「白肺」になっても学校を休ませない? 子供に過重な「中国式教育」の異常性

2023/12/14
更新: 2023/12/15

現在、中国各地で、政府が「マイコプラズマ肺炎」と主張する発熱性の感染症が猛威を振るっている。とくに子供の間で深刻な集団感染を起こしながら、さらに蔓延している。

本当にこれが「マイコプラズマ肺炎」であるなら、その治療法も比較的整っており、生命にかかわるほど重症化することはまれなケースであるはずだ。

中国の病院にある「異様な光景」

マイコプラズマに対応するワクチンはない。したがって、それが本当にマイコプラズマ肺炎であるならば、うがいや手洗いなど一般的な予防法を励行するしかない。

しかし、感染拡大の激しさと重症化するケースの多さからして、中国の民間では明らかに新型コロナを疑っている。さらには、中共政府が新型コロナ用のワクチン接種を推奨した時点で、マイコプラズマ肺炎であるという前提は、すでに崩れているのだ。

各地の病院は患者で大混雑し、診療待ちの人々が、昼夜を問わず長蛇の列を作っている。

中国の病院が、とくに児童患者であふれていることは、これまでにも繰り返し伝えてきた。ただ、そのなかに、日本人には全く理解し難い「ある光景」があった。

その光景とは何か。例えば、冒頭の画像にあるような、病院のなかに自習コーナーが設けられており、その場所で子供たちが「片腕に点滴を受けながら、学校の勉強や宿題をやっている」という光景である。

その子の勉強熱心、あるいは中国という国の教育熱心をほめる前に、病気の子供を休ませもせず「点滴を打ちながら、勉強させる」ということの異常性に驚愕するばかりだ。しかし中国では(一部であるとはいえ)これが許容されているという。

子供が重症でも、学校を休ませない保護者

そのようななか、感染した子供の肺が重度の炎症を起こし、レントゲンに肺が白く映る「白肺(バイフェイ)」と呼ばれるほど重症化しても「子供の学業の遅れを恐れて、入院させることを躊躇する親がいる」と中国メディアが報じた。

「白肺」はすでに重篤な状態であり、子供や高齢者であれば死亡率も高い。冒頭の画像のような極端な「中国式教育」は今、ネットで熱い議論を巻き起こしている。

中国メディア「寧波晩報」は11日、寧波大学付属第一医院外灘院区の小児科主任である李志飛医師の話を引用して、「子供が、特に小学校高学年や中学生が高熱を出していても休ませず、学校へ行かせる親は多い」と報じた。

李医師が受け持つ患者のなかには、中学1年生の子供が「白肺」なっても、学業の遅れを気にして入院治療させることをためらう親もいる、という。

「私は医者として、子供が病気になったら十分休ませるようにと、親にアドバイスすることしかできない」。李医師は、そう嘆くしかなかった。

しかし実際、中国では、たとえ病気になろうが「学業は後れを取ってはならない」と考える親は非常に多く、一種の社会現象にすらなっているといっても過言ではない。

そのために、わざわざ点滴を受けながらも勉強できる「児童点滴学習エリア」まで開設している病院もあるほどだが、そもそも病院のなすべきこととして、それは適切な行為なのだろうか。

SNSに投稿された「勉強もできる子供専用の点滴エリア」を映した画像のなかには、一列に並んで「左手に点滴、右手で宿題」という、なんとも痛ましい小学生たちの姿があった。

 

先月12日のSNS投稿、病院内で点滴を受けながら宿題をこなす子供たち。投稿者は「中国に生まれるのは本当に可哀そう」「サタンが来ても泣いちゃうよ。地獄すぎる」と嘆いている。

 

中国メディアの「極目新聞」も同じ11日に、この現象に関する評論を掲載した。

「こういう考え方と方法は、極端すぎる。肺炎を患った子供は、十分に療養しなければ命を落とすかもしれないのだ。それなのに保護者は勉強しろ、という。これでは本末転倒だ。親心が、いつしか鬼になったのか」

この評論は、中国の教育をとりまく現状を痛烈に批判する内容のものだった。

関連する記事にも「恐ろし過ぎる。今の(中国の)子供たちは本当に大変だ。病気になっても休めない。本当に、そこまでする必要があるのか?」といったコメントが殺到している。

病院の問題ではなく「教育と社会の問題」

別の中国メディア「南方都市報」も翌12日、「問題は、白肺になっても入院しないことだけではない。たとえ子供が入院して治療を受けたとしても、その子が病院で本当に安心して療養できるのか、ということもある」と鋭く問題を指摘する内容の評論を掲載している。

