5月31日、東京都内で長編アニメーション映画『長春 -Eternal Spring』の上映会が開かれた。本作は、2000年代初頭の中国東北部・吉林省長春市で起きた法輪功弾圧下の実際の出来事を描いた長編アニメーション・ドキュメンタリーだ。
「もし私が日本の漫画に出てくるようなキャラクターだったら、こんな危険な目に遭わずに済んだはずだ。でも残念ながら、ぼくたちはスーパーサイヤ人ではない」と冗談交じりに語るも、大雄(ダーション)氏の瞳には堅い信念が映っていた。
上映後の座談会で、本作の作画を手がけた大雄氏。米国の名作『スターウォーズ 』や『ジャスティス・リーグ』などのコミック版にも参加し、国際的にも高い評価を受けているコミック・アーティストだ。
映画の舞台となるのは、2000年代の中国東北部・吉林省長春市。当時、中国共産党メディアは気功修煉法・法輪功への弾圧政策を推し進める中、法輪功を誹謗中傷する番組を連日放送していた。これに対し、「心身を良くする法輪功の真実を伝えたい」と、複数の法輪功修煉者たちがチームを組み、命がけでテレビ局の電波をジャックした。
チームは電柱に登りケーブルを切り繋ぐことで、法輪功に関する映像配信を成功させた。プロパガンダとは全く異なる放送内容に民衆は大いに驚き、法輪功に関する認識を改めた者も多いという。
しかし、当時の共産党トップだった江沢民は事件に激怒し、長春市は厳戒態勢となった。多くの法輪功学習者が逮捕され、拷問を受け、少なくとも7人が死亡した。
事件から20年あまりの歳月が経ち、大雄氏は事件の真相を伝えるべく本作の制作に着手。米国や韓国に渡った事件関係者の証言をもとに、繊細なタッチと3Dアニメーションで20年前の情景を蘇らせた。制作には6年の歳月をかけたという。
映画監督、制作途中で中国当局から嫌がらせ
カナダ人監督のジェイソン・ロフタス氏は、本作を手がける中で中国共産党からの圧力に直面した。中国国内で販売されていた自身の他の作品が、当局の指示で全て取り下げられたのだ。それでもロフタス監督は怯むことなく、「法輪功学習者が受けた苦難に比べれば大したことではない。この話を外に出すことが重要なのだ」と力を込めた。
大雄氏は、中国共産党の最大の武器はメディア統制と情報封鎖だと指摘する。「20年前にテレビジャックをした人々も同じ問題に直面していた。彼らは恐怖とプレッシャーの中で、なぜ立ち向かえたのか。それは、自分の国と国民への愛があったからだ。愛があったから勇気を出せた」
幼い頃から日本の漫画やアニメにも親しみ、『聖闘士星矢』や『ドラゴンボール』などが好きだったという大雄氏。漫画を始めた頃を振り返り、「漫画は本当に素晴らしく、幸せにしてくれるものだと思った。様々な夢や希望を描くことができるものだ」と出発点を語った。
映画では信念を守る人々の姿を描いた。「この映画を通して、私の漫画という力が真実を伝えることに使えたと思う。超能力者じゃないけれど、でも魔法のような力を、実は僕だけでなく一人一人が、こうした特別な力を持っているのかもしれない」と語った。
アニメで伝える「命の証言」
上映会には国会議員や作家、言論活動家らもおとずれた。
元衆議院議員の長尾敬氏は、法輪功の人たちのことを思うと「心が張り裂けるような思い」だと述べた。「彼らは勇気を持って発信している。命の証言だ」と長尾氏は語気を強める。
長尾氏は現職の時から、中国共産党による人権侵害を強く非難してきた。「この命の証言を、日本政府に事実認定させていくことが政治家の仕事。それによって国際的な連携を取ることができる。日本は見て見ぬふりでは済まされない」
逗子市議会議員の丸山治章氏は、アニメーションという形で人権問題を伝える本作の試みについて「アニメーションでドキュメンタリーというのは、日本ではあまりなじみがないかもしれないが、新鮮だと感じた」「2次元的な3Dアニメーションなのに、セリフがなくても感情がすごく伝わってくる」と語った。
「まだご覧になっていない方々には、ぜひ死ぬ前に一度は見ていただきたい。何かが自分の中に生まれるから、その声によく耳を傾けてほしい。そんな体験をしてほしい」と力を込めた。
言論人として活躍する元中国語通訳捜査官の坂東忠信氏は、中国における信条への弾圧について「文化も言葉も違う話で実はなかなか伝わりづらい。しかし、このアニメを見ていただければ、よく分かる」と語る。
こうした共産圏の問題は国境を越え日本にも延伸し、スパイ工作などにも及んでいる。「政治家や実際に動ける立場にいる人たちは、もっとできることがあるはずだ。前例がないとか、きっかけがないとか言わずに、もっと積極的に、押し返すくらいの覚悟が必要だ」と坂東氏は訴えた。
長編ドキュメンタリー映画「長春」は、精巧なアニメと心揺さぶる実話を融合させた作品だ。映画は2022年の世界初上映以来、27もの映画賞を受賞。2023年のアカデミー賞ではカナダ公式推薦作品にもなり、今年5月には米国放送業界最高峰のピーボディ賞候補にも選ばれたことが発表された。
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