低消費の「貧乏旅行」が目立った中国の大型連休 官製メディアとは真逆の実態

2023/10/05
更新: 2023/10/06

中国経済は、昨年12月初めまで続いた「清零(ゼロコロナ)政策」によって企業の倒産が相次ぎ、まさに瀕死の状態にまで至っている。街には失業者があふれ、大学新卒者もほとんど就職できない経済の惨状は現在も続いている。

人々は、財布のひもを締め、できるだけ節約しながらこの困難な時期を、なんとか乗り越えようとしている。

官製メディアは「盛況ぶり」を伝えるが

そんな中でやってきた、今年の中国の大型連休(9/29~10/6)だ。国営メディアは、経済の順調な回復を演出するため、一斉に「国内旅行の盛況ぶり」について報道した。

各地方の官製メディアも「こちら(自省)の観光が熱い!」と大々的に宣伝している。要するに「うちはとても良い所で、旅行を楽しめますよ。皆さん来てください」という全民小康の状態を、地元の宣伝も兼ねてアピールしたいらしい。

今年5月のメーデー休暇の前後に、山東省の淄博(しはく)市がバーベキューで有名になり、人気観光スポットになったが、あっという間に「作られた人気」は冷めた。

この機に乗じようと、わざわざ投資して拡張した店舗に、今は消えた炭火と、客のいない空席だけが残った。淄博がバーベキューで盛況だったのは、わずか約2カ月ほどである。「当局によって作られた人気」がいかに短命であるか、その教訓は、他の地方でも生かされたのだろうか。

今回の大型連休は、メーデー休暇の時と同様、あまり費用をかけない「貧乏旅行」を選択する人が多い。つまり、旅行者の数は少なくはないが、観光収入はさほど見込めず、経済は期待したほど活性化していないのだ。

実際「あれ、おかしいな。テレビでは大盛況とか言っていたけど、実際行ってみたら閑散としていたよ」と反論する声も、各地のネットユーザーから画像つきで届いている。

 

「行ってみたら、閑散としていたよ」と反論するネットユーザーの投稿。(中国のSNSより)
「行ってみたら、閑散としていたよ」と反論するネットユーザーの投稿。(中国のSNSより)

 

確かに、全国的に有名な観光地だけは、観光客でごった返している。中国人なら、一生に一度は訪れたいと願う「万里の長城」や「泰山」などは、観光客の重さで山がつぶれそうなほど「人山人海(人があふれている様子)」であるようだ。

「今なら、万里の長城に登っても全然疲れないよ。だって人が多すぎて、3分間で2歩しか進んでないからね」という、なんとも笑えない投稿が印象的だった。これはおそらく、別の意味でヘトヘトに疲れただろう。

ところが、それほど有名ではない場所には、ほとんど人が訪れていない。盛況なのは、一部の観光地に限られるようだ。

中国文化観光部の統計によると「この連休の初めの3日間で、国内旅行者数は前年同期に比べて75.8%増の3.95億人。旅行にともなう観光収入も、前年同期と比べて125.3%も増えた」という。

この中国当局による統計の信憑性について、米国在住の経済専門家・李恆青(り こうせい)氏は「2022年と比較してどうするのか。あの時は、みんな隔離されていた。私たちが(ゼロコロナを)忘れてしまったと思うな」と厳しく指摘した。

観光地で相次ぐ重大事故

この大型連休中に、中国各地では、観光客が関係する交通事故のほか、写真や動画撮影時の不注意による転落事故や、観光客が水に落ちて溺死するなどの悲劇が相次いだ。

なかには、観光客むけの「大型のブランコ」が壊れた施設(山東省済南市)もあった。問題のブランコは、2カ月前から使用が開始された新しいものだという。「ブランコに使用される鋼材の品質に問題があった」とする管理側の主張に対して、「住宅は手抜き工事。その上、子供の遊戯設備まで手を抜くのか!」など、市民の批判が殺到している。

10月2日、武漢にあるモノレール(懸垂式)が故障する事故が発生。空中に停止したまま、車内に閉じ込められた乗客のなかに、めまいや酸欠の症状が現れたため、乗客によって窓ガラスが割られる事態にまで至っている。

人々が選んだのは「貧乏旅行」

中国国民は、昨年12月初めまで、3年間に及んだ「清零(ゼロコロナ)政策」を経験した。つまり1年前の今ごろは、まだ日常生活の行動でさえ制限されていたのである。昨年は、上海などの大都市でも、厳格な都市封鎖(ロックダウン)と、情け容赦ない隔離政策が実施されていた。

今もなお、中国国内のコロナ感染症は拡大傾向にある。そのようななか、国内経済の低迷により、民衆はいつ自身が失職し収入が断たれるのか、といった未来への不安を抱えている。

そのため、人々が選んだのは「貧乏旅行」だった。旅行には行くが、できるだけお金を使わないようするのだ。

NTD新唐人テレビの取材に応じた上海市民の王さんは「いつ失職するか、わからない。だからできるだけお金は使いたくない」と答えた。

また重慶市に住む李さんは「この連休中、重慶にも多くの旅行者が来ている。だが、彼らは町をブラブラするだけで、ほとんど消費しない。そのため多くの店が閉まっているよ」と話す。

経済専門家の李恆青氏も、次のように指摘する。

「経済の厳冬期は、すでに到来した。今後はもっと状況が悪くなると、皆が感じている。だから、誰もが自分の収入が増えることに関しては全く自信がもてない。大量の公務員までが給料を減額されている。未来に不安を抱く人は、非常に多い」

「作られた人気」の短命さ

先述したように、今年5月の労働節(メーデー)の連休期間中に中国で一大ブームとなったのが、山東省淄博(しはく)市の「ご当地グルメ」である淄博バーベキュー(BBQ)だ。

ブームの最中から、複数の専門家が「淄博BBQは、もとより政治的な必要性から意図的に演出された偽りの繁栄だ」と指摘し、ブームの短命を予測していた。結果は、まさにその通りになった。

「中国の景気回復の兆し」として、中国の官製メディアをはじめ各地の中国メディアによる大々的な宣伝が行われた結果、山東省の小さな都市である淄博は、全国各地からの来訪者で賑わい、一時は「バーベキューの聖地」とまでもてはやされた。しかし淄博はすぐに寂れ、投資した資金も回収できないまま、今では惨憺たる有様になっているのだ。

以来、官製メディアは「淄博バーベキュー」について一切言及しなくなった。その代わり今は、10月の大型連休中における「各地の盛況ぶり」について、盛んに宣伝している。

その大型連休も、過ぎようとしている。楽しい旅行で、たとえ一時でも不安を忘れたい気持ちは理解できるが、中国はこれから、経済の大崩壊というすさまじい時期に突入する。

それはそのまま、現体制である中国共産党政権の基盤を揺るがす重大な事態に至るであろう。

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。