中国で臓器移植した日本人はたった175人? 識者「もっといるだろう」

2023/07/20
更新: 2024/07/27

海外渡航移植をあっせんするNPO団体の摘発事件を受け、厚生労働省が医療機関に対して行った実態調査では、中国で移植手術を受けた日本人は175人だと公表された。これに対し、海外渡航移植問題を追う識者らは「もっといるだろう」と考え、調査結果は不完全なものであるとの見方を示した。

読売新聞が伝えた捜査関係者の話によれば、摘発したNPO団体の事務所から150人分の患者名簿を押収された。海外渡航移植を追うジャーナリストで作家の高橋幸春氏は、NPO団体が中国での移植を中心に請け負っていたことから、名簿の「大半が中国ではないか」と指摘する。

加えて、中国渡航移植をあっせんする団体は他にも存在する。その一つがN氏が率いた団体だ。当時の報道によれば、N氏が中国渡航移植のために仲介した日本人は04年から06年にかけて200人にのぼる。

さらに、中国人医師と懇意になり、「個別にあっせん」する場合もあるという。「医師や厚生労働省は実態を語っていないだろう」と高橋氏は指摘する。

コロナ禍を経て中国渡航は以前ほど容易ではなくなったが、感染拡大直前の2020年初頭、日本人はビザなしで中国への入国および15日間の滞在が可能だった。

渡航移植問題を10年以上にわたり調査する国際機関「法輪功迫害追跡調査国際(WOIPFG)」の調査協力者(匿名)によれば、日本人の場合、この15日間の滞在期間中に移植手術を受け、帰国することも不可能ではなかった。

直近でも、日中間で臓器移植手術が迅速に行われた例が確認されている。「日中命のバトン」と日本のメディアにうたわれた、中国人実習生のケースだ。

3年前、愛知県に滞在していた中国人実習生が重度の心臓病を患い、心臓移植手術のため中国に帰国した。女性は領事館が手配したチャーター機で武漢の協同病院に到着すると、わずか10日間で4つの移植用心臓が提供された。

なぜ、これほどまでの短期間で提供が可能なのか。豪マカリー大学のウェンディー・ロジャーズ教授(臨床倫理学)によれば、中国の臓器提供システムは通常とは「逆方向」のマッチングを行なっているのだ。

ドナー制度が整備された国では通常、死体から合法的に摘出された臓器が移植待機リストに載る患者に提供される。中国では逆だ。大量の収監者のなかから、移植希望患者の体組織に最も適した臓器を持つ人が選別され、都合次第で処刑されている」

日中友好協会を通じて

日本人が中国で行う臓器移植には、日中友好協会の関与も確認されている。

中国政府は07年5月、「臓器移植法」を施行し臓器売買を禁止した。さらに同年7月の通知「外国人への臓器移植の適用についての問題」では、旅行で訪中する外国人に移植手術を行うことを禁じた。

N氏は、中国が外国人に対する移植手術を規制して以降も中国渡航のあっせんを試みている。

09年、N氏は中国渡航の案内文を発表していた。日中友好協会を通じて、中国の高官との特別な承諾を得たとして、渡航移植のセミナーを開催している。そこには次のように関われている。

「中国から良い情報が入ってきました」、「日中友好協会の関係で、在日中国人で医師の方のご協力を頂き、中国衛生部の高官内諾の上、ビジネスヴィザによる日本人患者受け入れの窓口を開けて頂きました」(原文ママ)

案内によれば、中国渡航移植をあっせんする団体は違法に中国人名義の個人番号を作成している。日本人の移植希望患者を中国人になりすませることで、移植手術を受けさせていたという。しかし、上記の通り高官の承諾を経て商用ビザの交付を受ければ、手術を「正規に受けられる」と謳っている。

N氏は07年10月に「違法な臓器移植」を斡旋したとして上海で逮捕されている。これは、カナダの人権弁護士デービッド・マタス氏らがまとめた報告書「血塗られた臓器狩り」が発表された翌年のことだった。マタス氏の報告書は国際社会を轟かせ、中国における未曾有の人道犯罪を白日の下に晒した。

「N氏の逮捕はスケープゴートだったのではないか。中国の問題である臓器狩りを『外国人による臓器犯罪』に仕立て上げるためだ。実際の臓器狩りの主犯は共産党である」と前出の調査協力者は指摘する。

中国時事評論家の陳思敏氏は、今般のNPO団体の摘発は、道徳を問う人道犯罪に対し日本政府が注目し始めたことを端的に示しており、「日本政府は、自国民が中国共産党の反人道的罪に加担しないよう注視しているのではないか」と分析した。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。