業しても就職できない現実の中、ますます多くの若者が「寝そべり」を選び、僅かな年金で生活する高齢者は最も厳しい、苦しい仕事を続けなければならないという。

中国社会科学院の2019年の報告書によれば、2035年までに中国主要都市の国家年金基金は枯渇する見込みである。若い世代はより多くの社会的負担を背負うことになる。ラジオ・フリー・アジアによれば、中国の経済状況が悪化し続ける中、現在は5人の若者が1人の高齢者を支えているが、人口減少と雇用機会の減少が進む中で、2035年には2~3人の若者が1人の高齢者を支えることになり、その負担は計り知れない。

こうした厳しい状況にもかかわらず、中国の官製メディアやインターネット上では中国経済の明るい未来がうたわれている。中国経済の明るい未来をうたう一方で、中国経済を批判する者は投獄の危機にさらされている。なぜ中国のインターネット上にはすべてが好調であり、まるで全員が裕福であるかのように見えるのか? なぜ中国のインターネット上には「貧乏人」がいないのか?

昨年、『ニューヨーク・タイムズ』は「なぜ中国のインターネット上には『貧乏人』がいないのか」という記事を掲載した。この記事では、貧困撲滅が中共にとって政権の正当性を示すためのバッジであると述べている。中国の経済力が増大する一方で、社会保障は依然として不足しており、政府は貧困に関する議論を阻止しようとしている。

中国最大のニュースポータルサイトで「貧困」という言葉を検索すると、トップに出てくるのは「貧困がアメリカの第四の死因である」という研究報告である。中国の貧困のシステム的な原因について報道するメディアはほとんどないのが現実だ。

死の螺線に陥った中共、基準金利引き下げ、内需回復を模索。写真は上海の路上で物乞いをする男性  (Photo by PETER PARKS/AFP via Getty Images)

前述の退職した高齢女性が月100元の年金で生活する様子を示した動画は、中国のインターネットから削除された。この動画の撮影者は戸晨風(としんふう)氏であり、『ニューヨーク・タイムズ』は彼が触れてはならない事実を明らかにしたと述べている。「この話題には触れてはならない」と、「知乎の今(現在の人気トピックやトレンドのサイト)」は削除された質問に誰かが書いた。別の人は、「彼がアカウントを停止されたのは、彼が多くの人々の生活を明らかにしたからだ」と述べた。

「なぜなら理論上、中国には貧乏人がいないからだ」と、あるソーシャルメディアユーザーは推測した。

「中国は貧困を撲滅したのだ」

「この社会では繁栄を祝うことしか許されないのだ」と別のコメントが続けた。

「すべての苦しみを自分で背負い、オンラインで共有してはならない」

収入格差はアメリカを含む多くの国で問題となっている。中国では最大の富の格差が農村部と都市部の住民の間に存在する。この格差は教育、医療、年金を含む社会福祉を居住地ではなく、出生地に基づいて提供するという政府の規定によって引き起こされている。この政策は特に退職者に対して大きな影響を与えている。

ボイス・オブ・アメリカ(VOA)によると、すべての国に収入格差の問題が存在するが、中国の問題は機会の不平等にある。「アメリカにも収入格差があると言う人がいるが、中国の収入格差は機会の不平等が原因である」と、あるインタビューで述べられている。

「例えば国有企業には普通の人は入社できないし、家族の遺産も普通の人にはない」

ボイス・オブ・アメリカ(VOA)によると、すべての国に収入格差の問題が存在するが、中国の問題は機会の不平等にある。「アメリカにも収入格差があると言う人がいるが、中国の収入格差は機会の不平等が原因である」とあるインタビューで述べられている。「例えば国有企業には普通の人は入れないし、家族の遺産も普通の人にはない」写真は中国・上海で停まっている前を三輪車に乗って通り過ぎる通行人 (Photo by China Photos/Getty Images)

政府の報告書によれば、2021年に農村部の高齢者が受け取る社会保障給付の平均月額は約3600円(180元)であった。これは都市部の退職者の平均年金のわずか5%に過ぎない。

2020年、当時の李克強首相は、中国人口の40%にあたる6億人が月収1000元(約2万円)未満であると述べた。この数字を知らなかった一部の人々はこれを偽ニュースだと呼んだ。公式メディアの『人民日報』は、国家統計局に電話してこの情報の真実性を確認せざるを得なかった。中国の公式メディアはこの恥ずかしい数字についてほとんど言及しなくなった。

1990年代から2010年代半ばまで、中国経済は奇跡的な急成長を遂げ、この期間中、貧困は人々の関心事ではなかった。しかし、国の経済エンジンが停止しつつある今、中産階級になったばかりの中国人は再び貧困に陥ることを恐れている。若者たちは新型コロナウイルスのパンデミックを経験した後、目覚めたかのように消費ではなく、反対に貯金を選ぶようになり、中共の統治下で自分たちの生活がいつ貧困に陥るかわからないことを心配している。

貧困が中産階級にとって新たな現実となっているもう一つの理由は、政府が通常、乞食やホームレスを街頭から排除するからである。彼らは大都市から姿を消している。

現在の政治局常務委員である蔡奇が2017年に北京市長を務めていた時、流浪者を「低端人口」と呼び、2017年の冬には多くの低所得者がアパートから追い出された。政府は彼らのような人に対して【徹底的に排除】している。ネットユーザーの中には、「アパートの清掃の様子は『シンドラーのリスト』でのナチスによるユダヤ人地区の清掃のようだ」と指摘する者もいた。

現在の政治局常務委員である蔡奇が2017年に北京市長を務めていた時、流浪者を「低端人口」と呼び、2017年の冬には多くの低所得者がアパートから追い出された。写真は中国海南省三亜市の三亜港近くの小さな漁村で、三輪車の後ろに乗る女性と子供 (Photo by Feng Li/Getty Images)

貧困問題だけでなく、政府はもう一つの重大な社会問題にも注目を集めたくない。それは若者の失業率であり、政府はこれが20%近くに達したと発表している。

ある作詞作曲家は、有名な文学人物の孔乙己(こういつき)を使って、政府の主張に反論している。孔乙己は教育を受けたにもかかわらず貧困に陥った清朝の知識人である。この歌は検閲され、歌手のネットアカウントも削除された。

一方、公式メディアは大学卒業生が廃品回収や路上販売でまともな生活を送ることについての記事を掲載している。スタンフォード大学の経済学者であるスコット・ロズゴウ氏は、経済の減速が貧富の両方に影響を与えているが、貧しい人々は依存するものが少ないため、より大きな打撃を受けると述べている。「彼らは社会保障が低いため、影響はより大きい」と指摘している。

貧困も同様である。動画やネット上の議論を検閲することで、政府は貧しい人々に基本的な社会保障を提供する責任から逃げている。動画の撮影者である戸晨風氏は、「これらの動画を撮るのはお金を稼ぎ、同時に社会を少しでも前進させるためだ」と述べている。「しかし、これが禁止されるとは思わなかった」

徐天睿
エポックタイムズ記者。日米中関係 、アジア情勢、中国政治に詳しい。大学では国際教養を専攻。中国古典文化と旅行が好き。世界の真実の姿を伝えます!