【寄稿】中国海軍、台湾封鎖で兵糧攻めの恐怖 「台湾を救えるのは日本だけ」

2024/02/07
更新: 2024/02/06

1月22日、米戦略国際問題研究所(CSIS)が台湾問題に関する調査結果を公表した。中国軍による台湾の海上封鎖の恐れが高まっているとし、日本が台湾有事において期待されている役割を果たせるかが重要なポイントになるという。

CSIS、衝撃のレポート

1月22日、米戦略国際問題研究所(CSIS)が台湾問題について米台の専門家87人のアンケート調査結果を公表した。この中で最も衝撃的だったのが、「今後5年間以内に起こりそうな事態」として8割以上が「中国軍による台湾に対する海上封鎖」を挙げた点だ。

中国軍の台湾に対する武力侵攻については8割以下であるから、米台の専門家は、武力侵攻よりも高い割合で海上封鎖を起こり得る事態として見ていることを示している。

この発表の1週間後に読売新聞は「中国は台湾周辺の四方に軍艦4隻を常時展開させている」と報じた。中国は海上封鎖の準備を既に始めているのである。

昨年1月にCSISが発表した中国軍による台湾侵攻シミュレーションによれば、中国軍は多くの場合、台湾の上陸に失敗し、成功した場合でも島内で壊滅するか膠着状態に陥ると予想された。

つまり武力侵攻は成功しない公算が高く、それならば成功の確率がより高い海上封鎖に中国が切り替えたと見ることが出来よう。

海上封鎖作戦

それでは中国軍が計画している海上封鎖作戦とは、どのようなものなのか。これを探る格好の手掛かりになるのが、2022年8月に中国軍が台湾を包囲する形で行った軍事演習である。

これは、同年8月2日にペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問に反発した中国が、ペロシ氏が台湾を離れた翌4日から1週間行った、台湾を包囲する形の6カ所の海域での軍事演習だ。

中国の空母、遼寧、山東を始め軍艦や軍用機が多数動員され、演習海域に弾道ミサイル11発が撃ち込まれた。そのうち5発は与那国島沖の日本の排他的経済水域に撃ち込まれ、与那国島の漁民は出漁が出来なくなった。

安倍元総理は、この8か月前に「台湾有事は日本有事」と述べたが、その死の1か月後に、その予言は現実のものとなったのである。

米空母ロナルド・レーガンはペロシ氏訪台に合わせて台湾周辺に展開していたが、ペロシ氏が台湾を去り、演習が始まるや、台湾から遠ざかった。一触即発の事態を避けるためだったと言うが、強気の中国、弱気の米国の構図が鮮明になった。

というのも1996年に中国は台湾海峡で軍事演習を行い、弾道ミサイルを同海域に撃ち込んだ。この時、米クリントン政権は空母2隻を海峡に派遣し、中国は即刻演習を中止した。

つまり1996年に一触即発の事態を避けようとしたのは中国軍だったが、2022年には、米軍が退却したのである。

トランプ次期政権は台湾を見捨てるのか?

中国共産党政府は1月31日、今年の米大統領選でトランプ氏が勝利すれば米国が台湾を見捨てることもあり得るとの認識を示した。確かにトランプ氏は昨年7月、FOXニュースのインタビューで、「中国が攻撃してきたら米大統領として台湾を守るか?」と問われて「その質問に答えたら交渉上で非常に不利な立場に追い込まれる」とにごした。

バイデン大統領は「台湾を守るか?」とマスコミから4回、質問され、いずれも「イエス」と答えている。もっとも、その都度、側近が「米国の台湾政策は変わっていない」と米国の軍事的関与を明確にしない曖昧戦略を取り続けることを強調しているから、トランプ氏と変わりがないことになろう。

しかし実績で比較すれば、トランプ政権の方がはるかに対中強硬姿勢を示してきた。2019年8月にトランプ政権のエスパー国防長官は「中国に対抗してアジアに中距離ミサイルを配備する」と明言した。これはバイデン政権に代わって立ち消えになった。

また米政府の現職が台湾を自由に訪問できるようにしたのもトランプ政権下であった。ペロシ下院議長は、これで訪台できたのだが、バイデン大統領は、ペロシが訪台の意思を示したのに対し、中国に配慮して反対の姿勢を示したのである。

この軟弱な姿勢が中国共産党を増長させ、台湾周辺にミサイルを撃ち込むに至り、空母レーガンを撤退させたのである。

習近平は台湾を諦めるか?

ロシアによるウクライナ侵略は2月で2年となるが、膠着状態が続いている。習近平は、これを見て台湾侵略を諦めたのではないか、との意見がある。果たしてそうか?

CSISのシミュレーションでは、中国軍は台湾上陸に失敗する公算が高く、上陸に成功しても島内で壊滅する危険性があり、うまく行っても島内で膠着状態に持ち込むのが精々だという。

その膠着状態が今ウクライナで続いているわけだから、習近平が台湾侵攻を諦めても不思議はないが、地政学的に見ればウクライナと台湾の状況は明らかに異なる。

つまりウクライナは大陸国家であり台湾は島国なのである。米国はポーランドから陸伝いにウクライナに軍事物資を送っている。しかし、もし中国が台湾を海上封鎖した場合、米国は台湾に物資を送ることが出来なくなる。

海外から物資が入らなくなれば、台湾は兵糧攻めに1年と耐えられないだろう。

台湾を救えるのは日本だけ

ここで重要になるのは、日本の役割である。CSISのシミュレーションでも、日本が台湾有事において役割を果たせるかが重要なポイントになっている。

1月8日、自民党副総裁の麻生太郎氏は地元福岡県の国政報告会で、台湾有事に触れて「今までとは状況が違います。我々は台湾海峡で戦う。潜水艦で、軍艦を使ってというようなことになる。台湾の有事は間違いなく日本の存立危機事態にもなります」と述べた。

2021年7月にも麻生氏は「中国が台湾に侵攻すれば(日本にとって)存立危機事態」と発言しているが、今回の発言の特徴は「我々は台湾海峡で戦う」と明言している点だ。しかも具体的に「潜水艦で」と言っている。

潜水艦は海上封鎖を打破するのに最適の兵器だ。台湾海軍も潜水艦を急造しているが、数も能力も、まだまだ不十分だ。そこへ行くと日本の潜水艦隊は中国の海上封鎖を打破するのに質量ともに十分である。

麻生氏は、この講演の後、米国に向かいワシントンで米国家安全保障会議のインド太平洋調整官カート・キャンベル氏と台湾情勢などについて意見交換をしている。

中国が台湾を海上封鎖した場合、台湾海軍の現在の実力では封鎖を打破できない。米海軍ならできるが、その場合、米中戦争となり核戦争に発展しかねず、結局米国は介入できない。となると日本が介入するしかない、という情勢認識を日米で共有したと見ることができよう。

(了)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
軍事ジャーナリスト。大学卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、11年にわたり情報通信関係の将校として勤務。著作に「領土の常識」(角川新書)、「2023年 台湾封鎖」(宝島社、共著)など。 「鍛冶俊樹の公式ブログ(https://ameblo.jp/karasu0429/)」で情報発信も行う。