「公安局は、俺の一族が仕切っている!」 男の妄言がネットで物議を醸す=中国

2023/11/10
更新: 2023/11/10

10月18日夜、河南省新郷市の路上で、ある男が、別の人と口論していた。

男は「公安局は俺の一族が仕切っているんだ!(公安局是俺家開的!)」と叫んだ。その男の動画がネットで拡散され、物議を醸している。

よみがえる「流行語の記憶」

どのようないきさつで双方が口論になったかは、分からない。ただ、男は「公安局は俺の一族が仕切っているんだ! 俺の一族には政法委員会(公安・司法・情報機関を束ねる)の人間や、市政府の人間もいるんだぞ!」と口にした。

そこで、その様子を動画に撮っていた女性が、問い詰めた。「市政府の誰が、あなたの家族なの? 名前教えてよ。調べてみようよ」。

そう言われて、男は何も答えなかった。もちろん、口論に興奮して、つい根も葉もないハッタリを口にしただけであろう。その男の言葉が本当だとは、誰も信じはしない。

中国人は「関係(グァンシ)」を重んじる。「自分は有力者に関係(コネ)をもっている」と自慢するのが良くも悪くも中国人の常であるため、こうした場面によく出てくる「良からぬ口癖」は珍しくはない。所詮は、くだらない妄言であるから、聞き捨てておけばよい。

ただ今回の「公安局は俺の一族が仕切っているんだ!」は、ずいぶん以前に、誰もが聞いた覚えのある、あの流行語を思い出させた。「俺の親父(おやじ)は李剛だ(我爸是李剛)」である。

死亡事故を起こしても、居直る「バカ息子」

中国人なら誰でも知っている、なんとも懐かしい言葉である。簡潔にいうと「父親や親族の権力を笠に着て、やたらに威張る、バカ息子」というのが、この流行語の暗示する意味である。

実は、この「李剛」という人物は、当時、河北省保定市公安局北市区分局の副局長で、言わば地方都市の警察署の副署長ぐらいの地位である。

べつに大して偉くもない肩書だが、この「俺の親父(おやじ)は李剛だ(我爸是李剛)」は、そのバカ息子の愚かさによって限りなく増幅され、人々の嘲笑と嫌悪を誘い、あっという間に中国全土に知れ渡った。

それは今から13年前になる、2010年10月16日の夜のことだった。河北省保定市にある河北大学の構内で、若い男(23歳)が運転する乗用車が2人の女子学生を跳ね飛ばした。1人は死亡、もう1人は重傷という大事故である。

ところが車を運転していた男は、負傷者を救助せず、そのまま走り去った。車には、別の女子学生を同乗させていた。

車は、校門から出ようとしたところを警備員や学生に止められた。運転していた男は、なかなか車から出てこない。2人を跳ねた男は飲酒運転で、しかも相当なスピード違反だったのだ。

再三の説得の末、ようやく車を降りた男が、毒づくように吐いたセリフが「俺の親父は李剛だ」である。以来この言葉は、死亡事故を起こしても親の名を出して居直る「バカ息子」のセリフとなった。

たちまち広まった、新バージョンの流行語

今回のこの言葉「公安局は俺の一族が仕切っているんだ!」は、かつての流行語「俺の親父は李剛だ」を瞬時に思い浮かばせた。

そして、こちらの新しいバージョンの流行語「公安局は俺の一族が仕切っているんだ!」は、瞬く間にネットに拡散され、いま熱い議論を引き起こしている。

この男が言った「公安局は俺の一族が仕切っているんだ!」は、おそらく完全なウソであろうが、その内容の真偽はどうでもよい。

要は、日本語の「虎の威を借りる狐」のように、自分には有力者が親族にいると言って、愚かな虚勢を張る中国人のマイナス面を、再び目立たせることになったのが今回の話の肝(きも)なのだ。

動画を見る限り、単なる路上の口論である。さいわい暴力沙汰にはなっていないようだが、この「事件」はネットで大きく注目されることになった。

それを何らかの圧力と感じたのか、中国メディアは、現地の国家インターネット情報弁公室や公安当局が「事件の調査に介入している」と報じている。

 

(「公安局は俺の一族が仕切っているんだ!」と叫ぶ男。SNS投稿動画)

 

「公安局は俺のもの」同類の事件は以前にも

今回このセリフが話題になったので、人々は、それぞれの記憶のなかから同類の言葉を思い出すことになった。例えば、こんな事件がある。

2012年8月、江蘇省靖江市の公安局官僚の息子が、ナイフで女性を30回以上切りつける事件が起きた。この男も犯行時に「公安局は俺の一族が仕切っているんだ!(公安局是我家開的)」「人を殺したって問題ない」「俺様にたてつくと、命はないぞ」と、わめいていたという。

被害者の女性は出血多量で意識を失い、百針以上縫う重傷を負った。ところが事件の後、地元公安局による事件関係の公報のなかで、非常に淡白な表現で「被害者は刺されて負傷した」とだけしか書かれなかったため、ネット上には非難が殺到した。バカ息子の親が手心を加えた、と誰しもが思ったからだ。

江蘇省の人権活動家の張建平氏は、こう述べて嘆く。

「中国共産党には特権がある。その権力が制約を受けないならば(彼らは)やりたい放題やるだろう。本来、警察や公安は、人民の生命や財産を守るために存在するものだ。ところが今の中国では、警察や公安は、一般庶民にとって最大の脅威になっている」

「もはや正義の味方ではない」中国の公安

「過去土匪在深山, 如今土匪在公安 (昔、土匪は山にいた。今は、公安のなかにいる) 」

これは、中国の民間で流行っている言葉である。このなかの土匪(どひ)とは、盗賊のことを指す。

実際、20世紀前半までの中国には、武装した本物の盗賊団が山野にいた。それが現代では「公安局や警察署にいる」というのだ。

そのような言葉が流行る背景には、公安や警察など、国の政法系統の役人とその親族が特権を振りかざし、長期にわたって庶民をいじめ、横暴の限りを尽くしてきた実態がある。

もちろん一部には、個人として良い公安や警察官もいるだろう。しかし、彼らは個人ではなく、権力をもつ組織である。今日では犯罪者と同等、あるいは犯罪者以上に「悪しき存在」となったのが中国の公安や警察関係者なのだ。

政府の走狗になり、陳情民や宗教信仰者、給料支払いを求める市民を抑えて暴行の限りを尽くす警察や公安たちは、今やますます「正義の味方」とはほど遠い存在になっている。(もちろん、官製メディアに登場する公安は、いつだって「正義の味方」であるが)

中国社会は今、すべてが狂っている。

「俺の親父は李剛だ」も「公安局は俺の一族が仕切っているんだ!」も、公安という大権力をもつ組織がもはや「正義」では決してなく、恐ろしい暴力や卑劣な不正義であるという前提で吐かれた「脅し文句」なのだ。

だからこそ、これらの言葉は、民衆の嫌悪と嘲笑の対象として流行語になった。いずれにしても妄言であるので、あまり褒められた流行語ではない。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。