[オタワ 17日 ロイター] – カナダのトルドー首相はこれまで、経済成長と人手不足の穴埋めを移民に依存してきた。しかし、世論が激変して次の選挙での勝機が脅かされかねない状況となり、現在は移民受け入れにブレーキをかけている。
1970年代初頭に首相として移民を擁護し、政府の政策として「多文化主義」を推進したのはトルドー氏の父、ピエール・トルドー氏だった。時の経過とともに、カナダ国民は多様性をメープルリーフやホッケーのように国家のアイデンティティーの一部とみなすようになった。
だが、新型コロナウイルスのパンデミックが起こり、留学生を中心に移民が急増すると、家賃が高騰するとともに医療などのサービスが逼迫したため、国民のムードは悪化した。
持続可能な住宅に焦点を当てたシンクタンク、プレイス・センターの創設ディレクターであるマイク・モファット氏は「私たちがこのような事態に至ったのはそもそも、(州政府や連邦政府が)外国人嫌いと思われるのを恐れ、この問題に触れようとしなかったことが一因だ」と語る。
ロイターに独占提供された世論調査会社エコス・リサーチのデータによると、カナダ国民の移民への支持は2020年に過去最高を記録したが、23年末には30年ぶりの低水準に落ち込んだ。
エコスが昨年10月に行った調査では、国民の44.5%が「移民が多すぎる」と答え、主な理由として「手ごろな価格の住宅がない」ことを挙げた。22年2月にこの比率は過去30年で最低の14%を記録していたが、その後、急上昇している。家賃の上昇率は昨年の第4・四半期に7.8%に達した。
世論調査では野党・保守党のポワリエーブル党首が圧倒的にリードしているため、トルドー首相にとって移民問題は非常に重要だ。トルドー氏が、来年実施される可能性が高い国政選挙で4度目の勝利を収めるには、数百万人の有権者を奪い返す必要がある。
トロントの移民専門家でコンサルタントのカリーム・エルアッサル氏は「身から出たさびだ」と突き放しつつ「永遠に移民と一時滞在者を増やしても何ら副作用はないという、ちょっとした思い上がりがあった」と付け加えた。
15年に政権の座に就いて以来、トルドー政権は徐々に移民を増やしてきた。現在は国民の5分の1以上が外国生まれだ。昨年、カナダの人口は過去60年以上で最も急速に増加しており、そのほとんどが移民によるものだった。
ポワリエーブル氏は、新規移民の数と入手可能な住宅の数をリンクさせる政策を採ると述べているが、詳細は明らかにしていない。一方で、同氏はトルドー氏を打ち負かすために移民コミュニティーの票を獲得しなければならず、米共和党政治家のように移民問題にかみつくことはしていない。
上院議員で元労働党党首のハッサン・ユスフ氏は、ポワリエーブル氏は移民の2世、3世が多い都市部で勝利する必要があるため「私の考えでは、保守党はこの問題に乗じることはできない」と語った。
とはいえ、政府はこうした世論の変化を受け、来年から永住権取得者の上限を50万人とし、4月からは留学生の就学許可を35%削減し36万人とすることを決定した。
ミラー移民相は先月のロイターのインタビューで、こうした措置は「制御不能になった」新規移民の「膨大な数」を大幅に減らす取り組みだと説明。カナダも米国のような二極化と無縁ではないため、移民増加への反発に対処する必要があると語った。
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