【寄稿】このまま有事を迎えられない 「真に戦える」自衛隊作るために今必要なこと

2024/01/13
更新: 2024/02/28

岸田総理、答弁を覆す

昨年12月16日付の産経新聞は岸田総理の書面インタビューを大きく掲載した。総理はここでちょうど1年以上前に策定された安保3文書について「安全保障環境などに重要な変化が見込まれる場合には、躊躇なく戦略・計画に必要な修正を加えていく」と述べた。

だが、総理は11月27日の参議院予算委員会で辻元清美議員の質問に答えて、円安に伴う防衛装備品調達価格の上昇に関わらず、5年間の防衛費の総額43兆円を維持する旨、表明している。

総額43兆円は安保3文書で規定されている。インタビューでは「戦略・計画に必要な修正を加えていく」と述べているが、防衛予算は戦略・計画の根幹であり、戦略・計画が修正されれば必然的に防衛予算は修正されざるを得ない。防衛予算に反映されない戦略・計画などはあり得ない。

インタビューでは「昨年来、円安を伴う為替レートの変動や国内外の全般的な物価上昇は継続しており、取り巻く環境は厳しいが、このような厳しい状況においても、さまざまな工夫により防衛力整備の一層の効率化・合理化を徹底し、決定した防衛力整備計画に基づいて、防衛力の抜本的強化を達成していく考えである」と述べている。

ここで重要なのは総額43兆円を維持するとは述べていない点だ。「決定した防衛力整備計画に基づいて」とあるが、防衛力整備計画は、安保3文書の一つである。安保3文書は、最上位に国家安全保障戦略、次に国家防衛戦略、最下位に防衛力整備計画が位置づけられている。

総額43兆円は防衛力整備計画で規定されているが、「安全保障環境などに重要な変化が見込まれる場合」まず国家安全保障戦略が改定されなければならない。そして、その改定は国家防衛戦略に反映され、最終的に防衛力整備計画が修正される。当然総額43兆円も当然見直しを迫られる。

岸田総理は、その見直しの可能性を否定していない。つまり岸田総理は総額43兆円を維持するという国会答弁を事実上、否定し、軌道修正を図っているのである。

安倍晋三元総理の卓見

安全保障環境に重大な変化が生じた場合、日本の戦略を規定している安保3文書を見直すのは当然のことだ。だがそもそも安保3文書は適切なのだろうか?

防衛予算については5年間の総額43兆円は、1.5倍の増額となっている。安保3文書の改定については、2020年6月に当時の安倍総理が言い出したのが始まりだった。だが新型コロナ騒動で先送りとなり、安倍氏は総理退任後も、改定を強く主張し、2022年、岸田政権下で漸く実現した。

安倍氏は防衛費の総額を2倍にすることを目論んでいたが、安倍氏の死後、岸田総理は財務省に譲歩して1・5倍で落ち着いたわけだ。つまり防衛の実情をよく知る安倍氏などから見れば、明らかに1・5倍では足りないのである。

これが端的に表れているのが、自衛隊の定員である。防衛力の抜本的強化を言いながら、自衛隊の定員は殆ど変化していない。兵力こそ防衛力の根本であるのに隊員は増強されていないのである。
なぜ定員を増やさないのか?それは1・5倍程度の増額では、人件費を捻出できないからに他ならない。

隊員不足で戦えない自衛隊

自衛隊の定員は24万7154人で、現員は22万7843人(2023年3月31日現在)、充足率は92・2%である。自衛隊の定員は厳格に定められていて諸外国の軍隊の様にサバを読むとか、どんぶり勘定などと言う事がない。有事を想定して一人一人の任務が厳密に規定されている。

従って充足率100%でなければ、有事には支障を来す計算である。充足率92・2%だと、10人規模の部隊で9人しかいない計算になる。自衛隊は有事を経験してないから、諸外国の陸軍を例にとると、10人規模の部隊は分隊と呼ばれ、戦場において最前線で活躍する。分隊が崩壊すれば最前線は敵に突破され、敗北となる。

分隊の定員を10人だとすると、10人でチームワークを組んで戦えるように、装備され、訓練されている。従って、一人でも欠員が生ずると、十分な戦闘ができなくなる。

もちろん最前線であるから、死傷率は高いが、諸外国の軍隊では、死傷した場合、ただちに兵員の補充が行われる。

通常、軍隊は後方に補充兵が控えている。ところが自衛隊には、そんな余裕がない。さきに自衛隊は「諸外国の軍隊の様にサバを読むとか、どんぶり勘定などと言う事がない」と書いたのは、この事を指す。定員を必要最小限に切り詰めて規定しているので、補充兵の余裕がないのだ。

こういう組織が有事になったら、どうなるか?まず戦闘の開始時点で10人態勢に1名の欠員が生じているから、十分な戦闘態勢が取れない。当然苦戦するから、死傷者が続出するが、その補充はない。最前線は数日経たずして崩壊するだろう。

これは陸上戦のことだと、言って問題を軽視する向きもあろうかと思う。すなわち日本列島を防衛するには海上自衛隊と航空自衛隊があればよく、日本国内で陸上戦が行われる可能性はないという考え方である。

だが海戦や空戦が陸上戦と無縁と考えるのは間違いだ。艦艇や航空機には出撃拠点となる基地が必要だ。艦艇や航空機がどんなに強力でも、基地をゲリラコマンドが急襲して破壊されれば、一瞬にして無用の長物と化す。

基地を敵ゲリラコマンドから守るためには陸上戦は不可避なのである。

安保3文書は直ちに見直せ

そもそも現在の定員そのものが必要最小限に切り詰められており、仮に充足率100%であったとしても、前線を数日しか持ちこたえられない。まして92%程度なのだから、二日と持たないだろうことは想像に難くない。

この現状を改善するためには、単に定員を増やせば済むという問題ではない。単に定員だけ増やしても、志願者が増えなければ現員は増えず、充足率が下がるだけだ。

志願者を増やすためには隊員の大幅な待遇改善が必要であり、端的に言えば、給与の大幅UPが最も有効なのは誰もが認めるところだろう。

さきに防衛予算の1.5倍増では不足だと述べたのは以上の理由による。安保3文書は、「安全保障環境などに重要な変化が見込まれる場合には、躊躇なく戦略・計画に必要な修正を加えていく」などと言っている場合ではない。ただちに見直さなければならないのである。

(了)

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
軍事ジャーナリスト。大学卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、11年にわたり情報通信関係の将校として勤務。著作に「領土の常識」(角川新書)、「2023年 台湾封鎖」(宝島社、共著)など。 「鍛冶俊樹の公式ブログ(https://ameblo.jp/karasu0429/)」で情報発信も行う。