今月11日、山西省朔州市で、街の清掃員をしている王という男(55歲)がその上司(グループリーダー)を棒のようなもので繰り返し殴打し、死亡させる事件が起きた。
犯行の動機は、容疑者の男が清掃を担当していた区域で「ゴミ(ビニール袋)が残っていた」とする苦情が市民から寄せられたため、その上司が「5元(約100円)の罰金を科した」ことがきっかけとされている。
地元警察は、逃亡していた王容疑者に「3万元(約60万円)の懸賞金」をつけて行方を追っていたが、13日に「逮捕した」と発表している。
「たった5元」が人を狂気に駆り立てた
あまりにも小額のペナルティをめぐって殺人が起きたという異常性もあり、「5元の罰金をめぐり、清掃員が隊長(上司)を殺害」の話題は事件の翌日、中国SNSウェイボー(微博)のホットリサーチ1位にランクインした。
ネット上には清掃員の制服を着た男が、街の路上で長い棒のようなものを使い、地面に倒れて動かなくなったもう1人の男性を繰り返し殴る様子を捉えた現場動画も拡散されている。動画のなかで、通行人がその行為を制止したが、容疑者の男はその場から逃走した。
動機について、ある地元民はSNSに「容疑者の王は、地面にビニール袋が落ちているという苦情が寄せられたことで、隊長(上司)から5元の罰金を科されたことがきっかけで(犯行に及んだので)はないか」と投稿している。
中国メディア「新京報」も、情報筋の話として、確かに王容疑者は罰金5元をめぐり(被害者と)口論となり、犯行に及んだと報じている。
王容疑者が所属する清掃会社の職員によると、清掃員が担当する区域内で「証拠写真」付きの苦情が寄せられた場合、罰金が科されるのは通常のことだとしている。
「ラクダの背骨を折った最後の藁」だったのか?
もちろん、殺人は重大な犯罪であり、犯行に同情の余地はない。
ただ、今回の事件は中国社会の低層に生きる人々の苦しさを浮き彫りにしたともいえる。そのためネット上では、5元(約100円)という金額の多寡だけでなく、事件の動機や「ラクダの背骨を折った最後の藁」となった5元の重みに関する熱い議論が交わされている。
これをきっかけに、容疑者の置かれた窮境がどんなものであるかを理解しようとして「街の清掃員」の給料や待遇について調べ出す人も少なくない。
関連投稿によると、容疑者のいる山西省の町の清掃員の給料は月2千元(約4万円)ほどだという。給与から諸経費が引かれれば、手取りの金額はさらに少なくなる。
清掃員には年を取っている人が多く、炎天下でも、寒風が吹く季節でも低賃金の重労働は変わらない。そこへ、通りかかった市民が気まぐれに撮った写真付きの苦情が寄せられれば、たとえビニール袋1枚でも、少ない収入からさらに5元が引かれてしまうのだ。
「町の清掃員をするのは外部から来た農民労働者であることが多い。彼らは日常的に清掃会社から搾取され、我慢に我慢を強いられている」「この5元は初めての罰金ではないだろう。そして最後の罰金でもないだろう」とするコメントには多くの「いいね!」がついており、容疑者の男が置かれてきた苦しい境遇に心を寄せる声が広がっている。
警察が出していた「3万元の懸賞金通告」をめぐっても、ネット民の受け止め方はさまざまだ。
なかには、犯人の男に同情して「俺も金はないが、こんな金(懸賞金)をもらったらロクなことはない。良心の呵責に苛まれる」といった声も広がっている。
そのほか「(まだ逃亡中である)この男を見かけたら、食べ物とふとんを提供してやって」と呼び掛けるコメントにも、多くの賛同が集まった。
「社会報復」とみられるような無差別殺人が続発する現代の中国。ささいな事がきっかけで、人を狂気に走らせる要素が充満しているといっても過言ではない。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。