かつて中国共産党と戦った台湾の国民党は、なぜ「親中」になったのか?

2024/02/15
更新: 2024/02/15

かつて中国大陸で、中国共産党(中共)と壮絶な戦いを繰り広げた国民党

日本軍が大陸から去った後の国共内戦において、国民党は敗れ、台湾へ逃げた。しかし、それでも明確な「反共」である蒋介石は、1975年に死ぬまで「大陸反攻」の野望を捨てなかった。

その国民党が今、なぜ「親共政党」になり、かくも「親中」に変わったのか?

その理由について、台湾出身の時事評論家・唐浩氏は、エポックタイムズ日本への寄稿のなかで次のように分析した。

唐浩氏は、台湾の最高峰の大学を卒業、台湾の大手財経誌の研究員兼上級記者を経たのち渡米した。現在は米国から、セルフメディア動画番組「世界十字路口」「唐浩視界」などを通じて、中国を含む国際時事を解説している。

以下より、唐浩氏の分析となる。

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台湾の国民党は、なぜ「親中」になったのか。

このようになるまでの過程には、実に多くの歴史的、社会的な転換などの要因が含まれている。

台湾で育った今の比較的若い国民党3世とは異なり、国民党の長老たちや「権貴(権力があって身分が高い人)」、あるいは古参の国民党員は中国に対して、深い民族的な感情を抱いているため、中国に思いを馳せる人が多い。

そんな彼らは、中国共産党がこれほど邪悪であり、有害であることに気づいていない。また「中国と中国共産党はイコールではない」という点についても、区別できていないのだ。

そして、国民党2世は、そもそも中共と直接戦場で戦ったり、接触した経験がない。

1949年頃に中共と戦争して、実際に戦った世代は、みな亡くなった。中共の真実とその本質を後世に伝える人がいなくなってしまった。そのため国民党2世は、中共の邪悪さを知らないのである。

また、国民党の末裔たちは、長い間台湾で悠々自適に暮らしてきた。そのため彼らは、昔の時代の悲痛や教訓を忘れてしまい、中共にそそのかされやすいのである。

国民党が(大陸から)台湾にやってきたときは、権威を振りかざし、権力を掌握していた。しかし、次第に民主の流れになり(大陸から来た国民党ではない)台湾本土の政治勢力が台頭した。

国民党がもともと独占していた権力が、選挙という形を通じて、次第に民進党や他の政党に分散していった。

その結果、多くの国民党の「権貴」たちは、自分たちが以前に持っていた権力や富を失ったと感じてしまう。そうすると、今の台湾に対して不満を抱くとともに、権貴のなかから「どうしたら元の権力と富を取り戻すことができるのか」と考える人が出てくるのは当然だ。

そのため、もはや台湾の国民党の政治家のなかには「(中国)共産党と手を組んで、台湾の民進党や他の政党を抑えて、国民党が再度政権を掌握し、昔のような権力を持ちたい」と考える人もいる。

もちろん、国民党が持つそうした権力への執着や欲望について、中国共産党は見抜いている。共産党はこれを絶好の機会にして、国民党の権貴たちに、こう持ち掛ける。

「私たちは兄弟だ。過去には、けんかしたり争ったこともあったが、もうそれは関係のないことだ。国を統一する方法を一緒に考えよう」

中共はそのように手招きし、台湾の国民党を買収するのである。

中共のこのような甘言は、国民党の人たちにとって非常に説得力がある。特に「中国と台湾が統一した後には、あなた方にも要職を与える。あるいは、必ず儲けさせる」とでも約束すれば、国民党の権貴を買収することは容易にできるだろう。

また、これは国民党の若い政治家から明かされたことだが、彼らが言うには「国民党の全員が中共を支持しているわけではない。中共を支持しているのは、長老級の人物たちだけだ」という。

その理由は、それら権貴や長老たちは皆、中国本土に事業を展開しているからだ。そこで中共は、国内の各方面に「国民党の権貴による中国内での投資は、何があっても必ず儲かるようにせよ」と命じている。

つまり中共は、金の力で国民党の大物たちを縛っているのである。もし、それを裏切るならば、中国国内の事業が脅迫材料にされかねない。

中共は、違法な利益輸送、あるいは贈賄やハニートラップなどの手段で、中国本土へ投資しに行った国民党の権貴たちとその家族・親族の弱みを握った。そして長年にわたる浸透工作もあり、台湾の国民党は、次第に「親共」にならざるを得なくなったのだ。

もう1つ重要な要因は、かつて共産党と戦ったことのある国民党の老兵たちの「アイデンティティ喪失」である。はじめは若かった老兵たちも、大陸から台湾に来た後、時間の経過とともに次第に老いていった。

そして今では、台湾の現地勢力が育ったこともあり、現在の台湾人のなかには(大陸出身で中共と戦った)老兵たちのことを「台湾人として認めない」という人も多くなっている。

「老兵たちは他所から来た政権であり、中国本土での戦いに負けて台湾に逃げてきただけだ。台湾に来た後、私たち(台湾人)に対して白色テロを行い、権威主義的な統治を実施したじゃないか」

そうした「お前たちは台湾人じゃない」という軽蔑の目で老兵を見ている人が、実は今の台湾に少なくない。

そうやって、これらの年老いた国民党員や老兵たちは「台湾に来たのに、台湾人は私たちを台湾人として認めない。私は、いったいどこの人間なのか」と戸惑うことで、アイデンティティの喪失感が産まれる。

その結果(国民党の)老兵たちは「私たちのことを受け入れてくれず、我われを中国人。中共と同じような人間。他所から来た者として見ている台湾人」に対して、一種の恨みを抱くようになった。

共産党はもちろん、そのような彼らの心理を見抜いている。そこで中共は「両岸一家親(台湾と中国は一つの家族)」などと言って、この人たちを勧誘し始めた。

甘い言葉に心打たれた国民党の古参党員や老兵たちは、相次いで中国へ行き、かつての家族・親族と再会し、親戚や友人を訪ねた。つまり中国へ、自分たちの根っこ(ルーツ)を探しに行ったのである。

そうして、国民党全体の心が「中国」に向き始めて、中国共産党にからめ取られた。

もちろん共産党は、卵を一つの籠だけに入れたりはしない。国民党以外の政党に対しても、程度の差はあれ、浸透や買収がなされている。

この点について、国民党も当然気づいている。するとそこに「ある種の競争心理」が産まれてしまうのだ。

つまり、自分たちがもっと積極的に「親中」にならなければ、共産党から重要視されなくなってしまう。そうなったら「今までもらっていた利益が減ってしまう」と心配になり、親中を競争する心理である。

つまり今、一生懸命に中共を擁護する国民党の一部の党員は、実際には「中共の赤色の代理権」を争っているのである。

唐浩
台湾の大手財経誌の研究員兼上級記者を経て、米国でテレビニュース番組プロデューサー、新聞社編集長などを歴任。現在は自身の動画番組「世界十字路口」「唐浩視界」で中国を含む国際時事を解説する。米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカ(VOA)、台湾の政経最前線などにも評論家として出演。古詩や唐詩を主に扱う詩人でもあり、詩集「唐浩詩集」を出版した。旅行が好きで、日本の京都や奈良も訪れる。 新興プラットフォーム「乾淨世界(Ganjing World)」個人ページに多数動画掲載。