米シンクタンクの研究員は、米国の代理出産市場について、中国人カップルの需要により発展し、また米国で代理出産により生まれた子供が自動的に米国籍を取得できることに対して国家安全保障上の懸念を示した。
米保守系シンクタンク・ヘリテージ財団のリサーチ・アソシエイト、エマ・ウォーターズ氏は11日のエポックTVの番組『クロスロード』のインタビューで、米国の代理出産市場は、商業的な代理出産と体外受精への規制に寛容なカリフォルニア州を中心に約10年前から急成長してきたと語った。
代理出産とは、子供を産めない人が第三者の女性に代わりに産んでもらうことで、倫理面での課題から禁止する国が多く、中国でも法律により禁止されている。代理出産を依頼したい場合、合法化されている米国(禁止されている州もいくつか存在)やウクライナで契約する例がみられる。
そのため、中国人カップルは米国に存在する不妊治療・体外受精専門の婦人科クリニックが提供するサービスを利用し、米国で出産するケースが多いという。
米国は日本の血統主義とは異なり出生地主義を採っており、合衆国憲法修正第14条で出生地主義に基づいて市民権を付与することが規定されているため、米国で代理出産により生まれた子供は両親の国籍に関係なく、米国市民権を取得できる。
またその子供が21歳を過ぎると、両親も申請すれば永住権を取得できる。「従来の方法で市民権を申請するよりも、はるかに早くて安価なプロセスだ」とウォーターズ氏は述べた。
「国家安全保障上の脅威」
ウォーターズ氏は、代理出産を通して外国籍の市民に米国市民権を付与することは「国家安全保障上の重大な脅威」をもたらすと懸念を示した。
「(共産党の)文化に慣れ親しみ、彼らの国に非常に忠実であったとしても、彼らが米国にいるとき、外国籍の者として求職活動や研究室での就労を申請するのではなく、米国市民として申請することができる」と述べた。
また、「代理出産の子供たちがリストアップされているデータベースは公開されておらず、簡単にアクセスすることもできない。そのため、彼らが求人に応募してきたとしても、政府機関や民間企業の雇用主は、彼らがどのような経歴の持ち主なのかを知ることができない」とした。
このような状況は、規制する法律がないために可能になったのだとウォーターズ氏は指摘。
出生地主義をめぐっては、トランプ前大統領が以前から出生地主義を批判、関連制度の廃止を訴えてきた。
ウォーターズ氏は、中国問題を集中的に扱うため設立された米下院の「米国と中国共産党の戦略的競争に関する特別委員会」に対し、商業的な代理出産や体外受精(IVF)によって米国で生まれた中国人の子供を通じた中国共産党の対米工作について徹底的に調査する必要があると提案した。
商業的な代理出産の仕組み
ウォーターズ氏によると、中国人が米国に点在する不妊治療クリニック、特にカリフォルニア州のクリニックに通う場合、「自身の精子と卵子を使って胚を作るか、精子や卵子を購入するかのどちらか」という選択肢があるという。
「多くの場合、彼らは米国に渡るが、現在の技術では胚を作るために中国を離れる必要はない」とした。
そのうえで、「中国のカップルや個人は、米国を拠点とする代理店と契約して、精子や卵子、胚を体外受精ラボに送り、(米国で)雇った代理母に移植して妊娠させることができる」と述べた。
ウォーターズ氏らの最新の調査により、カリフォルニア州を中心に約450の不妊治療クリニックが点在するほか、同州以外にも多くの不妊治療クリニックが存在しているという。また、これらの不妊治療クリニックは「実際中国と直接あるいは間接的なつながりがある」とした。
これらの不妊治療クリニックでは中国語で契約でき、従業員の多くは以前中国に住んでいた医療従事者らで、不妊治療クリニックで勤務あるいは開業するために米国に移住したと指摘した。
ウォーターズ氏は、主要メディアの取材に応じた不妊治療クリニックは「ある年の顧客の最大50%が中国からのものだった」と明かしたと述べた。
情報配信会社「ビジネスワイヤ」によると、米国の代理出産市場は、昨年には80億ドル近く上ると試算され、2028年末までには2倍以上になると予測されている。
倫理上の懸念
ウォーターズ氏は、代理出産市場の成長は「大規模な」人権上の懸念を引き起こしているという。
「この市場の仕組みは、受胎、妊娠、出産のプロセスをできるだけ複数人の間で分離することを意図している」うえ、「代理母は、自分が産む子供と感情的なつながりを持たないように言われる」と述べた。
「意図的であろうとなかろうと、子供は人生の完璧なアクセサリーになるようにデザインできる製品なのだということを親に伝えることになる」と警告した。
また、合法的な代理出産と人身売買との線引きが曖昧化してしまう可能性についても懸念を示した。
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