中国当局は今年上半期だけで、582人の「海外に逃亡した犯罪容疑者」を捕らえていたことがわかった。この動きをめぐっては、中国当局が各国へ不法に設置している「秘密警察」を使っていることもあり、他国の司法主権侵害を裏付ける証拠だとする声も上がっている。
中国中央テレビの7月21日付によると、今年1~6月の半年間に逮捕した海外逃亡犯は582人。没収資産額は19.32億元(約376億円)を超えたという。
中国共産党の機関紙「人民日報」2022年9月7日付は、「5年に及んだ『天網行動』で、合計6900人の海外逃亡者を捉えた」と報道した。このうち328人は強制送還、821人は逮捕、45人は身柄引き渡し手続きによるものだったとしている。
中国語の「天網」とは、国内に張り巡らされた監視カメラのネットワークを指す。この「天網」を駆使し、不正蓄財した資産を国外へ持ち逃げする汚職役人を追跡する捜査を「天網活動」と呼んでいる。これは、不正取得した金品の回収を行い、国内で汚職した者が海外逃亡する道を途絶するために中国当局が展開している腐敗取締り行動の一環である。
米政府系放送局のラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に応じた台北海洋科技大学の呉建忠副教授は、次のようにコメントした。
「(海外からの)身柄引き渡し人数が100人にも満たないのに対して、逮捕者が800人以上もいる。ここで疑問なのは、これらの逮捕は現地の警察や司法部門が行ったものなのか、それとも中国の秘密警察が海外で(中国の)法を執行したのか、ということだ。もちろん中国は、海外での法執行権など持っていない。関係国と犯罪人引渡し条約を締結するしかないが、そうでないならば、これは中国が他国で(非合法に)設立している秘密警察の存在を裏付けるものではないか」と指摘する。
中国側は2021年末、日本円にして26億円の資産を海外に持ち逃げした国有銀行支店長・孫鋒の「逮捕実績」を宣伝していた。孫を逮捕できたのは「500万枚以上の写真のなかから怪しいものを探して、ビッグデータ分析を行った結果、孫の海外の潜伏先が判明したためだ」という。
この件について、呉建忠副教授は「そもそも中国側は、どのようにしてこの500万枚以上の写真を入手したのか」と疑問を呈する。
台湾に在住する、中国政府の異見者である龔与剣(龚与剑)氏はRFAの取材に対し、「中国当局は、海外逃亡者の弱みを握ろうとする。中国内にいる親族や友人を人質にして脅しや圧力をかけることで、本人が自発的に帰国するよう仕向けているのだ。あるいは、外国政府に対して身柄引き渡しを求めるために、逃亡者が刑事犯罪者であるとでっち上げている」と指摘した。
スペインに本部を置く人権監視団体NGO 「セーフガード・ディフェンダーズ」による昨年末の発表によると、世界に展開されている中国の海外警察の拠点は53カ国にのぼり、少なくとも102カ所が確認されている。
こうした中国の「海外警察」について中国側は「腐敗撲滅」を建前としその意義を強調しているが、実際の主な目的は、海外で活動する民主活動家や反体制異見者などを監視し弾圧を行うことにある。
中国政府が海外に設置した「中国海外警察」は、当然ながら現地国にとって非合法組織である。そのため、各国政府が相次ぎ調査に乗り出している。
この「中国海外警察」は日本にも存在していることが分かっており、工作員が日本でも暗躍しているが、日本の公安当局はそれら「海外警察」の完全取り締まりには至っていない。
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