それはまさに、重症の子供が点滴を打ちながら宿題や勉強を強いられる環境が、病院にあってよいのか、という問いかけに集約される。

「病院だけの問題ではない。教育と社会にこそ問題がある」とする同記事のコメント欄には、その見方に同意するコメントが多く寄せられている。

「うちの子はクラスで、マイコプラズマ肺炎をうつされて1週間学校休んだ。すると学校の先生は『他の生徒は休んでも長くて3日だ。なかには、熱があっても頑張って学校へ来ている生徒もいる。あなたの家だけだよ。こんなに長く休ませるなんて』と嫌味たっぷりに言われたよ」

「これは親の問題じゃない。病気の子に鞭打ちたい親はいない。これは明らかに教育の問題だ。宿題を溜め込んだり、学業に遅れを取ったら、後で本当に大変だ。だから、親たちは鬼になるしかないんだ」

しかし、誰よりも子供を愛するはずの親が、本当に「鬼」に変異してしまったなら、子供にとってこれほど不幸なことはない。「鬼になるしかない」という極端な結論は、やはりどこか間違っているというべきであろう。

子供を自殺に追いやる「中国式教育」 

中国の学生(小・中・高校の生徒)の宿題の量が「膨大である」ことは、世界的にも有名な事実だ。

以前から、山積みの宿題や限界までに削られる睡眠時間、成績だけを重視する風潮、一発勝負の大学入試による受験戦争の激化など、学生が過剰なストレスとプレッシャーを受けていることが問題とされてきた。

とくに今年は、各地で学生の自殺が相次ぎ、中国社会に衝撃を与えた。たとえ著名な大学を卒業しても、希望通りの職業に就ける可能性は極めて低い。彼らの前には「卒業すれば失業」という冷酷な現実しかなく、博士号をもつ高学歴者であってもフードデリバリーのアルバイトで生活の糧を得るしかないのだ。

そのようななか、他者から強制される勉強が、いったい何になるのか。中国の若者たちは、岩のような不条理の下におかれて、常に自殺と背中合わせの状態にあると言うしかない。

朝起きて、目に入るのは「宿題」だけ

天津では今年3月、わずか5日の間に、なんと「7人の学生(いずれも10代)」がビルから飛び降りて自ら命を絶っている。このうち、12歳の誕生日を迎えたばかりの子供が残していった遺書のなかに、こう書かれていた。

「毎朝起きて、目に入るのは太陽ではない。宿題だよ」

「我が子を(人生の)スタートラインで敗者にしてはいけない」と、異常なほど力が入る親。そんな親の過大な期待に、心身を削って応えようとする子供たち。

そして学校にいるのは、成績の良し悪しだけで人間の価値を決めてしまい、人との調和や人間性の豊かさを一切無視した「成績第一主義」の愚かな教師ばかり。

自分の親や学校の教師を筆頭に「こんな大人」しかいない環境のなかに置かれた子供たちの絶望は、想像しただけで窒息しそうだ。

夜遅くまで居残りで宿題をしていて、そのまま学校の教室で亡くなった中学生がいる。

「成績が悪い」と実の母親に殴り殺された13歳の学生がいる。

「宿題が多くて、生きることに疲れた」とSNSに書き残し、自殺した11歳の小学生もいる。

いずれも近年、実際に中国で起きた事件である。

下の動画にあるのは、ようやく山のように積みあがった宿題をやり終えて、疲労と怒り、やるせなさを全て爆発させ「やっと終わった」と大泣きする中学2年生の女子である。

教育の目的は何か。それは「知育、徳育、体育」の実践のなかで、心豊かな、調和のとれた人間を育成することに尽きる。

このことは、中国だけでなく、万国共通の崇高な理念であるといってよい。

 

(明け方3時に、ようやく宿題を終えて「やっと終わった」と大泣きする中学2年生の女子生徒。勉強以前の問題として、子供の精神が極度に追い詰められていることを物語る)

 

(夜11時半になっても、教室で勉強する中国の学生。見たところ、全寮制高校の生徒であろうか。さすがに担任教師が教室へ来て「もう部屋へ帰って休みなさい」と促した)

 

(大学受験に向けて、教室で「気も狂うほど」勉強する中国の高校生)

 

 

(明け方4時まで子供に宿題や勉強を教えていた母親(38歲)。担任教師からペナルティの宿題を与えられた子供を激しく叩きながら、罵倒している。午前6時、この母親はヒステリーによる精神錯乱を起こして昏倒。救急車で搬送されたが、その後、脳出血で死亡した。子供は1歳と小学3年生の2人だった)

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。