福島第一原発処理水の海洋放出開始以降、中国政府は連日民衆の民族主義的感情を煽ったため、中国国内では再び反日ブームが巻き起こっている。中国政府はまた、福島産のみならず、日本産の水産物の輸入を完全にストップした。
その影響で、東京電力をはじめ、日本の公共機関や企業などに、中国本土から、日本人に罵声を浴びせるような、ひどい抗議電話が大量にかかってくる事態になった。そのような昼夜問わずにかかってくる嫌がらせ電話の対応に、日本側は困惑している。
チョーク書き「中国人へ」で110通報
今月29日、東京の新宿にある居酒屋の店外に置かれた手書きの案内板の内容をめぐって、「国籍差別された」と憤慨する在日華人(中国人)が、現場で警察に通報し、抗議する事件が起きた。
問題視された看板の内容はこうだ。昔ながらの黒板に、白いチョークで手書きされている。
「中国人へ、当店の食材は全て福島県産です。生(ビール)は350えん」
抗議する華人にしてみれば、「福島産の食材はどうでもいい。なぜあえて、中国人へ、と書くのか」ということが気に食わなかったらしい。さらに、ただ興奮のまま言っているだけだろうが「食材は全て福島県産とあるが、もしそうでなかったらどうする。これは詐欺じゃないか」とまで付け加えて、盛んに吠えた。
では、仮に「中国の方へ、当店の食材は全て福島県産です」となっていたら、同じように「差別だ。110番!」になっていただろうか。
通報した本人は「国籍差別」というが、そもそも具体的に、どの点が差別なのだろうか。もしも「生ビール、350円。ただし中国人だけは500円」であれば、だれが見ても明確な差別であり、もちろん許されない。店先の黒板に「中国人へ」と書いたことが、不快感を呼ぶような侮蔑表現であれば、改めればよい。ただし、中国人は「中国人」であり、日本人は「日本人」である。中国人は、日本人を指して「日本人(リーベンレン)」と、ずけずけ遠慮なく呼ぶ。他の呼び方はない。
それよりも、一部の中国人が往々にしてつかう「小日本」や「日本鬼子」は何とかならないのかと聞きたくなる。日本人に向かって差別語を連発する「愛国中国人」には、そういう自己が全く見えていないらしい。
この華人は「油头四六分」という中国版TikTok「抖音(ドウイン)」のユーザーである。「反撃に成功、愛国者の勝利」というオチで終わったこの抗議動画は、30日15時時点で120万回以上の「いいね!」と、23万件以上のコメントを獲得している。
ともかく「事件」は、110番で呼ばれた日本警察の仲裁により、店主が案内板の内容を別のものに変更することで収束した。ただし、関連動画のSNSでの「猛拡散」により、その波紋はまだ続いている。
寄せられたコメントは「賛否両論」
動画をめぐり、寄せられたコメントは、まさに賛否両論だった。
確かに「愛国者の勝利」と歓喜の声を寄せる愛国ユーザーがいる。その一方で「これは、日本という国が、徹底した法治国家であることを見事に世界に見せてくれた実例だ」として、日本への肯定的な見解も広がっている。
「中国には『日本人と米国人は入店禁止』の看板を掲げている店がたくさんある。日本人学校に石や卵を投げ込むし、日本にも迷惑電話をたくさんかけている。そっちのほうが、よっぽど差別的だと思うよ」
「後でいちゃもんを付けられるより、前もって(福島産ですと)告知したほうが親切じゃないの」
「居酒屋の店主の行為について、その是非はどうであれ、日本では『差別を受けた』と感じた外国人は警察に通報すればいい。日本の警察は民事には介入できないが、真摯に対応してくれて辛抱強く仲裁してくれる。正義感のある現地の通りすがりの人(今回は、たまたま弁護士だったが)も『差別された』と感じる外国人を理解してサポートもする。動画のなかの中国人も、彼の思う正義は果たされた。互いにウィンウィンの結果となったじゃないか」
なかには、同じような「被害」を出さないために、店にアイディアを提案する人もいる。
「店側は今後、案内板にまず『天安門事件』と書いてから、別のことを書けばいい。そうすれば、中国では画像を投稿できない。中国人のほうも、いちゃもんつける気にならないだろう」。なかなか驚きの対策だが、これは効果があるかもしれない。
余談だが、白いリーゼントヘアがお見事なこの居酒屋の店主は、店先の案内板に、日替わりでなにか一言書くことで有名だという。
SNSに投稿された以前のバージョンのなかには「遂に離婚されました。独身です! 生(ビール)は350えん」といったつぶやきまであった。もともと、そうした洒落っ気のある店主なのだ。もっとも、その洒落が通じない相手だったら、理解不能であろう。
「中国人へ」と書かれたことに、ある種の差別的な語感を覚えたとするならば、それはそれで正直な感想であり、否定する必要はない。この人は、こういう人なのだ。
日本に来た理由やいきさつは知らないが、おそらく彼は、何年も過ごした日本で常に闘いながら生きてきた。日本語もよく話す。ただ、その日本語は彼にとって、自己主張するために振り回す刀剣のような武器であって、日本と日本人と深く理解するための静かなツールではないようだ。別の意味で、惜しい限りである。
また、 彼が「外国で、自分が不愉快に感じたら抗議せよ!」と同胞に呼び掛けたのは、間違っていない。間違ってはいないのだが、彼の主張は「外国で」が前提になっている。中国でも同様に自身の権利を主張せよとは言っていないし、実行することはできないだろう。
この動画は「自由がない中国」を浮き彫りにした
この動画について、エポックタイムズの取材を受けた中国問題時事評論家の李沐陽氏は、次のように述べた。(以下は、李沐陽氏のコメント)
「この動画を見て、日本警察の対応の迅速さと丁寧さに驚きました。通報者が中国人であったにもかかわらず、日本人と平等に扱い、さらに問題解決後、警察は若者に、この対応で満足か、と意見を求めています」
「通りすがりの日本人弁護士がいましたね。彼は、もし権利擁護するのならば力になる、と率先して中国人の若者に自分の名刺を渡して、協力を申し出ています。その点も素晴らしいです」
「中国では、政府の煽りで反日ブームが巻き起こっており、日本人を罵ることが政治的に正しく、日本人を罵らなければ愛国者ではない、と言われかねないのです。そんな雰囲気のなか、この日本人弁護士は、とても理性的です。これこそが、真の法律のプロであるとともに、日本という国が、真に人権や自由を重んじる国であることを表しています」
「若者は動画の最後に、カメラに向かってこう言います。『もしあなたが外国で、差別されたなどの不快を感じたとき、勇気を出して立ち上がり、反撃しなければならない。私たちは正当な権利を行使し、訴えることで解決すべきだ。誰もが尊重に値するからだ』と。この若者がこのような発言をしている時、はたして彼自身気づいているのでしょうか? 実はこの発言は、中国共産党の顔面を平手打ちしているようなものなのです」
「彼は正しいことを言っています。しかし、その前提は『外国で』です。つまり彼自身、そういうことができるのは中国以外の国でだけ、ということを承知しているのです。もちろん、中国国内ではそうはいきません。中国では、人権も自由もないのですから」
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