海上封鎖される前に…日本のエネルギー対策 台湾有事リスクに向き合え

2023/08/31
更新: 2023/08/30

2027年までに何かある?

東アジアで中国の政治的拡張が目立つ。独裁色を日増しに強める習近平国家主席は、2027年の任期終了まで国を主導する。この27年までに、中国共産党政権の宿願である「台湾併合」を行う可能性がある。これを阻止するためには台湾、米国、そして日本の協力が鍵となる。

ところが、日本には戦争での弱点が多すぎる。いざ有事となれば、中国は弱点をついてくるだろう。なかでも、経済記者として私が事情を知るエネルギーの面での弱さは際立っている。

日本のエネルギーの自給率は5%程度しかない。化石燃料の大半は、中東と東南アジアからの輸入に頼る。原油、そして天然ガスは、シンガポールのマラッカ海峡を通過した後で、南シナ海、そして台湾とフィリピンの間のバシー海峡を通って日本に運ばれる。常時、タンカーやLNG(液化天然ガス)が日本への往復で数百隻航行している。

中国軍は海上交通路を狙う

ところが、この海域は中国が影響力、そして制海・制空権を持つ。この10年、彼らは南シナ海の島を不法占拠し、一部を軍事基地化してきた。日本と台湾、韓国への海上交通路の遮断を狙っての動きとみられる。

もし中国が台湾を侵攻する場合には、この脆弱な海上交通路を遮断すればいい。実際に武力行使をしなくても、その交通の妨害、犯人が特定できない形での船の損害があれば、民間企業による海上交通は止まってしまう。日本が脱落すれば在日米軍は動けず、中国の台湾侵略が容易になる。台湾もエネルギー資源が石炭以外にないので、経済が止まる。

第二次世界大戦では、日本は米軍に東南アジアの資源地帯から日本に伸びる海上交通路を海空軍力で断たれたことを一因に敗北した。中国の軍と指導部は当然それを知っているだろう。

石油以外の備蓄に不安

それでは、どのように対応すればよいか。

中国に屈服し、台湾の侵略を認めることを、日本人の誰もが望まないだろう。中国に侵略をためらわせる、つまり弱点を克服することが、日本にとって必要だ。エネルギー自給率を高め、海上封鎖されても、数か月は持ち堪える状況を作らなければならない。

第一の対応策は、エネルギーの備蓄を増やすことだ。

経産省のサイトから情報を集めてみると、23年3月末時点の予定で、日本のエネルギー備蓄はおおよそ以下の通りだ。(エネルギーフォーラムのキヤノングローバル総合研究所の研究主幹、杉山大志氏のコラムを参考にした)

▶︎石油:民間78日、国家備蓄150日以上
▶︎LPG(液化石油ガス):民間55日
▶︎石炭:28日
▶︎電力用LNG(液化天然ガス):9日
▶︎都市ガス用LNG:15日

石油とLPGは、1970年代のオイルショック以来、石油関連税の一部を使って、国家事業として備蓄を進めてきた。しかし、それ以外は不安な状況だ。石炭は、近年の気候変動問題で悪者扱いされたこと、そして発火の恐れがあるので備蓄を少なくしているのだろう。またLNGは気化して量が減ってしまうので、なかなか保存量は増やせない。税金の支援がなければ、民間は損になりかねない備蓄、つまり在庫を増やせない。

こう考えると、海上封鎖をされた場合、もしくは台湾有事が起きた場合、その影響が1か月以上続くならば、日本経済は化石エネルギー不足の面から崩壊してしまう可能性がある。

自前電源として価値を持つ原子力

第二の対応策として、輸入に頼らないエネルギーの供給体制を考えることだ。その場合に原子力、再エネの存在が重要になってくる。

ウラン燃料はオーストラリア、カナダ、米国など外国から購入しているが、それが一度に途絶するリスクは少ない。

原子力発電所が攻撃対象になり、その破損によって放射性物質が拡散することを懸念する人がいる。その危険があることは認めるが、攻撃の可能性はかなり少ないと思う。攻撃側に報復や国際的非難の問題が発生するからだ。ウクライナ戦争でも、侵略側のロシアによるウクライナの原子力発電所に対する本格的な攻撃、また破壊行為は行われていない。

再エネは自然現象であるため、海外からの輸入を必要としない発電だ。しかし、その中心の風力、太陽光発電は天候次第だ。そして電気の大量備蓄は、今の技術では難しい。他電源と一緒にしか使えない。安保面で、再エネにエネルギーを頼り切ることはできない。

エネルギー供給を強くすることが平和の一因に

台湾有事を考えると、原子力発電は、日本が海上封鎖された場合でも、使い続けられるエネルギー源としての重要な意味を持つ。その長所を評価して、活用を推進するべきだ。

2011年3月の東京電力の福島原子力事故以来、日本のエネルギー・原子力政策は混乱してしまった。その結果行われた原子力への過剰規制の影響で、多くの原子力発電所で稼働停止が続いている。その状況を変えるべきであろう。

「汝、平和を欲せば、戦争の準備をせよ」。これは古代ローマから今に続く戦争をめぐる格言だ。戦争が起きないようにするには、仮想敵国に対して、「この国と戦っても負ける、もしくは損害が大変だ」と判断させ、侵略をためらわせなければならない。

日本が無資源国という弱点を克服し、エネルギーの面で継戦能力を持つとしよう。中国、北朝鮮、ロシアという危険な国の指導者は日本への侵略にためらうはずだ。戦争の可能性は低下する。日本が国、民間でエネルギーの供給力を持つことが、平和につながるのだ。

日本で安全保障としてのエネルギーをめぐる議論はこれまでほとんど行われてこなかった。今こそ、時代の変化と地政学的なリスクを真正面から受け止め、真剣にエネルギー政策を見直す時が来ている。

ジャーナリスト。経済・環境問題を中心に執筆活動を行う。時事通信社、経済誌副編集長、アゴラ研究所のGEPR(グローバル・エナジー・ポリシー・リサーチ)の運営などを経て、ジャーナリストとして活動。経済情報サイト「with ENERGY」を運営。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。記者と雑誌経営の経験から、企業の広報・コンサルティング、講演活動も行う。